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救援要請

 王都から騎士がやってきた。

 陛下から使いの者が来るのは何度かあったが、騎士が訪ねてくるのは珍しい。


「パレッタ殿はいらっしゃいますか」


 光治郎は自分の来客でないと知り、ホッとしていた。

 陛下からの呼び出しは緊張する。



 パレッタは奥にいる。

 ここ数日、フレイヤが村長の手伝いをしているので、ガレージの雑用をやってくれているのだ。


「ちょっとこちらで待っててもらえますか」

「はい。ありがとうございます」


(緊張した面持ちだな。よくないことでも起こってなきゃいいが)


 光治郎は応接室に騎士を案内した。

 この感じだとかなり込み入った話になりそうだからだ。


 うっかり関わり合いになるとロクなことにならない……と思ったのだが。


「ちょっと、コージロー、一緒に聞いてくれる」


 これは巻き込まれる流れである。



 応接室に入ると、騎士は王国の地図を広げていた。

 赤い印が数カ所に付いており、その横には日付がある。


「今月、東の森へ向かった遠征軍が消息を断ちました」

「それはいつのことですか」

「正確にはわかりませんが、遭難と判断したのは昨日です」

「その根拠は」

「魔鳥の連絡が一週間以上、途絶えたままです」


 騎士もパレッタも沈痛な面持ちである。

 だが、光治郎にはどうにもわからないことがある。


 なぜ、昨日遭難と判断したのに、今日知らせに来られるのか?

 王都とこの村は300km離れているのだ。


 最速の馬車でも三日。

 陛下の部下で自動車を常用している人はいないし、使ったとしても一日半はかかる。


「あのー騎士様はどうやってきたんですか?」

「あっ、カイウェルです。私は翼竜で飛んできました」

「翼竜! そんな交通手段があるんですか」


 パレッタが立ち上がった。

 驚いている光治郎に、棚に載っている置物を見せる。


「これ、何だと思ってたの」


 ピートが新婚旅行に行った時のお土産は、金メッキされた翌竜像である。

 その台座のプレートには ”王都翼竜騎士団” とある。


「陛下から即日の呼び出しも過去にあったでしょう」

「あっ! そういえば」

「……長くなりそうだから、お茶を入れ替えてくるわ」


 呆れた口調でパレッタは給湯室に行ってしまった。



「えー、すいません。もう一度、詳しい話をお願いできますか」

「はい。実は王都の東には広大な森が広がっておりまして……」


 その話は知っている。

 つい、三日前に聞いたばかりだ。



 パレッタが戻ってきた。


「話を続けて下さい」

「わかりました。現状、彼らがどんな状況にあるかわかりません。一刻も早く、救援隊を送る必要があるのです。パレッタ殿に同行していただきたくて」

「無理よ。私が行っても」

「そこを何とか」

「彼女を頼りたいのはわかりますが、こんなところに相談に来る前に、王都で救援部隊を編成して早く向かった方がいいんじゃないですか」


 遭難で一番大事なのは迅速に行動すること。

 それに反論しようとするカイウェルをパレッタが止めた。


「待って、コージロー。そう簡単にいかないのよ」

「ええ、王都にいる者を集めても救えないどころか、生きて帰ることすら難しいのです」

「わかった。今のままでは、救援部隊も二重遭難確定、ってわけだ。詳しく教えてくれ」



 そこからは、遠征軍に参加した経験のあるパレッタが話を進めることになった。

 救援が難しい理由の第一はメンバーの問題であると言う。


「王都の東の森は魔素が濃くてね。過去の王が編成した大部隊の損耗率は60%を超えていた」

「死にに行くようなもんじゃないか」

「さすがに今は特別な訓練をしているから、そんなことはないけれど、過酷な環境であることは変わらない。問題はその訓練を受けているのは現在遭難している遠征軍の隊員のみである、ってことなの」

「パレッタは平気なのか?」

「ええ、私は森の民だし、結界も張れるから」


 そういえば、山の霊木に魂の半分があるんだっけ。

 火の魔力が凄いのは光治郎も知っている。パジェロに搭載された魔法陣も凄かったし。


「是非とも同行をお願いしたい。彼らを救えるのはパレッタ殿だけなのです」

「だから、無理よ。第一どうやっていくの? 今からコージローに車を出してもらっても、王都に到着するは明後日の夕方よ。そこから最低限の準備を整えて、森に向かったとして生存者がいるとは思えない」

