帰還
アルトト村にモンデオワゴンが戻ってきた。
車内には王都土産が満載、出迎えたのは浩史とアレク、フレイヤである。
「社長、おかえりなさい。あっちはもういいんですか」
「ああ、連中結構頑張ってくれたよ。電装だけじゃなくて板金まで覚えたし。なんと言っても三車種だけだからな」
「でも、キャリイは新しいのきたらアウトじゃないですか」
帰ってきていきなり仕事の話である。
浩史の言っているのはエンジンの点火方式の話だ。
旧車といっても年式によっては、動作形式が色々と異なる。
電気の力でプラグがスパークする理屈をやっと覚えた連中なのだ。
インジェクターだ、ECUだとかが出てくるとお手上げなのである。
2CV、タイプ2バンはともかく、新しいスズキキャリイのレストアは難しい。
「その辺は神様に言っておいた……おっ、ちょっと待て、まだ話の途中だよ」
「あんた達、彼女をいつまで車に乗せっぱなしにしておくつもり」
「わかったわかった。パレッタ。先に降りてくれ」
悪かったよ。
幾分慣れたとは言え、もともとは鉄が苦手のエルフ族。
……アレクが睨んでるよ。
「さ、さあ、パレッタ様。コージローは放っておいてこちらに」
とにもかくにも長い王都生活から光治郎たちは、村に戻ってきたのだ。
アレクがパレッタを家に送り届け、入れ替わりにガレージに入ってきたのはピートとサティ。
「あっ、コージロー。帰ってきたんですね」
「よう、ピート。新婚はどうだい?」
「イヤだなあ、式から三ヶ月も経ったんです。新婚なわけないでしょう」
「えっ!」
光治郎は浩史と顔を見合わせる。
一方、ピートはピートでサティと一緒に「まだそんなこと言ってんの」という様子。
「浩史、どう思う」
「あー、文化の違いでしょ。日本じゃ一年は新婚で通しますけどね」
「そういうもんか。……サティはどうなんだ」
「ピートと一緒にいられるのは嬉しいですにゃ。でも、もう甘い生活なんてしてられません。それより……」
「後にしようよ、サティ」
「うん……ピート」
なんだよ、やっぱりアツアツじゃねーか、と思いながらもサティの様子が気にかかる。
今は人数が多い。光治郎は、話しをそらすことにした。
「そうだ。お前達がくれた翼竜像の最新版をやるよ。ほれっ」
「えっ、凄い! 新婚旅行で買ってきたものと段違いじゃないですか」
「ああ、あいつら電装のスタッフとして頑張ってるんだ。メッキ技術も上達したってわけさ」
「なるほど……。それで実はサティの話なんですけど」
やっぱりそこに戻るのか。
これは避けて通れそうにないな。
「わかった。フレイヤが村人達も呼んで宴会するみたいだから、そのあとでいいか」
「えっ、明日でいいですよ。コージロー、疲れてるでしょ」
「いや、今日は酒も控えるつもりだったから大丈夫だ」
「ありがとうございます」
二人は一旦、町に帰るらしい。
そのあと、また村まで戻るとなると宴会に間に合うんだろうか。
宴会は村長宅で行われた。
大盛況だった。
大勢の村人、町で世話になった役人さんたちまで。
だが、お開きの時間になってもピートは戻ってこない。
「どうしたんだ、あいつ」
「わかりませんが、結構深刻そうでしたしねぇ」
「一体、何があるんだ」
気がかりなまま夜が更けていき、ようやくガレージにトラックが戻ってきた。
運転しているピートの隣にいるのは、サティともう一人。剣と軽鎧で武装した男である。
キキーッ
ブルブルブル、ブルン
「遅かったじゃないか。どうした」
「すいません。村に被害があるといけませんから」
「なんだ。その物騒な話……と、その前にそちらさんは?」
「あっ、初めまして。ブルーウェルです。冒険者をやっています」
あー、やっぱいるんだ冒険者。
剣に魔法。エルフにドワーフとくれば、当然冒険者もいるとは思ってたよ。
「三峰光治郎だ。それで何があるって言うんだ」
「実は、村の奥にある森からアンデッドが出てくるかも知れないんです」
「はあっ?」
「わかりませんか。幽霊だとかスケルトンとか」
光治郎はまったくそっちに興味がない。
昔、友達の家のゲーム機で見たぐらいである。
「雑魚キャラじゃないのか?」
「とんでもない。村人が襲われたら何人犠牲になるかわかりませんよ」
わかった、と生返事をしながら、光治郎は空を見上げた。
どうやら冗談で済ませられる話ではないらしい。
すでにサティはパレッタを呼びに行っている。
浩史が車を用意しているのを見てもそれがなぜかわからない。
「なんでパジェロなんだ」
「こいつのウォッシャーに聖水が使えるようになってると聞いてましたから」
「あっ、そうか。聖水、聖水ね」
現実感がないまま頬をパチパチと叩く。
このままでは自分だけが役立たずだ。
確かに何かあるはずだ。
それを思い出せず、ジリジリしながら次の手を考えていると、サティがパレッタを連れて走ってくるのが見えた。
「村は大丈夫ですか」
「ああ、まだ被害報告は上がってない」
「アンデッドに効く魔法はあるんですが、専門じゃないので」
パレッタは申し訳なさそうにそういった。
優秀な魔法使いではあっても、万能というわけではないらしい。
「そんなの俺もだよ。でも、いつまでも知らないじゃ、いられ……おっ、もしかして、エミリアならなんとかなるんじゃないか」
「えっ、消防車なんて。あっ、なるほど」
かつてマギルスから放たれた聖水は山を鎮めた。
光治郎はそれを思い出した。
頭の中でカチッと何かがハマり、ようやくメインエンジンがかかったのだ。
「コージロー、よく分かったわね」
「ああ、魔法科学霊水なんぞと言っていたが、エミリアから元は教会の聖水だと聞いていたからな」
もう、苦手分野に尻込みしたまま済ますつもりはない。
本格再起動の夜、三峰モータースは反撃の狼煙をあげた。




