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ラジオ

 テストコースの運用が軌道に乗ってからというもの、ガレージの仕事はとてもスムーズに回っている。


 溜まっていたレストアのバックオーダー。その数、三十有余台。

 光治郎、浩史、アレクの三人でやっていたら、年単位の時間がかかるところだった。


 それが、今は週に五台以上、出荷が可能になっている。

 その理由は……。


「一台上がったぞ」

「よーし、次の車を運んでこい」


 指示を出しているのも、指示で動いているのも光治郎たちではない。

 テストコースを作ったドワーフたちがそのままメカニックとして働いてくれているのだ。


「親方、いいのか。王都に帰らなくて。馬車の注文だって入ってるんだろう?」

「ああ、それは止めてもらった。どうしても、って連中には『自動車を注文すりゃあ、いいだろ』と言ってある。あの錬金術師と陛下の配下の連中が、次から次へと出荷しているらしいしな」

「でも、このまま自動車のメカニックになるつもりはないんだろう」

「そりゃ、まあな。だが、今のままじゃあ、何をこさえてもロクなもんにならん。ここでコージローにみっちり仕込んで貰えば、次に作る馬車はすごいもんになる」


 それなら、まあいいか、と光治郎は思う。

 三峰モータース王都臨時ガレージは、頑張っているらしいし、技術を馬車にフィードバックするのは構わない。王国の流通状況を考えると、車両はもっと必要だからだ。

 幸い街道沿いに作った休憩場所とガソリンスタンドはうまく機能しているらしく、王国の町と町を結ぶ交通網は以前とは比べ物にならないほど充実している。



 おかけで仕事にあぶれがちなのはアレクである。


 だが、浩史がうまくフォローしてくれているから、大丈夫だろう。二人には本来の仕事を請け負ってもらっている。

 この世界に来てからというもの車のレストアが本業のようになっているが、元々三峰モータースは修理工場である。


「オイルパンの洗浄終わりました」

「オイル漏れはそこだけか?」

「はい。ただ、サスのブッシュがへたってるので一緒に交換しときます」

「ガスケットも忘れんなよ」

「わかってます。オイルフィルターもですよね」


 もう、何も言わなくても自分から仕事を見つけて動けている。

 浩史はエンジン周りのオーバーホールをした後、アレクの仕事について最終チェックを行う。


「どうだ、浩史。アレクの様子は」

「問題ありません。生真面目なヤツですからね。手を抜くこともありませんし、最近は手慣れてきて仕事が早いです」

「成長してるなあ。もう、町田と広橋より上か?」

「いや、流石にそこまでは……電装系についちぁあ単純な交換以外任せられませんから」


 確かにアレクの仕事ぶりは素晴らしい。

 だが、科学的な知識。とりわけ電気の振る舞いについて、理解することが難しい。

 光治郎は日本にいた時の若手社員と比べたが、板金と足回りの定番修理をこなせるだけでは、メカニックとしては半人前以下である。


 そういう意味では、あの王都の錬金術師はかなり特殊なケースである。

 あの三人は自分たちの研究だけで、電気の基本的な性質について一通り理解していたのだから。


「終わりました。ドワーフたちの手伝いを回りますか」

「いや、いいよ。少し休んでて。お前も働き詰めだろ」

「ええ、まあ……。ですが、もしよければ少し教えて欲しいことがありまして」

「なんでも聞いてくれて構わないぞ」


 最近では、自分から車について質問してくるようになった。

 全く頼もしくなったもんだと思っていたのだが……


 アレクは修理が完了した車のドアを開け、ダッシュボードの真ん中を指差す。


「あれは何ですか。形は違いますが、どの車にもついてますよね」

「それは……。うーん、どうしたもんか」

「教えて下さいよ。何に使うものか知りたいんです。ちゃんと聞きますから」

「いや、意地悪してるわけじゃなくてなあ。浩史、どうやって説明すりゃいいんだ?」

「私にもわかりません」


