村の奥、森の討伐戦
アルトト村は、国の北方にある寂れた農村の一つでしかなかった。
何とかやってこれたのは村長の手腕によるところが大きい。
そして、この村の厳しさの一端は周囲にある魔物の森にあったのである。
「来たぞぉー」
「火を焚けぇ、槍ぶすまの用意っ!」
茂みには近隣から応援の人たちが待機している。
ここで野獣とアンデッドを食い止めることがそれだけ重要であるということなのだが……
パジェロに乗っている光治郎はその物々しさに呆然としていた。
「のんびりとした村だと思ったのになぁ。こんな物騒なところが近くにあったなんて」
「この村が森に一番近いところですからね。毎年、獣の被害をどれくらい抑えられるかがカギなんです」
ウォォォォン
ザザザザザ
狼の群れが押し寄せる。
光治郎も体に力が入り、思わずアクセルを踏んでしまった。
ブルン、ブォォン
ザワザワ
一瞬怯む獣たち。
「コージローが来てからというもの、しばらくはおとなしかったんですけどね」
「来てから、って……そういうことか!」
腑に落ちた。
平屋ばかり村に三階建てのガレージが出現したのだ。
獣たちにしてみれば、村が突然人間たちが集う牙城に変化したように見えただろう。
「俺がこの村に来たのもあながち迷惑ってわけでもなかったわけだ」
「そりゃ、そうですよ。あっ、また来ますよ」
もう一度、アクセルを蒸かす。
だが、今度は怯む様子はない。気にも止めないようだ。
「流石に無理か……。まずい、狼が動きだすぞ」
「大丈夫です。ほら、迎撃の用意は整ってますから」
杖を構えているのは、冒険者ブルーウェルのパーティだ。
「アースブリッド」
「ゲイルスラッシュ」
ザクッ
ギャォォンン
先陣を切って魔法攻撃が開始された。
数匹が撃ち倒されるが、狼の群れに怯む様子はない。
「パレッタの魔法は使えないのか」
「ええ、私のは火と雷の魔法が多くて森の中では使えないんです。今は村人たちが何とか食い止めていますが、この上、レイスが出たら……」
「まずいな」
村人たちも頑張って押し返しているが、限界がある。
狼の襲ってくる経路にはパジェロを捩じ込むことはできない。
森の途切れたところまで来れば、パジェロからの雷撃で仕留めることもできるのに。
「あの山で使った魔法陣をLEDライトに仕込んだままにしておいてよかったぜ」
「でも、社長。バッテリーが持ちますか?」
「それだよなあ。こんなことになるなら後部座席に予備バッテリーをスタックしとくんだった」
急遽、倉庫の奥から引っ張り出した装備は万全とは言えない。
獣道が多い森の奥で暴れ回るには不安があるのだ。
「レイスが出たぞぉ」
「下がれ、下がれぇぇぇ」
どうやらアンデッドが出たらしい。
こうなれば行くしかない。森の木々に被害は出るが目を瞑ってもらおう。
「サティ、ワイパーウォッシャーの補充は?」
「メインは満タンに。でも予備タンク半分ぐらいですにゃ」
「十分だ。行くぞ」
目の前に迫る鎌を持つ死霊。
LEDライトからプラズマが走り、一瞬怯んだレイスにワイパーウォッシャー液が霧状に広がっていく。
ホオオオン
フォオオン
この世のものならざる悲鳴をあげ、消える悪霊。
三体が消えるも残り五体は健在。
「これ以上は無理ですにゃ。レイスが近づいてきません」
「あの連中、知能があるのか。厄介な」
「それだけじゃないですにゃ。今ので、狼もこっちを敵視してるみたいです。一斉に襲ってきたらひとたまりもないですにゃ」
「あー、あの時の広域火魔法が使えりゃあ、なあ」
ブルブルブル、ガランドタン
ウーーーー
「あのサイレンの音は」
「ええ、間に合ったらしい。消防隊だ」
「私、出ます」
いきなりパレッタが車を降りて、狼の群れに向かう。
もう、森を灰にする心配はいらない。
「セイクリッドバリア」
「ファイアーバレット」
派手な火魔法をぶちかましながら、蹂躙していく。
レイスも触れようと近づいてくるが、すんでのところで引き返していく。
「あれ、平気なのか」
「大丈夫です。パレッタ様は聖属性の結界を纏っていますから」
パレッタの火魔法で、狼の数はあっという間に減っていく。
周囲の状況は酷く、多くの森の木が焼けている。
だが、それも折り込み済み。
ホースを抱えた一団が走り込み、二本のホースを構える。
「パレッタ様、引いて下さい」
「ああ、後は頼む」
そこからは掃討戦だった。
上に向けたホースからの魔法科学霊水がレイスを消し去り、魔石からの大量放水は燃え盛る木をはじから消しとめていく。
「もう大丈夫だろう」
「はいですにゃ。でも明日から片付けと陛下への報告が大変ですにゃ」
どうやら、深夜の幽霊騒動は終結したらしい。
後始末は大変だがひとまず脅威を遠ざけることができたのだ。
光治郎たちは村に戻ったのだった。
翌朝、町役場から使いのものがやってきた。
「パレッタ様、コージロー殿。申し訳ありませんが、王都までお越しいただけませんか」
「どういうことだ。森の木を焼いてしまった責任とれ、なんていうんじゃないだろうな」
「いや、そういうことはないと思いますが」
そこに村長が現れ、自分も行くという。
「ここは元開拓村でしてのう。恐らくは森の脅威に対して報告が欲しいということだと思うのですじゃ。しかも今回はアンデットも絡んでいる。狼や熊などとは違う」
「その説明を俺たちにしろと?」
「いえ、それだけならワシと町長が行けば済む話。恐らくは解決して欲しいと陛下はお考えではないか、と」
お門違いもいいところだ。
村の脅威は他人事ではないが、それを何とかしてくれと言われても。
「ですが、ぱじぇろのうぉっしゃーも消防車の魔法科学霊水も元はコージローの車から始まったこと」
「知るかぁ! アンデッドだぞ。対応策なんてあるはずがない」
「せめて、あの土地を封じることができれば、どうにでもなるのですがのう」
八方塞がりのこの状況にニヤニヤしながら、浩史が近づいてくる。
手にはベタベタした真っ黒な何かが付着している。
「社長、パジェロを洗ってたんですが、車輪にこんなもんがこびりついてましてね。こいつがありゃ、何とかできるんじゃありませんか?」
光治郎にはそれに見覚えがあった。
それどころか、この世界に来てからこんなに欲しいと思ったことのない素材。
それは――アスファルトだった。




