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陛下、スポーツカーに乗る

 アルトト村に陛下が来るという。

 使いの者が持ってきた手紙には、今回の訪問内容が記載されていた。


 “アンデッド発生の収束及び原因の確認。跡地に作られたテストコースなるものの視察”


 当然の内容だが、わざわざ陛下自ら出張ってくる理由がわからない。

 役人が何人か来れば済む話である。


 だが、問題はもっと深刻な話なのだ。


 村に来れば嫌でもガレージを目にすることになる。

 どうやってこの建物を建てたと聞かれても答えようがない。



「なぜ、このタイミングなんだ」

「全くです」

「いっそのこと正直に『日本からガレージごと転移してきました』とでも答えてやろうか」

「狂人扱いされるのがオチですね」


 光治郎は半ばやけっぱちでそう答えた。



 すると、横から手紙を覗き込んでいたアレクが言った。


「何がまずいんです。発生原因はともかく、アンデッド騒ぎはちゃんと収束したんだから良いじゃないですか」

「そんな簡単に行くかぁ?」


 結局、答えが出ないまま、陛下が訪れる日を迎えたのである。




 村の入り口に数台の豪奢な馬車と騎士団十余名が到着した。

 出迎えるのは村長、光治郎、そしてパレッタその他村人大勢である。


「ようこそお越しくださいました。何もない村ですか、ごゆるりとお過ごし下さい」

「うむ、ロンダークか。王都以来だな。今回は視察だ。長居はせん」


 それだけ言うと奥の方へズンズンと歩き出し、慌ててお付きの者と騎士数名が付き添っている。

 あっけに取られて、村人たちが見送る中。


「コージロー、アンデット発生の林……今はテストコースだったか。そこに案内せい」

「あっ、はい。わかりました……じゃなかった仰せのままに」


 騎士、貴族、お付きの者全てにギロリと睨まれつつ、光治郎は陛下を誘導していく。

 テストコースは一番奥だが、その前に肝心のガレージが――


「えっ!」

「どうした? コージロー。テストコースはこの先と聞いたが」


 まさかのガレージをスルーである。

 浩史とアレクが出てきて「どうぞどうぞ、こちらです」と一行を導いている。


「どういうことだ……」



 置いてけぼりの光治郎が我に帰って後を追いかけていくと、すでに陛下はテストコースのメインスタンドに。

 ピットではアレクがいすずエルフの整備中である。


「社長。ピートに走らせますかぁ」

「ちょっと待ってくれ」


 光治郎には言いたいことがたくさんある。

 “なぜ、トラックなんだ” とか、”お前ら、妙に手慣れてるな” とか。


 だが、まずは。


「陛下。視察はテスト走行からでよろしいですか?」

「いけません。陛下、アンデッドの確認が先です。姑息な策略に引っかかってはなりません。先に自動車とやらで事件の不始末を糊塗するつもりなのです」

「黙れ! 私が自動車のテスト走行程度で、意見を翻すとでも言うのか!」


 腐してきた貴族はすごすごと後ろの席に退散したが、このまま引き下がるつもりはない。

 密告したドワーフの報告を受けた時、これはチャンスだと思ったのだ。

 元々王都で馬車による運送業で儲けていたが、汚いやり口で困っている商人につけ込み、高額な料金をふっかけていた。ところが、自動車の普及とともにその旨みが消え、なんとしても失地回復に賭けているのである。


「どうせ、大したことはない。見せてもらおうじゃないか。その自動車とやらを」


 ぶつぶつと呟きながら、コースを睨みつけていた。

 一方、光治郎も”どうせ見せるなら速い車で” と考えていた。



 せっかくのテストコースのお披露目がトラックでは締まらないと思っていたのだが――


「速い! コージロー。あんなスピードで自動車とは走るものなのか」

「ええ、舗装されていればこれくらいは。ですが、こんなものではありません。あれは、村から野菜を町に売りに行くときに使う車ですから」


 陛下の目が釘付けになっている。

 文句を付けてきた後ろの貴族も開いた口が塞がらないらしい。


「もうちょっと続けますか。もっと速い車も用意できますが」

「確かに見てみたい気持ちもあるが、一旦これで終わりとしよう。まずはアンデッドの件をはっきりさせなければな」

「わかりました」


 ここからが正念場である。



 陛下は騎士たちに命じ、魔物がいる森の奥へと調査に向かわせ、自らはこのテストコースを歩いて一周すると言う。

 森の案内はテストコース造成を手伝ったドワーフたちの親方が務める。


「コージロー、ここは林であったと聞いている。村の存在に気づいて大半の魔物は森へ引き返していたが、一部はそのまま進み村に被害をもたらしていた。それが、この開拓村が発展できなかった理由だ。それが、急に村に魔物が現れなくなったと聞く。なぜだ」

