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光治郎の覚悟

 王宮は中央通路をまっすぐ行くと謁見の間に、左へ折れると騎士団の控室。右には文官の執務室があるが、それ以外の場所についてはわからない。

 基本的に光治郎たちにとって、王宮に来ること自体レアケースなのであって、中がどうなっているかを考えることなどなかったのだ。

 だが、右に折れた後、そのまままっすぐ進むように言われたことで、前に来た時とは違う場所に行くことだけはわかった。


 ピートとサティは明らかに不安そうにしている。

 当初光治郎は、謁見の間で話をするだろうと言われていた。その前提が崩れていたからだ。

 しかも、荘厳で広く冷たい王宮の廊下は平民にとって大きな威圧感を感じるものである。


「大丈夫だ、ピート。こちらに非はない。陛下は話のわかる人だし、俺もパレッタもついている」

「……はい」

「……わかりましたにゃ」



 案内人は何も言わなかった。

 そのまま廊下を進んだ末にあるのは、厳しい扉。

 大きな広間があることは外観からわかってはいたが、何のする場所なのかわからない。



 案内人が扉を開けた。


 中に入ると四方に柵があり、一段高いところに階段上の座席がある。

 正面には数人が座っており、横には陛下がいる。

 配置からして、この場ではオブザーバーという立場なのだろう。何かあれば、最高権限を発動することはできるのだろうが、とりあえずは静観と言うところだ。


 光治郎たちは左側に案内された。

 椅子も用意されているが、とりあえず立って待つように言われた。


 相対する貴族は右側。

 恐らくはロンデル子爵と側室の女性。後ろでニヤけているのがバルステア侯爵だろう。


 すでに、多くの人が着席しており、前方中央の男が準備が整うのを待っている。



 どうやらまんまと騙されたようだ。

 ここは裁判所である。


 それを言わずにここに呼び寄せたのは、フェアな行動とは思えない。

 おのずと何を言い出すのかも想像がついた。


「それでは被告人、ピートとサティ。お前たちの罪状を述べよ」

「ちょっと待って下さい。いきなり犯人扱いとはどう言うことですか」

「静かに。被告人以外の発言を許してはいない」


 いきなりこれである。

 異端審問か魔女裁判ではないか。


「平民は裁判の決まりも知らない見える」

「いきなり聞いた話とは違うところに連れてこられたんだ。貴族こそモノの道理を知らない見える」

「静かに!」


 裁判長らしき男が、不機嫌そうに裁判槌を打ち鳴らす。

 そこに、スッと手を挙げたのはパレッタだった。


「王国での裁判は公平に行われると聞いています。少なくともピートとサティを最初から犯人扱いするのはやめていただけませんか?」

「だが、訴状によると……」

「待て!」


 陛下の一喝に裁判長が口をつぐんだ。

 礼をしてそのまま話をうながす。


「とりあえず、当日の状況を双方から聞くとしよう。裁判長、それでいいな」

「仰せのままに」


 貴族たちは憎々しげにこちらを睨んでいたが渋々うなづき、事情を話すように促した。


 ピートは緊張してはいるものの、事故当日のことを詳細に話し始めた。


 大通りを自動車で走行しながら十字路に差し掛かったところで徐行。

 そこに突然、路地から馬車が飛び出してきた。


 明らかに街中で出していいスピードではない。

 ピートとしても避けるのが精一杯。


 目の前に現れた馬車との衝突だけはなんとか避けるため、ハンドルを目一杯切った。


 その結果、両車両はわずかにかすった程度であったが、自動車は脇に突っ込み大破。

 馬車は路地を通り過ぎたところで停止。ほとんど無傷であった。


「異議あり。平民の話はデタラメです。危険な速度で突っ込んできたのはあの鉄の車に間違いありません」

「そんなわけないだろ。こっち徐行していて、あんな無茶なスピードで突っ込んでこなけりゃ、すぐに止まれたんだ」

「ふん、話にならん。今から証人喚問をしたい。裁判長いいだろうな?」


 その様子を見ていたという町人が呼ばれ、バルステア侯爵が質問した。


「あの自動車なるものは危険だったと思うか?」

「いえ……その」

「あれだけの鉄の塊だぞ。威圧感を感じたことは?」

「まあ、少しは」

「と言うことはあの十字路でどちらが危険な存在であったかは明らかだな」

「はい……でも」

「ああ、それだけで十分だ。下がるが良い」


 どう考えても誘導尋問である。

 しかも、両者のスピードや運転の無謀さについては何も触れていない。



 光治郎は異議を申し立てたが無視された。

 当事者ではないし、その場にいなかったからと言うのが裁判官の説明であったが、それならばバルステア侯爵が証人喚問をするのもおかしな話である。


 原告の求刑は「王都及び北部における自動車走行および一切の作業の禁止。ピートとサティは百回の鞭打ちの上、国外追放」である。

