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完全勝利とその後に続くもの

 法衣と言うにはあまりにも華美な出立ちの男が、裁判長の隣に座る。

 休憩は終了し、すぐに裁判が再開されるかに思われたが、そうはならなかった。


 傍聴席には空席が目立つ。

 恐らく外に出た貴族たちが戻ってきていないのだ。裁判の結果には関係ないはずの彼らを待っているのは、原告側と裁判長の意向によるものだろう。

 なるべく多くの証人がいるところで、幸次郎たちの有罪を確定したいと考えているのだ。


「いいじゃないか、ゆっくり待つとしよう」

「そうね。ここまできたら焦っても仕方がないもの」


 被告陣営のトップ二人。光治郎とパレッタがしっかりしていれば周りは落ち着くものだ。

 物には動じない村長も慌てて駆け込んできた時には焦りが見えたが、ピートとサティが前を向く様子を見て胸をなでおろした。



「それでは再開する。神の名において数々の貢献をされている王都中央教会の総司祭様に来ていただいた。これより、王都正教会による神聖裁判となる。嘘偽りがあった場合神の名の下に罰せられることを心するように」


 貴族たちが全員傍聴席に戻ったことを確認した裁判長が宣言した。

 隣にいる男を美辞麗句で飾りたて、心象を良くしようと考えているらしい。


 総司祭様とやらは、何やら原告側に視線を送っているところを見ると……こいつもグルということらしい。


「では、被告人、ピート。先ほどの証言を神の名の元にもう一度話すがよい」

「わかりました。先日、私とサティは王都に自動車で入り…………」


 ピートが指名され、最初の証言をもう一度言わされることになった。

 これも作戦なのだろう。


 この敵だらけの中で、緊張を強いる証言は体力を消耗する。

 さらに、相手はさきほどと違いがあれば、どっちかが偽証だのなんのと騒ぎ出すはずだ。


 そんな中、ピートはよく重圧に耐え、全く同じ証言を繰り返す。

 内容が司祭が来る前と寸分違わなかったことが、気に食わなかったらしい。

 裁判官が何事か総司祭の耳元に囁き、被告側を睨みつける。


「ふん……いいだろう。被告人、ピート。今の証言は神に誓って間違いはないか」

「はい」

「では、原告のロンデル子爵。本件に関する訴状に偽りはないか」

「もちろんでございます」


 こっちは、何も言わずに済ますつもりか。

 光治郎は内心腹を立てていたが、どうにか飲み込んだ。


 ニヤけた顔がムカつく、やり方が汚すぎる。

 慇懃無礼とはこのことだろう。



 そこですかさずパレッタが手を挙げる。


「裁判長。今の発言は容認できません。なぜ、原告に対し “神に誓って” という文言を省かれたのですか? その理由をお聞かせ願いたい」

「その、間違えただけだ。……ロンデル子爵、神に誓って訴状に間違いはないか」

「も、もちろんでございます」


 変だとは思ったが、よくパレッタは気づいたな。


 しかし、せこい奴らだ。

 何か問題があったとしても『神に誓ってないから』と言い訳する余地を残そうとした、ってわけだからな。



 そこで、しばし間が空いた。

 何を待っているのか、と思っていると。


「ふん、やはりか。この痴れ者めが。ここまで話を続けたにも関わらず神託が降りてこないではないか」

「おお、総司祭。そうすると、被告は有罪に……むっ、なんだ! ま、まさか」

「おー、神の像から光が」

「し、神託だ。神託が下されたぞ」


 裁判官の後ろの高い壁に設置された、神の像が光り輝き、眩い光が裁判所全体を照らしていた。

 あまりのことに多くの者が動揺していた。傍聴席にいるものの中には跪いて手を合わせるものさえいる始末だ。


 そんな中、ロンデル子爵が叫んだ。


「誰か! 不届者が魔法で神の名を語ろうとしているぞ」

「無理ですよ。ここは神聖結界で囲まれているんです。指先に炎一つ灯すこともできないですから」


 パレッタがすぐさま反論する。


「し、しかし肝心の神託がないのでは」


 慌てふためいている総司祭と裁判長のただ一つの拠り所は、まだ神託の確たる証拠がないことである。


 そこに、はらりと一枚の紙が舞い降りた。

 無風のはずの裁判所内を舞い、やがて国王ガルドレインのもとに。


「陛下、そ、それは私が」

「いや、神聖なる神のお告げだ。私が責任を持って読ませてもらう」


 この場に逆らえるものなどいない。

 ロンデル子爵の顔は真っ青。隣の側室が持つ扇子もブルブルと震えている。


 “ピートの発言に偽りはない。

  それに引き換え貴族ども。もう一度、問う。

  誤りがあれば……その時はわかるな”