「それは……私のガレージができたからです。魔物は城壁と誤認し、この林で互いに争い、敗れ去ったものがアンデッド化したと」


 光治郎は正直に話した。

 隠し立てしても仕方がない。


 だが、子爵にとってこれは最大のチャンスである。

 このコースについてはともかく、あのガレージが原因と自ら認めたのだ。


「陛下、やはりこの者がアンデッド発生の元凶です。お沙汰を」

「黙っておれ」

「は、はい」


 陛下は子爵をギロリと睨み、また、歩き始める。

 そこに森へ行った騎士団が戻ってきた。


「どうであった」

「はい。確かに森の奥に魔物はおります。ですが、奇妙な黒いドロドロの池があり、その周りには寄り付かないようです。さらに、このテストコースとやらにも近づいて来ないことを確認しております」

「ふむ。わからんな……」


 この説明だけでは流石に無理である。

 そこにドワーフの親方が進み出た。隣には村長もいる。


「ちょっといいか」

「陛下に何という口の聞き方を!」

「構わん、続けよ」

「その黒い池はアスファルト。魔物はどうやってもこれに近づくことができん。それに目をつけたのがコージローの旦那なんだ。テストコースに敷き詰められているのは、アスファルトに砕石や砂利を混ぜた物。効果は確認した」

「ロンダークよ、お前はどう思う」

「村長として、冒険者に依頼し、村の安全は確認しております。このドワーフの言うことに間違いありません」


 これで、光治郎が咎められることはない、誰もがそう思った。

 ところが。


「お待ち下さい。陛下もご覧になったでしょう。自動車なるもの、あれほどの速度が出るとなれば、甚だ危険、ここはやはり何らかの制限をかけるべきだと進言いたします」

「私にはそうは思えんが」


 子爵は食い下がった。

 これが最後のチャンスなのだ。その後も王都でのピートの事故の件まで持ち出して自動車の危険性を訴えたのである。


「あれは神聖裁判でケリがついただろう」

「いえ、それは被告自身の問題です。確かに馬車をめぐる証言には嘘がありました。ですが、被告の自動車が事故を起こし大破したことは事実なのです。第一、あんなスピードを出して安全に止まることなどできないはずです。もう何周か回らせてみれば、わかるでしょう」

「だそうだ、コージロー。私も速い車とやらが見てみたい。……いや、いっそのこと私が乗って確認するのはどうだ?」

「いけません、陛下!」


 子爵は必死だ。

 光治郎は浩史に指示を出し、ここ数日徹夜までしてレストアした車をずらりと並べさせた。

 運転は村長が務めるらしい。


 MGB、ロータスエラン、MX-5。そしてポルシェ911


「これは壮観だな。して、どれを運転する」

「そうですな……。そちらの貴族様は止まれるかどうかを心配してらっしゃった。となると」


 選んだのはポルシェ911

 唯一の四人乗りである。


「うむ。これなら、お前も乗れるではないか」

「いえ、陛下と一緒になんて」

「かまわん。安全かどうかは自ら確認するが良い。さあ」


 いつの間にか子爵までが、同乗する流れに。

 哀れ子爵は狭い後部シートに押し込められ。


「シートベルトを締めて下さい、陛下」

「ああ、これだな」

「貴族様も」

「な、なんだ。どうなっておる。う、うまく着けられん」

「子爵、手を焼かせるな」

 

 ボボボボ、と低い音を響かせてコースに出た車が一気に加速する。

 ここからが子爵にとっての地獄だった。


 咆哮をあげるエンジンはすぐ後ろにあるのだ。


「いやぁぁぁ、ヤーメーテークーレー」


 悲鳴とともに車は第一コーナーに消えていった。


 ポルシェは周回を重ねる。

 最終コーナーを回って四速、五速、ストレートの伸びはまあまあ。

 フルブレーキからギアを落として第一コーナーへ。


 光治郎の隣では、ピートが目を丸くしている。


「村長すごいですね。人数乗ってますから、そこまで伸びませんけど、あそこまで深く攻められるなんて」

「ああ。今日はブレーキの効きが違うからな」

「どういうことです」

「もともとポルシェは、リアエンジンだ。トラクションがいい。おまけに……」

「そうか! あの貴族様。重しになってるんだ」


 ポルシェはその後、約十周を周回。

 ピットに戻った車から、笑顔の陛下が。


「どうだ。何の問題もなく止まれたぞ。コーナーもちゃんと曲がっていただろう」

「…………」

「どうした。子爵?」

「……………………」


 車を這いつくばるように降りた子爵は、しばらく口も聞けず。

 それ以来、自動車については関わってこなくなったのである。


 陛下からは、テストコースを届けもなく作ったことに対するお小言だけ。

 逆にアルトト村を恒久的に魔物から守ることになったことについて、褒章を受けることに。


 今後も北部の流通を頼むと言い残し、王都へ帰って行った。



「ところで、どうしてガレージのこと。突っ込まれなかったんだろう」

「私にもわかりません」


 残る疑問はそれだけである。

 光治郎も浩史も皆目検討がつかない。


 ところが、アレクとピートが不思議そうに言った。


「だって、王都にもあるじゃないですか。とっくにフェリスティンさんから陛下に報告がいってますよ」

「「あっ!」」


 臨時ガレージは、神様の計らいで村と全く同じ仕様になっている。

 王都ほどの都会となれば四階建てぐらい普通である。


 浩史は頭を掻きつつガレージのシャッターを閉め。

 光治郎は「なんで気づかなかったかなあ」といつまでもボヤいていた。

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