思惑
レストアを再開した。
今回はメンバーが多い。
錬金術師たちに加え、陛下のロールスを担当している補佐官と使用人たち。
「手伝ってくれるんだって? これ以上、陛下に世話になるわけにもいかなんだけどなぁ」
「いえ、陛下自身が『車両修理を光治郎殿任せにせず、”めかにっく” の修行をして参れ』と仰せでして」
「そいつぁ助かるが、これからやるのはもっとオンボロ車のレトスアだぞ?」
「かまいません」
で、ここにいるわけだ。
浩史が作業を行い、それを錬金術師たちが見学。
光治郎はその様子を解説するつもりだったのだが、どういうわけか全員がシャーシに群がってパネルを磨いている。
それにしても張り切ってんな。
浩史の指導に熱が入ってる。初日にしてあそこまで細かくインパクトレンチの機能を見せる必要はないはずだ。
「まあ、いいか。立ってる者は親でも使えって言うしな。あー、そこもういいぞ。やすりの番手を挙げて仕上げに入ってくれ」
「わかりました」
呆れ返るほど順調に進む作業。
今回、神様が用意した車両はかなりボディの腐食が進んでいて、普通なら交換するようなものも多かった。
ところが板金は覚えるわ、パテ盛りはお手のものになるわで完全に作業分担ができてしまっている。
二日間で三車種。シトロエン 2CV、フォルクスワーゲン タイプ2バン、スズキ キャリイの機械面のレストアが終了した。
「ご苦労さん。ほんと助かったわ」
「我々も勉強になりました」
「そいつぁ、良かった。今日でおしまいにしよう。明日から電装周りは錬金術師たちに任せる。資材は研究所に持っていくから。でもいいのか。メッキを試したいんじゃないか?」
「いえ、あれも研究所の資金稼ぎでしたし、今回もらえる電装スタッフとしての給料の方が大きいぐらいですから。それに、あれは作業の合間に誰か確認すれば、放置できますし」
「頼もしくなったもんだ」
随分と自信をつけたようだ。
教えていた浩史なんか小さなガッツポーズとったしな。
錬金術師たちは陛下の車番とも仲良くなったようだし、これからは人と接するのも問題がなくなるだろう。
モンデオに荷物を積み込み、浩史が送っていくらしい。
「ああ、陛下の車両番さんたちももういいぞ。なんか、教えるって言うより、作業の手伝いばかりさせてた気がするがな」
「それなんですけど。私たちはもう少し修行させて欲しいんです」
「いいけど、明日から塗装だぞ」
「やります。それと……実は補佐官の方からもちょっと要望がありまして」
陛下の車担当補佐官を見ると、申し訳なさそうにモジモジとしている。
よほど言いにくいことなのだろうか。
「実は陛下のロールスの運転者を仰せつかりまして」
「運転を覚えたい、ってか?」
「はい」
考えてみれば、陛下が車で出かけたくても運転者がいなくちゃ話にならない。
これは飛んだ片手落ちである。
「よっしゃ、わかった。そいつは任せとけ。バーターとしちゃあ、ウチが得しすぎだけどな」
「いえ、よろしくお願いします」
結局、陛下の車番たちにも、錬金術師たちと同額の給料を払うことにした。
当人たちは固辞しようとしたが、”仕事をタダでやらせては沽券にかかわる” と光治郎は譲らなかったのである。
作業期間も三ヶ月限定と決めた。
それだけあれば、溜まったレストアのバックオーダーもほとんど捌けるだろう。
「さあ、それなら今日は一旦打ち上げパーティーにしよう。パレッタ、悪いな」
「いえ、人数が多いと腕の振るいがいもあります。みなさん、たくさん用意してますからたくさん召し上がって下さい」
光治郎はこれじゃあ、あちこちに頭が上がらんな、と思いつつもホッとしていた。
