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異世界の空に

 翼竜騎士団北部基地に到着したのは午前三時すぎだった。


 ラクタルから50kmを二時間で走破。町とは馬車で行き来する必要があるため道幅は広い。だが、傾斜がそれなりにある未舗装の山道を進んできたことを考えるとなかなかのスピードである。


「凄いな。初めて乗ったが自動車というのは、これほどのものなのか」

「ええ、この車は山道を進むためにできてますから。すべての車がここまで山も登れるわけではありません」


 隊長も自動車を見たのはこれが初めてではない。


 王都で陛下に献上されたロールスロイスは見事なものだった。

 農村で馬車の代わりに走っている風景を目にするのも最近は珍しくない。



 だが、この車はそれとは全然別物なのだ。


 正直に言うと、ここまで道が整備されているとは思わなかった。そうと知ってたらわざわざ、ランクルなんぞをレストアする必要はなかったかもしれない。

 だが、今だから言えることだし、もし雨が降っていたらこの山道に四駆以外は役に立たない。



 などと考えているうちにどうやら到着したらしい。


「最後の坂だ。登り切ったところが開けている。そこに我々の基地がある」

「どこに止めればいいですか」

「管理棟に近い方がいいな。竜舎にあまり近いところでなければどこでもいいんだが」

「竜舎ですか。聞き慣れない言葉ですが……。おおっ、これかぁ。スケールが違う!」


 一気に視界が開け、王国翼竜騎士団北部基地に到着した。


 光治郎の第一印象は予想を遥かに上回っていた。広い、そして何もかもデカイ。まさか東京ドームなん個分みたいな規模だとは思わなかった。なるほど、ここまでであればどこに車を停めるかを問題にする必要はない。


 中央には何もない。草も綺麗に刈られていて、踏み固められた土が剥き出しになっている。

 左手には妙に背が高く、入り口がやたら広い倉庫のような建物が十棟、おそらくあれが竜舎なのだろう。


「一体ずつ別々の建物なんですね」

「ああ、スケジュールによって、寝る時間が違うからな。翼竜に負担をかけないようにだ」

「なるほど」


 右手には、四棟の建物が集まっている。

 