「ひいぃぃ、お許しください。こやつが。こやつが」

「そ、そんな公爵様が大丈夫と言ったんじゃないですか」

「見苦しい! 静まらんか」


 陛下の一喝で、口を噤む二人の貴族。

 神託の書には、罪人として子爵とその側室、そして公爵の名前が記載されていた。


「神託は以上だ。何か言うことがあるものは?」


 誰もいない。いるはずがない。

 異を唱えようにも相手は国王である。

 だが、それを上回る神の力がそこにはあったのだ。


「神の言葉に間違いありません。陛下が読み上げている間、私の頭の中に一語一語を語りかけくるまばゆい光がありました」

「おお、私にもです」

「ええ、ええ、聞こえましたとも」


 周りにいる多くの者が、神の声を聞いていたらしい。


「神の名を謀ったロンデル子爵。バルステア侯爵。両名に二十年の量刑を課す。さらに、爵位を剥奪し、財産を没収する」

「そ、そんな。お慈悲を。バルステア家は王家に今まで数々の貢献をしてきたはずです!」

「残念だな、侯爵。それは国王たる私にもできないことだ。神の名を謀ったお前を庇っては王国が揺らぐ」


 決着はついた。

 これで、閉廷である。


 誰もがそう思った瞬間。

 もう一度、神の像が輝き出したのである。


「あれっ、コージローのカバンが光ってるぞ」

「えっ! おー、ほんとだ」


 それは、徹夜で書いた“王国交通規則”であった。


「コージロー殿、それを読み上げろ。序文だけで構わん」

「わかりました、陛下。『王国交通規則 本則は自動車のみならず、馬車、徒歩など全ての往来を通るものに対するルールを定めたものである……』」


 約二分、光治郎はそれを読み上げ終わった時、またしても頭の中に神の声を聞いた者がいた。

 ただし、今回は限定的であるらしい。


 都市計画に係るもの、王都の治安に関わるもの、そして陛下の自動車番など。

 神様は王国を導くものに道を示したのだ。


「その序文の内容を是とする。仔細については、善なる心のままに定めるがよい」


 草案の段階にしかない王国交通規則の書き付けは、丁重に王国で保護されることになった。

 信じる者だけに伝わった言葉に人々はどよめき、光治郎は肩の荷が降りたような気がしていた。


「コージロー、大義であった。今後はこれを元に、すべての者が安心して往来を通るための規則を作ろうと思う。協力してくれるか」

「喜んで!」


 こうして、ピートたちの冤罪は晴らされ、王国に初めての貴族も平民もない交通ルールが定められることになったのである。


 原告のロンデル子爵とその側室、バルステア侯爵は、縄をかけられ連れ去られていく。

 子爵はうなだれ、後の二人は「自分は関係ない」と叫びながら。


 傍聴席にいた貴族たちもあっという間にいなくなった。

 これ以上、ここにいては不利になるばかりだ。

 原告側に肩入れしたと知られては、何を言われるかわからない。


 光治郎たちも退廷していく。

 案内は入ってきた時の事務的な男ではなく、陛下の車の件でお世話になっている王宮の騎士フェリスティンである。


「申し訳ありませんでした。本当は入廷の案内も私がするつもりだったのですが、原告側と裁判長に止められてしまいまして」

「いえ、いいんですよ。事情はなんとなくわかりますから」


 後ろには、お茶を用意した侍女たちが控えている。

 せめてもの持てなしをするつもりなのだろう。


「大変ありがたいのですが、ガレージでやることも残っていて」

「わかりました。それでは、また何かありましたらお申し付けください」


 フェリスティンに見送られ、王宮を後にした。


「やりましたね!」

「ああ、完全勝利と言っていいだろう。これで、一休みできる……と、あれっ? 大勢でなんなんだ」


 王宮まで乗ってきたパッカード・トゥエルブの横には、浩史とドワーフの一団が。


「社長、何か忘れてませんか? あっちを見て下さい」

「えっ、なんだっけ……あっ、もしかして!」


 そこにいたのは、村に来ることを約束したドワーフ達だ。 

 車を取り囲んで手を差し出している。


「コージロー! 準備ができたぞ。アスファルトとやらを見せてくれ」

「うわぁ、忘れてたあぁぁ!!」


 どうやら、落ち着いて休みを取るのは当分先になりそうな光治郎であった。


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