実地検分とアスファルト。そして再び王都へ
森の討伐戦は朝方まで続いた。
ここまで時間がかかったのは、獣もアンデッドも問題なしと何度も確認する必要があったからだ。
「流石にしんどいな」
「コージローには迷惑をかけるのぉ。ワシらが先に引き上げるわけにはいかんし」
「いいえ、村長。俺もこの村の住人ですから」
近隣の人たちは村長宅でメシを食った後、帰って行った。
流石に酒はなしだが、出されたものは豪華。
せめてもの礼なのだろう。
ようやく解放されてベッドに倒れ込んだ光治郎は昼過ぎまで眠っていた。
「すいません。コージロー殿はいらっしゃいますか」
「ああ、ちょっと待って下さい。社長はまだ寝てるんで」
昼過ぎに町役場から来た人に浩史が応対している。
申し訳なさそうにしているが、それはお互い様だ。
「出直しましょうか」
「いえ、私でできることならすぐに対処します」
要件は、村の奥について検分をして欲しいとのことだった。
それなら事情を知るアレクがいれば何とかなりそうだ。
さっそく、森に向かうとそこは多くの木々が焼けこげており、獣の死体もそのままになっていた。
「ひとまず、心配はなくなりましたが、このままにしておくとこの骸を依代にしてアンデッド化する可能性があります。村の近くだけでも伐採を進めて、森を後退させることができればいいんですが」
「いずれ、また生えてくる、と」
「ええ」
それを聞くと、浩史はズカズカと森の奥に足を踏み入れていく。
アレクはメジャーであちこちを測りながらそれについていった。
「ああ、そっちは毒沼があります」
「毒沼って、これがあるところか」
浩史は昨日みつけたアスファルトを手に取った。
「ヒイィィィッ、それは森の毒沼の!」
「大丈夫だ。昨日から手で触っているが問題ない。石鹸がないと落ちないのが困りもんだがな」
「でも、あの酷い匂いは獣もアンデッドも寄りつきません」
「それがつけ目だよ。アレク、測量終わったか」
「はい。予定通りです」
ノートに書きつけた数字をポンポンとペンの先で叩く。
そして、満足そうに眺めると「社長の読みでいけそうだな」と言った。
町役場の人は怪訝そうな顔でそれを見ていたが、浩史は安心させるように
「まだはっきりとはいえませんが、この件は綺麗さっぱり片付くと思いますよ」
と言った。
一通り見て回った後、昨日戦ってくれた近隣の村人たちと挨拶を交わす。
「コージロー殿はどうしたんですか。まさか、レイスにやられたとか」
「いえいえ、ピンピンしてますよ。ただ、朝帰ってきた後も何かしてたみたいで」
「疲れも出たんでしょう。車から聖水を振り撒いて助かりましたからなあ。もし、何かあったらと思いまして」
「ありがとうございます。そろそろ起きて来ることでしょう」
一同と別れ、ガレージに戻ると今度は町長のドミンゴがたずねてきていた。
「王都から手紙が来ています。森の一件について報告して欲しいと。討伐については礼も渡すので来て欲しいそうで」
「わかりました」
内容には了解したが、どうにもわからないことがある。
すると光治郎が後ろから声をかけた。
「ああ、そいつは翼竜騎士団がいるからだよ」
「社長、起きたんですか。それより翼竜騎士団、って?」
「ほれっ、ピートの翼竜像があっただろ。あれは王国の騎士団のシンボルなんだよ。戦争は滅多にないから、平時の今は通信が一番の役目ってわけさ。夜中のうちに王都とラクタルの間でやり取りをしたんだろう」
確かに翼竜に乗れるなら、300kmもひとっ飛びだろう。
「凄えらしいぞ。騒ぎになるといけないからほとんど夜の間だけ飛ぶらしいがな」
「なるほど。ウチの車が王都との交通機関で最速だと思ってましたよ」
浩史は意外そうにそう言った。
何となく悔しそうに見えるのが光治郎には面白かった。
それから小一時間。
王都行きのメンバーが揃った。
いつもの俺、浩史、パレッタの他に今回は村長、町長のドミンゴがいる。
「浩史。計測の方はどうだった」
「たぶん行けます」
「じゃあ、あとは、陛下の出方次第か。そこは交渉次第だな。王都に向かってひと勝負行くか」
「「「「「おーーー」」」」」
人も物資も満載のボルボ240トースランダは村を後にした。
王都に到着すると、光治郎たちは拠点であるガレージに車を停めた。
いきなり王宮に行かない理由は、荷物が多すぎること。
どうせ使いの人がこのガレージに来るだろう、ということ。
そして、中からは大きな音が聞こえてくる。
陛下の車番と錬金術師たちはレストアの真っ最中。
いつも頑張っている彼らを先に労ってやりたいと思ったのだ。
ガレージを開けると真っ先に錬金術師たちのまとめ役マゼンタが飛んできた。
「コージロー殿、お久しぶりです」
「よお、元気でやってるか? これお土産。ウチの近くにある町で買ってきた」
「スゴいですね。車の形のお菓子ですか」
ラクタルの町の新名物 “消防車もなか” 。
早速、包み紙を開けて――
眺めてる……。
食うんじゃないのかよ。
「これは見たことのない車種ですねぇ」
「用途が気になります」
全くこの連中は……
車に興味などなかった彼らがこういう食いつきをしてくれるようにまでなった。
それ自体は嬉しいことなんだが。
「ところで、コージロー殿。今日はどうしたんですか。次は来月以降になるはずでしたよね」
「ちょっと陛下に呼び出されちゃってなあ」
「えっ! 大丈夫なんですか。ここの仕事がなくなったら僕ら困るんですが」
やらかしたわけじゃねーよ。
村での獣とアンデッド騒ぎについて説明する。
「なるほど。そういうことでしたか。それでそのアスファルトとやらが手に入ったら何ができるんですか」
「道――だよ。こいつは画期的だぞ。車を今の数倍のスピードで走らせることができるんだ」
「そりゃ、凄いんでしょーけど、今一つピンと来ません」
「そのうちわかるさ」
舗装道路、って言ってもわかるわけないか。
だが、一度車でぶっ飛ばせば誰でもわかるはずだ。
トントン
ガレージを叩く音がする。
「誰かお客さんきたみたいだ。俺が出る」
「わかりました。よろしく」
ガラガラとシャッターを開けるとフェリスティンが立っていた。
思った通り王宮からのお迎えである。
「コージロー殿。陛下がお待ちです」
「わかった。今、行く」
すでに用意はできている。
村長は村の周辺の地図を持ち、浩史はアスファルトのサンプルを詰めた小箱。
ラクタル町長はオロオロしているが、パレッタが鎮静魔法をかけているから大丈夫だろう。
「それじゃあ、行くか。魔物の森を丸ごといただこう」
「「「「おーー」」」」
フェリスティンはテンションについていけない。
目を白黒させながら「陛下も苦労が絶えません」とひとりごちた。