 それはラジオだというのは簡単である。

 だが、名前だけ教えても意味はない。用途を説明しても理解できるかどうか。


 ここは異世界。

 放送局は存在しないのだ。


「それで音楽を楽しんだり、天気予報を知ったりできるんだよ」

「どうやってですか」

「それが……今は使えないんだ」

「そうなんですか。それじゃあ下ろしますか。村長が『余計な物はおろすに限る。軽い車は正義だ』なんて言ってましたから」

「いや、その……なんだ。今はそのままにしておいてくれ。そのうち使う時が来るかもしれないが」

「……そうなんですね。わかりました」


 申し訳ない、アレク。

 なんでも聞いてくれ、と言ったのに全く説明できなかった。


 しかし、確かにこの世界では無用の長物であることは間違いない。

 アレクの言う通り、外すことも考えるべきかなと考えていると――


「社長、やってみませんか?」

「何をだ」

「ラジオですよ。ラジオ。神様に言って放送局の資材一式送ってもらうわけにはいきませんかね」

「無理だろう。“補助するのはレストアに直接関係するものだけ”って約束になってるし」

「じゃあ、今ある機材を使うんなら文句ないですよね」

「どうかなぁ」


 光治郎にとって、浩史との付き合いは長い。

 変なところにツボのある男だとは知っていたが、ここまで乗り気な理由がわからない。


「パレッタさんに頼めば、天気予報ぐらいできるんじゃないですかね」

「ど、どうかな」

「サティに歌でも歌ってもらえば、人気が出るかもしれませんよ」

「ピートがなんて言うか……っておい」

「ちょっと、機材を調達してきます」


 シャッターを開けて飛び出して行ったが、村の中に送信機なんかあるはずがない。

 しばらくして、帰ってきたが様子が変だ。


 落胆しているようにも見えるし、妙に納得ずくであるようにも見える。


「ダメだったのか」

「はい。天気予報はできない、って。サティも恥ずかしいから歌うのは嫌だって言うんですよ。もう少し、協力してくれても……でも、これを見て下さい!」


 後ろ手に持っていたものをパッと光治郎の前に突き出した。

 まさかの通信機である。


「どうしたんだ。それ」

「日野の10トンに据え付けられてたんですよ。しかも、おあつらえ向きにパワーアップしてあるんです。このまま使えます」

「違法改造じゃないか、それ」

「社長、異世界で誰が取り締まるって言うんです?」


 あー、ダメだ。

 いいともダメとも言わないうちに、屋上にアンテナを取り付けに行ってしまった。


 送信機のスイッチを入れる。

 ブーンと音を立てて起動する。天板はすでに熱い。


 浩史は「ちょっと気にはなるが、まあいいか」と言って、マイクのボリュームを上げる。

 すでに、車のラジオはON。運転席にはアレクが窓から顔を出して待っている。


「あーあー、聞こえるか」

「聞こえます! こっちから声は聞こえないんですかぁ!」


 アレクが叫んでいる。

 村人がびっくりして集まり始めた。

 ラジオもアレクの声も音量が大きすぎである。


「ラジオってのは一方的に多くの人に届けるもんだから、そっちからは無理だ……おっ、そうだ! 他の車でも試してくれ」


 車を降りて、別の車に乗り込み、ラジオをONにするアレク。

 村人が二手に分かれ、元の車とアレクが乗り込んで車の両方を取り囲んでいる。


「こっちも聞こえます! これ、どれくらい届くんですかあ」

「この筐体で100W超えかあ。夜なら王都でも聞こえるかもなあ」


 その改造はポテンシャルの発露と呼べるのだろうか。



 実験は成功したが、何せしゃべることがない。

 一旦解散、コンテンツになりそうなものを探していた浩史だったのだが、なんと村長が引き受けるという。


 どうやら、村人が村長に実験の様子を知らせたらしい。


「職人時代に経験した昔話なら、いくらでも話してやるぞ」

「定期的にしゃべってくれないといけなんですけど」

「かまわん。夕飯が終わったらで良いか?」

「お願いします」



 なし崩しに始まった ”三峰ガレージ放送局”

