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東湾岸シーライン

 王国初の自動車専用道路が開通した。正式名称は『王国東湾岸自動車専用道路シーライン』であるが、光治郎たちは単に『東湾岸シーライン』と呼んでいた。

 それに伴い、村と休憩所にも名前が付けられ、東の森の最深部にあった村はマールドム、唯一の海辺の村はレイターリア、フォレストラインの休憩所になっている場所はレスパスとなり、来年には村として入植が始まる予定である。


 時速80km。ゆったりと海辺を走るには最適だ。

 光治郎はトヨタ スプリンタートレノのハンドルを握り、光輝く海を横に見ながら駆け抜けていた。


「こんなに気持ちがいいとは思わなかったわ。自動車って単なる移動手段じゃないのね」

「ああ、ドライブは俺たちの世界では立派な趣味の一つなんだ」


 淡い色のノースリーブのニットがエルフの白い肌に冴え、光治郎はパレッタに少しドキッとする。そのパレッタも最近は鉄に対してのアレルギーがなくなったらしく、気持ちよさそうに窓を開けて片手を外に出している。


「後ろの連中はちゃんと着いて来てるかな」

「大丈夫よ。陛下も喜んでいるみたい」


 今日は初めての正式な走行会なのだ。

 空は快晴。風も大したことはない。絶好のドライブ日和である。


 光治郎のトレノの後ろには、騎士のフェリスティンが運転するロールスロイス・シルバークラウドIII、その後ろに村長のロータス・エラン、次がバルレイズ男爵のキャデラック・エルドラド、そしてしんがりが浩史の運転するマツダ MX-5である。


「こんなことなら俺もカブリオレにしとくんだったなぁ」

「いやよ。窓を開けて風を入れるぐらいがちょうどいいもの」

「それもそうか」


 光治郎がトレノを選んだのには理由がある。

 小さくて機敏な車であること。何か起こってもすぐに対処するならこういう車がいい。他と違って国産の車というのもある。旧車とはいえ、やはり信頼性が違う。 



 さて、他の車はどうなっているのか。

 同乗者は以下の通り。


 ロールスには当然、陛下が乗っているのだが、口煩い貴族と正聖騎士団の団長が両脇を固めている。

 村長は孫娘のフレイヤ。バルレイズ男爵は夫人を。そして意外にも浩史の隣には消防団団長にして水魔法使いのエミリアが同乗していた。


 はっきり言って陛下は可哀想だと思う。

 皇后陛下や王女殿下を連れて行きたかったのに、貴族と騎士団が邪魔をしたのだ。陛下のロールスを騎馬で護衛すると言い張り、それを取り下げさせるのは大変だった。


 絶対的な速度差と航続距離。

 その二つが無理な理由なのだが、説明しても「王国騎士団の騎馬をバカにするのか」と取り合わない。結局、貴族の代表と騎士団の代表が陛下を車内で守るという線で決着したが、はっきり言って陛下は可哀想。


「まさかこんなに人気になるとはな」

「そうかしら。少なくとも陛下の車に乗っているのは、自動車反対派の二人よ」

「その話じゃなくてさ。村の住人についてだよ」

「ああ、そっち……。それだけ王国が海を欲していた、っていうことよ」


 それは今回の件でよくわかった。

 帰ることのできない瘴気の立ち込める東の森に、遠征部隊は決死の覚悟で向かっていった。いくら彼らの目的が森の最深部の村に残る村人たちを助けることだったとしても、普通なら尻込みしそうなものである。

 とにかく王国の民の中には海への情熱が渦巻いていたらしい。


「どの村も入植希望者が多くて制限するのが大変だって、陛下も言ってたからなあ」

「瘴気が弱まったとは言っても決して楽な暮らしじゃないはずなのにね」


 森の最深部の村マールドムは王国の直轄となったため、引退した騎士やかつて要職にあったものたちが優先して住むことになった。何もない村で一から畑を耕すことが必要だし、魔物の脅威もなくなったわけではない。果たして現役でない者に対処できるかがちょっと不安である。その点で言えば海辺の村レイターリアは貴族と商人たちに人気が高く、豊富な資金が投入されてリゾート地となりそう。最後のフォレストラインの休憩所であるレスパスはかつて東の森にあった村に住んでいたものたちが、移住を希望していた。彼らの暮らしが安定するか否かはどれだけの人がフォレストラインを利用するかにかかっている。


「まあ、いいんじゃない。うちとしてもガソリンスタンドの維持と経営してもらうだけでありがたいから金は出すし」

「成金コージローね」

「……やめてくれ」


 バカ話を続けていると爆音を上げて追い越し車線を猛然とダッシュしてくる車がある。


 キャデラックだ。


「ヘイ! コージロー。こいつぁ、ゴキゲンだな。南部にも高速道路を引いてくんねぇか」

「無理だって。金もかかるし、馬車を使う人もいるんだから」


 バルレイズ男爵はリーゼントに黒の革ジャン、下は光治郎が渡したビンテージのジーンズ。そして、どうやって手に入れたのかでかいサングラスに編み上げのブーツまで。

 隣にいる男爵夫人も昔の西部時代のようなドレスでキメているし、どうやってこんなコーディネートをしたものやら。


「何にしても今日はありがとよ。先に行かせてもらうぜ」

「あんまり飛ばすなよ」


 140km以上出ているだろう。

 オープンカーだとしんどいだろうに。


 だいたい、陛下の車を追い越して後でお叱りを受けたりしないのだろうか。



 すでに日は西に傾きかけていた。

 ここから道は二手に分かれる。一方は折り返してレイターリアに向かう道、もう一方は右に折れて森に入り、やがてフォレストラインに繋がる道である。

 今日の予定は折り返しのはずなのだが、男爵は森の道を進むつもりかも知れない。


 するとそこにMX-5が。


「社長。男爵には私がついてきますから」

「お願いするわ。流石に陛下を放って置けないしな」


 どうやら浩史が何かあったときのために、男爵の車につきそうつもりのようだ。


 助かる。

 陛下たちの側近はすでにレイターリアでキャンプを張っているはずなので、付き合うわけにいかない。


 ブゥンとアクセルを蒸すと同時に「ヘェイ!」と声が上がる。

 浩史に同乗しているエミリアも結構楽しんでいるようだ。



 光治郎は窓から手を出して左の道を指差す。

 シルバークラウドとエランが追従して曲がってくるのを確認しつつ、減速しつつカーブを曲がるとそのまま折り返しの道へ。


「ここにも村があるといいわね」

「ああ、この辺は水深が取れるから大きな船が入れるからな。王国の貿易拠点になったらいいと思ってるんだ」


 折り返しの道に入ると光治郎はアクセルを踏んだ。

 終点のレイターリアでは、陛下の側近たちと村の住民が、海の幸を釣り上げて夕飯を用意してくれるらしい。


「大丈夫? こんなスピード出して」

「もちろん」

「コージローの心配なんてしてないわ。陛下と村長の車よ」

「それも平気だよ。音を聞けばわかる」


 光治郎は思う。

 異世界で初めて車を満足させてやれたかな、と。


 トヨタもロールスもロータスも。

 彼には初めての本領発揮を喜んでいるように思えた。


 体調を崩してしまい更新が遅くなりました。

 申し訳ありません。


 今後についてですが。

 この後の話のプロットを少し練りたいので数日いただくことになると思います。


 もう終盤ですが、あと少し、このお話にお付き合いいただければありがたいです。

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