 裁判は淡々と進み、このままだとピートの有罪が確定してしまう。


 あとは判決を言い渡すだけと言うところで、もう一度パレッタが手を挙げた。


「裁判長、提案があります」

「パレッタ殿。いくらあなたでもこれ以上、被告に与するなら退廷していただくことになりますよ」

「いえ、そうはならないでしょう。これを見てください」


 そう言って首飾りを上に掲げると、周りからどよめきが。


「あっ、あれは『エルフの誓い』では」

「なんと、神の名の元に全てを決するつもりなのか」

「しっ、静かに!!」


 再び、裁判長は裁判槌を打ち鳴らし、不機嫌さを隠そうともせずパレッタに警告する。


「それを使うと言うことはどう言うことかわかっているのですか」

「ええ、ここに王都教会の司祭を呼んでください。私は神託によりピートの無実を証明します」


 周りの視線がパレッタに集中する中、光治郎の額には汗が吹き出していた。

 横顔には決意が見える。


 村長が飛び込んできた。

「『エルフの誓い』とはなんじゃ? 神託なんぞ聞いておらんぞ!」

「あれっ、村長。来てくれてたんですか」

「呑気なことを言ってる場合じゃない!」

「それは私から説明します」


 『エルフの誓い』とはエルフ一族の高位の者のみが持つ首飾りである。

 王国はエルフに恩義があるため、これを使うと言うことはエルフ一族の誇りを賭けることと同義であるのだ。


「それじゃあ、神託で無実を証明すると言うことは」

「はい。神官の前で誓いを立て被告は無実を訴えます。神託が降りれば、絶対の無実が証明されるのです」

「降りなければどうなる?」

「……有罪が確定するでしょう」

「無茶なことを」


 歴史上、何千、何万という裁判が開かれた中、神託が降りたのは一度か二度、と言われている。



 この絶体絶命の状況の中で、光治郎を見ていた男がいる。

 ガルドレイン陛下。つまりこの国の国王だ。


 今、貧窮に喘いでいた北部を支えている男は光治郎と彼の作る自動車なのだ。

 ここで潰すわけにはいかない。


 だが、国王といえど大半の貴族の意見を理由もなく覆すことはできないのだ。

 割の良い賭けとは言えないが、パレッタに託すしかない状況だった。


 そこで、光治郎が手を挙げた。


「裁判長。パレッタを罰するとなれば、王国とエルフの国の間の関係にヒビが入ります。この一件において、有罪となった場合、私、三峰光治郎が全責任を取り、全ての自動車を回収。以後、2度と売ることも走ることもしません」


 どよめきが起こった。

 裁判長は何と答えていいか分からず、周りの様子を伺っていると陛下が立ち上がった。


「有罪になり、自動車による物流がなくなれば、北部はまた貧困にあえぐことになるのだぞ」

「それは、すでにいただいた金で私が十分な数の馬車を購入し、周りの村に受け渡します」

「いいのかコージロー」

「私は自動車に賭けているのです。とうに覚悟はできております」


 裁判官たちは立ち尽くし、貴族たちは薄ら笑いを浮かべていた。

 そんな中、陛下は一度ため息を吐き、意を結したように言った。


「あいわかった。パレッタの申し出を受ける。もとより『エルフの誓い』を破り、彼女ら一族との絆を今、失うわけにはいかないのだ。コージローに覚悟があるのなら、神託により全てを決するがよかろう。司祭を呼べ」

「た、直ちに」


「それまでしばし時間があろう。この場にいるすべてのものに休憩を」

「はっ!」


 王の一言で全てが決まり、しばしの休憩である。

 フロアに入れなかった浩史とアレクが駆け寄ってくる。


「社長、大丈夫ですか」

「ああ、別にしんどいわけじゃない」

「コージロー。あなたがいなくては、村の再建はなかった。最初は敵対していたが、その全てを詫びる。一生、タダ働きでも構わない。とにかく、勝ってくれ」

「ああ、アレク。心配するな。実は勝つのは難しくないんだ」

「「「「ええっ!」」」」


 事情を知っている浩史以外が愕然とする。

 光治郎が普段から神様とやり取りしていることを知っているはずはない。



 だが、絶対とは言えない事情があった。


 本当に神様は神託を降ろしてくれるだろうか?

 司祭が貴族に取り込まれている可能性はないか。

 もし、神託が降りたとしてもそれが司祭のみに聞こえる言葉であったなら。


 昨夜のうちに神様に確認をとっておけば良かったのかも知れない。

 これが光治郎にとってギリギリのフェアな戦いなのだ。



 思いを振り切り、光治郎は持っているカバンから分厚い紙の束を出した。


 「弱気はやめだ。“王国交通規則”。なんとしてもこいつを制定する」


 すでに心は神託が降りた後、貴族たちにこれを突きつける用意を始めていた。

 裁判に勝つ、そして自動車についてのルールを貴族を含む全ての人たちに定着させる。


 光治郎にとって、どちらも欠けてはならない厳しい戦いなのだ。


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