「……そうですね。よく考えればメンバーもいません。奇跡的にパレッタ殿の部隊が救援に間に合ったとしても、ほとんどの者が生きて帰れないでしょう」

「陛下だって、許さないと思うわ」


 沈痛な表情のカイウェルとパレッタ。


 この「詰み」とも言える状況の中で、光治郎には一つのアイデアがあった。

 だが、雰囲気が暗すぎて口にするのはどうにも憚られる。


(空からじゃダメなのかよ)


「何か思いついたのね」

「えっ、なんでわかった」


 光治郎のひとりごとをパレッタは見逃さなかった。


「話してみて」

「素人の思いつきだぞ」

「お願いします。陛下の信頼が厚いコージローの案なら、間違いありません」

「いや、そこまで言われると言いにくいんだが……。まあ、いいか。俺が考えたのは『翼竜で行ったらどうか』、ってことなんだよ」


 画期的な案だった。

 王都によらず直接森の深部まで向かうなら、魔素の影響を受けず時間も最短である。


 確かにこれしかないとパレッタも思う。

 だが、カイウェルは肩を落とした。



「それは無理です。森の中には翼竜が降りられる場所がありません。例え何らかの方法で場所が確保できたとしても、空から翼竜ほどの大きさのものが降りてくれば、魔物が集まってきます。迎撃されたらひとたまりもありません」


 だが、それが理由ならまだ方法はあると光治郎は踏んだ。


「ふーん、どれくらいまでなら降りられる」

「そうですね。森の木のてっぺんから10mぐらいまでです」

「その距離から遠征軍は発見できるか?」

「おそらくは」


 それならやりようはあるのではないか。

 確かに連れて帰るのが一番だが、彼らを救う方法はあると光治郎は思う。


「それならこんなのはどうだ。パレッタの魔法で遠征軍の付近にいる魔物たちの中心を攻撃する。降りるかどうかは別にして、半径20mぐらいの木々を焼き払って救援資材を投下できれば、そいつらもなんとかできそうじゃん」

「そ、そんな方法が!」

「私も、その方法なら行けると思うわ」


 カイウェルが立ち上がり、すぐに出発の準備をしようと言い出す。

 それをパレッタが止め、隣の部屋に行ってアレクに何事か話して戻ってきた。


「カイウェル、この村に救援資材なんてないのよ」

「では、どうすれば」

「今、アレクにピートを呼びに行ってもらっているわ。彼にラクタルの町に行ってもらう」


 光治郎は戸惑うカイウェルを座らせた。

 パレッタがやろうとしていることがわかったのだ。


「翼竜はどこにいるんだ。そこまでの道は広いのか」

「ここから西に50kmぐらい行ったところにある山の中腹です。道は大型の馬車が十分通れます」

「そういうことなら資材の準備は任せておけばいい。あいつが行けば町長が動いてくれるだろう。こっちはこっちで準備を始めよう。カイウェルさん。手伝ってくれるか」

「もちろんです!」


 光治郎は浩史を呼び、カイウェルを紹介した。

 山の上となれば、パジェロの出番である。


 最近は出番がないので、一通りの整備が必要だろう。

 そう思って、駐車スペースに行こうとしたところ――



「社長、資材はかなり多いみたいです。パジェロじゃ無理かもしれません」

「じゃあ、どうする」

「あれを使いましょう」


 浩史が何を言いたいかはすぐにわかる。

 こんな時にか、と光治郎は思ったが、その車こそこんな時に輝く車である。


「しゃーねーな。苦しい時の神頼みだ」


 急遽、要望書を書き上げ、神棚に”お供え” する。


「急ぎで申し訳ありません。でも、どうしても助けたい人がいるんです。毎度毎度無理ばかりですみませんがよろしく」


 いつもより、深く礼をしてパンパンと柏手を打つ。

 部屋を開けると二柱リフトには、待望の車が鎮座していた。

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