とっておきの計画と予期せぬ待ち人
王都の街並みはあいかわらずだ。
車には出会わない。それもそのはず、農家向けの車は畑にいるだろうし、貴族に売った車も10台に満たない。
「そのうち、ここも車でいっぱいになるんでしょうかね」
「いや、そうはならないんじゃないか? するつもりもないしな。ここは人が住む街だ。どうせ走らせるなら、街の外だろう」
光治郎は異世界を大変革する気などさらさらないのだ。
ただ、この世界もまた貧窮層の生活は苦しい。
そういう人たちの暮らしをちょこっと改善できればな、ぐらいには思っている。
フェリスティンに先導されるままに王城に入るまさにその時、一台の馬車が目の前に立ち塞がった。
乗っている男はなんとリーゼントである。
「済まねぇ。ちょっと話を聞いてもらえないか」
「誰だろ。フェリスティン、知ってるか?」
「あれは南部の大領地を収めるバルレイズ男爵です。悪い人ではないんですが、とにかく変わり者で……」
そりゃ、この異世界でリーゼントかましている奴がまともなはずがない。
革ジャンまで纏っているけど、よくこの世界にこんなものあったな。
「何か用か。俺は三峰光治郎。陛下に呼ばれているから時間はないんだが」
「ああ、急ぐつもりはない。終わった後でいい。話を聞いちゃあくれないか」
「まあ、いいが」
それを聞くと男爵は満足げに「よろしくな」と言って道を譲った。
王宮に入りそのまま謁見の間へ。
フェリスティンを先頭に、俺、浩史、パレッタ、そして村長とドミンゴ町長である。
落ち着かないのは町長で、さっきからキョロキョロと見渡しては視線を下に落としている。
「大丈夫だってばよ。陛下は無茶言わねーから。それに、今日は褒美もらいにきたんだぜ」
「そ、そうは言っても私は一介の田舎町の町長ですし」
「安心して下さい。困ったことがあれば私からも口添えいたしますから」
「おお、パ、パレッタ様」
ダメだこりゃ。アレクと一緒で完全に女神様扱いだ。
「コージロー殿の一行が到着いたしました」
「よし、開扉!」
前回と同じだ。
二人がかりでドアが開けられる。
光治郎たちはそれを待ってから、陛下の前まで歩きひざまづく。
「よく来たな。コージロー殿、そして一同、楽にして良いぞ。こたびのアンデッド討伐、誠に大儀であった。まずは町長、周辺の状況の報告から聞こうか」
「それが……アンデッドが……ええと、はい」
しどろもどろのドミンゴ。
変わって村長が後を継いだ。
「緊張しておるようです。不詳、わたくし、ロンザークめが報告いたしましょうか?」
「おお、名匠ロンザークか、久しいの」
「今はアルトト村の村長をしております。では、周辺の状況について」
「うむ、続けるがよい」
ゲッ、村長の爺さん。陛下と顔見知りだったのか!
名前も初めて聞いたよ。
村長は、村と森の奥の状況について話し始めた。
もともと開拓村であるため、野獣も魔物も多いところであったのが事の発端であることをスラスラと解説していく。
「なるほどな。獣と魔物が大量に殺し合えば、死骸がアンデッド化するのも当然と」
「はい。森の伐採が必要です。しかし、それだけではいずれ……」
「うむ、そうだな。木はすぐに大きくはならないが、草が生え魔物が跋扈するのは時間の問題だと。何か方策はないのか」
「私にはございません」
そう言いながら、チラッと光治郎の顔を見る村長。
ここで話を振るのかよ。まあ、いいけどさ。
「コージロー殿。何か考えがあるようだな」
「はい。あるにはあるのですが……いささか図々しいお願いになるか、と」
「よい。申してみよ」
「わかりました。村の奥の3km四方を伐採します。その後の責任は持ちますので、その土地を全部私に下さい」
「なんと!」
周りがザワザワとし始めた。
貴族たちからは「不埒な奴め」「分を知らぬ輩め」「修理屋風情が烏滸がましい」などと非難の声が。
「鎮まれ」
陛下の一喝。
一斉に口を閉じる貴族たち。だが、明らかにに不満を持っているのがわかる。
それを読んだように理由を促してきた。
「コージロー殿。その土地をもらって何とする」
「はい。これを使って草の生えない土地に作り替えます」
手にしているのはアスファルト。
舗装してしまえば、わずかに生えてくる雑草以外気にするものはなくなる。
「これをみて下さい」
用意してきた模造紙を広げた。
この異世界で初めての自動車のテストコースの俯瞰図だった。
これがあれば、車高の低い車をやっと走らせることができるのだ。
ポルシェ911、ロータス・エラン、ケータハム7
三峰光治郎が今まで我慢してきたスポーツカーの数々。
その迫力に目を見開く陛下。
どよめく貴族たち。
「これを作るというのか。しかし、材料はどうする。人手も必要だろう」
「あっ! ……材料はなんとかなります。でも、人手が」
その一言で一気に目が覚める光治郎。
痛いところを突かれたのだ。
3km四方、砕石や砂利の心配はない。
最後のピースであるアスファルトが手に入った。
だが、確かに人手の問題は解決していなかった。
王都のメンバーを全員呼んだとしても足りるはずもない。
第一、そんなことをしたら農家向けのレストアが全部止まってしまう。
万事窮すか。
そこにツカツカと後ろから歩いてくるものがいる。
ポンと光治郎の肩を叩き。
「馬車の件じゃあ、世話になったな。今度は俺たちが協力しようじゃないか」
「あ、あなたは!」
思ってもみない男がそこにいた。
かつては光治郎を敵視していた大臣バンゲルトの部下を排除し、新たにドワーフの族長になった男。
この男なら信用できる。
「お前さんのおかげで、街道を行く馬車の負担が大きく減っているんだ。俺たちにできることがあればなんでもやるぞ」
「本当ですか。是非、お願いします」
「これこれ、ワシを抜きに話を進めるでない」
「す、すいません。陛下」
「まあ、良い。その土地コージロー殿に預けよう。好きにするが良い。これにて謁見を終了する」
あっという間の幕切れであった。
その後はドワーフがいつ村に来られるか、どれくらいの期間を村で過ごすのかなどが話し合われた。
「すまんな。すぐにというわけにもいかん。最短でも三ヶ月後だな」
「いいえ、こちらの受け入れ準備もそれくらいかかりますから。よろしくお願いします」
こうして、テストコース建設プロジェクトが開始されたのだった。
意気揚々と引き上げようとしていた光治郎。
その帰り道。
「待ってたぜ。もし、暇があるならうまい飯を食わせてやる。一ヶ月ばかり南部に来るつもりはねーか」
「いやあ、そんな暇は」
「聞いたぜ。三ヶ月は暇なんだろう」
バルレイズ男爵。
リーゼントに革ジャンの異端男爵。
そういやあ、こいつがいたんだった。
見ればわかる。一筋縄ではいかない。
並の相手なら「レストアの仕事もあるから」と言うところだが、そんな言い訳が通用するとは思えない。
いつの間にかフェリスティンはいなくなってるし、どうしてパレッタは後ずさる?
「私たちは戻ってますね」
「えっ、パレッタ。帰りの足はどうする気だよ」
「村長がボルボを運転できますから」
「う、裏切り者〜」
車は出て行く。
光治郎と浩史は残る。
「社長、諦めた方が良さそうですよ」
「謁見が済んだら村に帰るつもりだったんだけどなぁ」
二人の運命はある意味 ”絶体絶命” だったのである。