彼らが手伝ってくれれば半年はかかると思ったバックオーダーを何割か早く終わらせることができるかもしれない。
「さあ、社長も一杯」
「いや、俺が飲んじゃうと錬金術師さん達を送っていけなくなるから」
「大丈夫です。今日は王都の商人に馬車と御者の準備をお願いしてますから」
「わかった。それじゃあ、レストア講習会も一区切りついた。みんな、ご苦労さん、カンパーイ」
「「「「「カンパーイ!」」」」」
部屋にはオイルの匂いも残っているはずなのに、気にするものはいなかった。
鉄が苦手のエルフであるパレッタ。力仕事が苦手の錬金術師。
どうなら異世界人は随分と順応性があるらしい、と光治郎は感じていた。
だが、酒が進み、記憶はあやふやになっていく。
「仲良くやりゃあ、いいじゃねーか。儲けは赤が出なきゃいーよ。浩史ーっ、新人に入れ込みすぎだ……ぞ……」
「コージロー、風邪ひきますよ」
パレッタが寝落ちしている飲兵衛たちに毛布をかけ終わった頃、自然に酒宴はお開きになった。
翌朝、浩史が帰ると言い出した。
村とこっちの二つのガレージで同時に作業を進めたどうか、と言うのだ。
昨日から何か考えてるな、とは思っていたが。
「そりゃ、できれば理想だが大丈夫か。あっちは浩史とアレクだけだぞ」
「平気ですよ。それにできた車の試走をピートに頼めますし」
確かにそれならレストアは一気に進む。
しかも、利点はそれだけではない。
実は、王都で売った車の修理の話が入ってきているのだ。
ということは、当然村の方でも事情は同じだろう。
故障が起こるのは仕方がないが、迅速に修理できなければ車の普及はあり得ないからだ。
「うーん、それじゃあ、パレッタを連れてあっちで頑張ってもらうか」
「あら、私は残りますよ」
「ええ、パレッタさんには残ってもらわないと。こっちは社長一人で大変なんですから」
「錬金術師たちもいるし、陛下の車番も手伝ってくれるから大丈夫さ」
問題はない。
この異世界に来た時は一人だったし、身の回りの世話にパレッタが残ってくれるならほんとに心強い。
これは、掛けた迷惑を取り返す千載一遇のチャンスである。
「やるか」
「ええ、アレクが文句言いそうですけどね」
確かに王都から浩史だけが戻っきたら、パレッタ命のアレクがなんと言うか。
「ハハ、それは我慢してもらうしかねーな」
「それじゃあ、よろしく頼むわ」
「任せて下さい」
モンデオワゴンがが快調な音を立てて、飛び出していく。
こっちの残ったのはA112とレストア途中の三台の車。
光治郎は浩史を見送った後、計画を練り始めた。
昨日は飲み過ぎだから、連中が来るとしても午後だろう。
それまでにレストア車両の前倒し計画を考えていると。
トントン
ガレージを叩く音が。
ガラガラと開けると、みなりのいい服をきた男が二人。
「あのー、あなたがコージロー・ミツミネ殿ですか」
「はあ、そうですけど」
「実は、自動車を一台所望しておるのですが」
物言い柔らかく腰が低い。
陛下に献上したロールスに匹敵する車を欲した横柄な高位貴族とは異なる。
高い車を欲しがっているわけではないし、農村に普及させている車が欲しいわけでもあるまい。
では、何を。
陛下に覚えめでたいパレッタを出せば帰ってはもらえるだろう。
だが、そう簡単に追っ払っていいモノとも思えない。
では、受けるか。
異世界人の貴族に要望を聞いても分かりやすい答えなど持っていないはずだ。
今までレストア経験のない車を、延々探し続ける羽目になることも考えられる。
経験上、こういう ”厄介な顧客” を満足させることが一番大変なのだ。
光治郎は新たな面倒事に巻き込まれる予感を押し殺し、ガレージを開け客人を向い入れた。