 トントン拍子にスケジュールまで決まっていく。


「いいのかなあ」


 光治郎は頭を掻きながら、しばらく見守ることにした。



 その後、毎日夜八時。村長の職人昔話の放送が続いたいた。

 最初は一人前になるまでの成功譚や、陛下に献上した品により名声を賜った自慢話などが続いていたが、執拗にねぎってくる商人と無茶な注文をしてきた貴族の話から、雲行きが変わってきた。


「あんのバカ貴族。ロクに剣も振れない癖に、オリハルコンの剣をよこせだの金の装飾をびっしり入れろとか言い出す始末での。あー思い出しても腹が立つ。イライラする……ああ、どうしてくれよう……柄に毒でも仕込んでやれば良かったわい」


 村の住人は、いつもの村長だ、と笑っていた。

 宴会のたびに聞かされていた話なのである。


 ラジオから流れてくるのが新鮮ではあるが、内容についてはいまさらである。

 ところが、300km離れた王都ではそうはいかない。


 たまたまラジオをつけていた貴族に途切れ途切れに、悍ましいセリフが聞こえてくるのだ。


「ズーズー……『バカ貴族』。ガーーー『イライラする』……『どうしてくれよう』……『毒でも』ガーガーガーガー」


 噂が噂を呼び、やがて ”夜になると自動車から呪いの言葉が聞こえてくる“ と噂になってしまった。

 それが、苦情として光治郎の元に届いたのが、それから三日後。


 村長が喋り始めてちょうど一週間のことであった。


「それじゃあ、今夜も始めようか。若い職人よ。ロンダークの話を聞くが良い」

「あのー村長。実は苦情が入ってまして。辞めていただきたく」

「なんじゃ、コージロー。放送中じゃぞ」

「そうは言いましても……」


 そこまで言いかけたところで、送信機の様子がおかしい。

 妙に計器の針が激しく揺れている。


「なんか焦げ臭くないですか?」

「そんなことは……オワッ、なんじゃこの白い煙は」


 ジーーー、パァン

 プシューーー


 パイロットランプが消えている。

 送信機の回路が焼けてしまったらしい。


 ここに、三峰ガレージ放送は幕を閉じたのである。


「流石に連続稼働は無理だったか。ここまでだなぁ」


 コントロールルームにいる浩史は肩を落としていた。



 後日、アレクは光治郎に尋ねた。


「ラジオって本当に必要なんですかね」

「村長の『軽いは正義だ』か? ケースバイケースだな。野菜を運ぶトラックなんて、多少の重さは関係ないだろう?」

「そうですね。でも、使えないなら」


 部屋の隅には基板が黒焦げになった送信機が、置きっぱなしになっている。

 もしかしたら、ラジオの有用性を証明できたかも知れない。


 その可能性は今はない。


「さあな。まあ、最初に言った通りなんだよ。この世界じゃラジオは使えないんだ。無理に使おうとすればこの有様だからな」

「はい」

「だが、将来はわからない。使うとしてもずーっと後になるだろうがな。例えば、俺がレストアに飽きてきた頃とかに」


 送信機なんて探せば他にもあるだろう。パレッタが魔法の力で代わりになる何かを作ることだってあるかも。

 光治郎は可能性を捨ててほしくないだけなのだ。


「わかりました。少なくともこのガレージがある限りはラジオを不要ですね」

「なんでそうなる」

「コージローがレストアに飽きることは、きっとありませんから」


 この野郎、とアレクの頭をコツンと叩いてつぶやいた。

 ”俺がやらなくても誰かがやるさ。必要ならな”


ついにストックが切れてしまいました。

なんとかあげましたが、いつもの投稿時間を過ぎてしまい申し訳ありません。


明日は厳しいかもしれないですが、二、三日以内に続きを投稿しようと思います。


これからも本作をよろしくお願いします。

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