「ここですか」

「ああ、そうだ。手前から管理棟、訓練棟、宿舎、倉庫になる」

「確か管理棟に近い方がいいんでしたね」

「ああ、朝まで仮眠を取りたいところだが、一応作戦編成を決めておかなければならないからな」

「わかりました」


 光治郎は車を管理棟の脇に停めた。

 案内されるまま中に入ると、全員が敬礼を返してくる。


 隊長がその中の一人に何かを囁いた。

 それを聞いた隊員が数人を伴って外に飛び出していく。


「会議室を使う」

「すぐに準備します」

「それと、朝まで仮眠をとった後、王都東の森へ向かう。翼竜の世話を頼めるか」

「えっ!」


 思わず返答に詰まったのだろう。

 ほかの団員たちにも動揺が広がっているのがわかる。


「この件はここにいる者以外に知らせてはならん。それと、返事」

「り、了解しました」


 さすがに騎士団は厳しい。

 おまけに真夜中に翼竜の世話とは、ご苦労さまである。



「疲れているところ申し訳ないが、翼竜の編成を決めておかねばなりません。短い時間で終わらせますので、打ち合わせにお付き合い願えますか」

「「「「はい」」」」

「支援資材の積み下ろしは?」

「大丈夫です。すでに手配してありますので」


 さっき、団員にささやいていたのはこれか。

 本当に用意周到な隊長さんである。


 光治郎はこれならうまく行くのではないか、と根拠のない手応えを感じていた。



 騎士団員に案内されるまま会議室に移動。打ち合わせが始まった。

 部屋にいるのは、隊長、副隊長、光治郎、浩史、パレッタ、エミリアである。騎士団員はお茶を全員に注いだあと、戻って行った。隊長が部屋に鍵をかける。

 その様子に光治郎たちは、一瞬緊張する。


「すいません。他意はないんですが、あまり他の団員には聞かせたくないもので」

「それはどういう」

「志願者が殺到するからですよ」


 なるほど、それはよくわかる。

 カイウェルの様子を見ていれば。


「それでは早速だが、作戦概要を発表する。まず編成だが、東の森に向かう予定の翼竜は三体。操縦者は私、副隊長、そしてパレッタ殿」

「わ、私は?」


 思わずカイウェルが声を上げた。

 今回の救援作戦は自分が中心だと思っていのだ。


「お前は連れて行けないぞ」

「な、なぜですか、隊長! それにパレッタ殿に交渉したのは私です」

「それが独断専行の命令違反だとわかっているか」

「ですが、私の翼竜は気性が荒く他のものに操縦は難しいと思います」


 恐らく、それは理由にならないと自分でもわかっているはずだ。


「お前の翼竜は使わん。この基地に常駐している翼竜を借り受ける。すでに手配も済んでいる」

「ここの翼竜は小型ばかりです。王都東の森の上空を飛ぶには役不足です」

「パレッタ殿とエミリア殿なら女性二人である。十分だ」


 どうしても行きたい。

 しかし、これ以上は主張すべき事柄が見つからない。


 隊長はそこで表情を緩めた。

 それまでの厳しい口調から、まるで優しい父親のように。


「お前の行動が今回の作戦立案に大きな貢献をした。私も感謝しているのだ。一度は諦めた友を救えるかもしれないのだから。だが、カイウェル。それを公的に認めるわけにもいかない」

「はい。独断専行の罰は受けます」

「ああ、それもある……だが、もう一つ大事なことを忘れている。お前が王都から飛び出した時、自分の相方の状態を確認したか? 飛行時の翼竜用行動食も持たず、全速力で北部まで飛んできたはずだ。明日の朝、連日の強行に連れ出したらどうなる」

「…………考えてませんでした」

「そういうところだ。翼竜騎士団は、竜を使い潰すところではない。非常な決断を下すことが必要な場合もある。だが、ほとんどの団員は生涯の相棒として共に過ごす存在なのだ。今回は安め、お前自身も疲れているはずだ」

「わかりました。ですが、明日の朝、見送りだけはさせて下さい」

「いいだろう」


 カイウェルは名残惜しそうに一礼すると、会議室を後にした。

 隊長は表情を再び引き締める。


「作戦決行は七時。操縦者はさきほど言った通りだが、同乗者は私の後ろにコージロー殿、パレッタ殿の後ろにエミリア。副団長は支援資材を運んでもらうため同乗者はなしとする。パレッタ殿の翼竜は少し小型になるが問題ないか」

「大丈夫です」

「それでは、これから宿舎に移動。二時間程度だが仮眠を取ることとする。何か質問は」


 光治郎が手を挙げた。


「どういうコースをとる予定ですか」

「消息を絶った地点に直行する。王都に寄ってからだと遠回りになるし、翼竜の負担も大きい」

「王都まで行かなくとも、遠征部隊が森に入った地点から行くことはできませんか?」

「それくらいなら問題ないが……何か思うところがあるのか」

「以前、遭難者の捜索隊に同行したことがあったんですが、消息をたった地点だけにこだわって発見が遅れたことがあって。今回みたいに途中までの経路がわかっている場合は、なるべく辿っていった方がいいと聞いたことがあるんです」

「いいだろう。もとより、コージロー殿の発案で実現した作戦だ。元の地図だけでなく進行経路部分を拡大して、翼竜の背中でも見られるように手配しておく」

「ありがとうございます」


 会議は終了した。

 用意してもらった宿舎で短い仮眠をとった後、朝イチで出発だ。




 翌朝、眠い目を擦り、簡単な食事を済ませた後、外に出る。

 寒い、快晴、そして三体の翼竜。


 整備を担当している団員の一人はカイウェルである。


「おはようございます。コージロー殿」

「整備も担当しているんですか」

「いえ、自分は参加できないので。せめて何か協力できないか、と」

「そうですか」


 それ以上、何と言ったらいいかわからない。

 行きたいんだろうな、とは思うがそれに触れるのも……。


「ああ、気にしないで下さい。それより、町でピートさんの隣にいた方から渡されたものなんですが」

「何だろう……あっ、これは!」


 見覚えがある。


 パジェロで魔物と対決した時、ウォッシャー液に入っていたものだ。ただの水であるはずがない。

 中身は魔物の脅威を抑え続けた聖水に違いない。


「サティだな。ありがたい」


 ピートの隣にいたのだ。間違いない。

 今回も教会でもらってきてくれたのだろう。



「そろそろ飛びます。準備はどうですか」

「120%」


 その答えに隊長が声を出して笑う。


 翼竜が羽ばたく。

 三峰光治郎は、初めて異世界の空に飛び立った。

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