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パレッタ日記

 某月某日

 コージローが熱を出して倒れた。

 昨晩、ガレージに訪れた貴族の応対をした時から、不調だと思っていたのだ。


「もう、無理しないで寝たら」

「ああ、これだけやったら横になるよ。パレッタも早めに休んでくれ」


 やりとりは普通だったけれど、ガレージの表の鍵を閉め忘れていたし、珍しく床に出しっぱなしの工具が残っていた。



 そして朝、起きてこないと思ったら案の定だ。


「仕事立て込んでるんだ。朝食頼む」

「ダ・メ・よ。寝てなさい。マゼンタさんたちにも帰ってもらったわ」

「誰だっけそれ?」

「錬金術師よ、もう。どうして責任者なのに人の名前を覚えるのが苦手なの?」


 おかしな人だと思う。

 日本というところから来たからそのせいなのかと思ったが、ヒロフミはそうでもない。

 やはり、コージローはちょっと特殊だと私は思う。


「いや、どうしても客と取引先を覚えるのが先でなあ、ゴホッ、ゴホッ……そんな名前だったんだ。後の二人は?」

「シェルストフさんとイェリスさんよ。大事な電装のスタッフなんでしょ?」

「まあ、そうなんだけどよ」


 ベッドのそばに軽い食べ物とコーヒーを置いた。

 もっと、体に優しいものを用意しようと思ったのだけれど、断れたの。


「世話かけるな。せめて、車番の連中のための指示書だけでも……」

「いいから寝てなさい。陛下のところにも知らせを出したから、車番の人たちも来ないと思うわ」

「……わかった」


 プイッと、向こうを向いて布団をかぶってしまった。

 やっと、休む気になったらしい。


 階下に降りると机に紙が残っている。

 どうやらこれが昨日書いていたメモのようだ。


 “2CV、キャリイ、タイプ2。どれも貴族様には無理だ。

 となると。

   アウディ80

   BMW 325i

   ◼️◼️◼️◼️◼️

 そんなところか”


 どうやら貴族たちのための車を検討していたらしい。

 どういうわけか三台目が消されている。


 

 その理由はきっと昨晩のやりとりの中にある。

 それを思い出してみようと思う。


「コージロー殿。実は、自動車を一台所望しておるのですが」

「それが、今はバックオーダーを抱えておりまして。陛下にも迷惑をかけているので余裕がないのですよ」

「いえ、我々も急がせるつもりはありません。ですが、三ヶ月くらい待てば何とか融通できるのではないか、と」

「………」


 彼らは一枚の紙を用意していた。


  パットリア伯爵  ベントレー S3

  ルービタン公爵  ローバー  P5

  レンネル子爵   プリンス  グロリア


 それは、陛下にシルバークラウドIIIを献上した直後、貴族に強請られてレストアした車の一覧であった。

 一度は断ったものの人伝てに頼まれ、ノーとは言えなかったのだ。


 彼らは「他の貴族の注文を受けたのだから、私たちにも」と言いたいのだろう。

 まさか、あの時の情けがこんなところで仇となろうとは。


「私たちは贅沢は言いません。納期を急かすこともしませんし、こんなに高級な車じゃなくても良いのです」

「いや、そういうことじゃなくて、ですね」


 そのあと、何回か問答を繰り返した挙句、結局引き受ける羽目になったらしい。

 問題はスケジュールである。


 錬金術師たちも陛下の車番の人たちもレストア作業に慣れてきてはいるものの、それは車種が決まっていたからだ。

 農村で使う頑丈で修理が楽な車。


 今回は、それとは違う。

 彼らが引き上げた後、しばらくガレージの灯りがついていた。



 夜中に私が起きたのは、本当に偶然だった。

 それが、この日記の最初の一文の一言だったのだ。


「もう、無理しないで寝たら」

「ああ、これだけやったら横になるよ。パレッタも早めに休んでくれ……それでさ、これなんかどう思う? サーブ900、って言うんだけどよ」

「知りません! 私は先に休みます!!」


 コージローは、私がもともと鉄に触れることもできないエルフだってこと、忘れてるんじゃないかしら。

 おかゆに唐辛子をたっぷり入れてあげよう。


 風邪が治るように、よ。


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