爆発の煙? これはタバコの煙です
新しい街に来てからひとつきほど
ハクアは街の周辺に生息している気性の荒い魔物を気まぐれに狩り尽くしていた。
クロエは最初の数日で街のならず者を牛耳り、街の裏社会を支配した。
そして俺はそんな二人のクレーム処理に追われ、今も面倒なことに巻き込まれていた。
「ヤシロさん! 貴方の言ったような効果のあるポーションが出来ましたよ!」
そう言って俺に声をかけてきたのは、白衣を身にまとい。
頭髪をアフロ状にした男。
名をヤブという。
この街に初めてやって来た時に、薬師ギルドでヒロポ……ゲフンゲフンを作り出していた男だ。
普段はアフロじゃないが、今日は直前に他の薬師の爆発に巻き込まれたらしい。
そんな話はどうでもいいか。
ヤブから青く光るポーションを受け取り、じっくりと眺める。
「……これで腰の痛みが本当に消えるのか?」
「ええもちろんですとも! 腰の痛みに悩む先輩方でじっけ——協力をしてもらいましたから!」
本人の同意なく人体で臨床試験してやがるなコイツ……
元の世界ならありえない倫理観だが、この世界はこれが普通なのだろう。
俺はポーションの瓶を懐に仕舞うと、ヤブに言った。
「ご苦労。報酬のタバコだ。受け取れ」
そう言ってアメスピの1mgをカートン分手渡す。
未だに小出しにしか出せないので、こうするしかない。
「ありがとうございます! 次のポーションを作ってきますね!!」
俺からの報酬を受け取ったヤブはペコペコ頭を下げながら去って行った。
俺はヤブに体の不調を治す効果のあるポーションの作成を依頼していた。
この世界は、異常な速度で傷を癒すポーションとかいう薬はあるが、体の不調——例えば頭痛や腰痛の痛み止めといった効果のあるものは存在していなかった。
切り傷が一瞬で治る効果のあるポーションを頭痛程度で使うことはまずありえない。
だからこそ俺はそこに目を向けた。
専門的な知識はないが、痛みを止めることは傷を治すよりも簡単だと思った。
アセトアミノフェンやイブプロフェン。
薬のCMとかでこの単語は出ていたりするので、耳にしたことはあるだろう。
この二つないし、それに準ずる効果のある薬草をピックアップしてもらい、それを加工し薬にしてもらった。
最初は難色を示していたが「さすがに一流の薬師といえど難しいか……ああ、気にしないでくれ。もとより期待はしていないから」と伝えたところ。
「出来らぁ!!」と元気な返答があった。
出来るのならばやってもらうしかない。
泣き言を言ってくることもあるが、ストレス解消にとタバコを勧めた結果。
しばらくしてから「報酬は金銭に加えてタバコも欲しい」と打診された。
本人がそう望むのならそうしよう。
体に害があることをちゃんと説明したうえで報酬として渡す契約が為された。
タバコを吸うきっかけは人それぞれだ。
俺も恩人の社長に「一人前の男なら、タバコと酒は嗜んでおかないとな!」と言われて吸い始めたんだったか。
懐かしさに浸っていると、背後から声をかけられた。
「ソコノニンゲン。チョットイイカ?」
随分とカタコトな発音だが、イントネーションは悪くない。
俺は声のした方へ振り返ると、目の前には壁ができていた。
「……ぅぉ、デカッ」
思わず口にした言葉の通り。
目の前に現れたのは壁ではなく、巨大な人間だった。
身長は2mを優に超えているだろう。
着ている衣服はパツパツで、見るからに筋肉質であることがよくわかる。
顔を見上げると、肌は褐色で強面の顔には幾つもの傷跡が刻まれていた。
どう考えてもカタギの人間じゃない。
とはいえ、こんな大柄な冒険者は前の街を含めて見たことがない。
「——あー申し訳ない。あまりにも大きかったのでつい」
「キニシナクテイイ。ソレヨリキキタイコトガアル」
「まあ……俺でわかる範囲なら」
俺に何かを聞かれても大した情報は得られないと思うんだけどなぁ。
「ハジマリノマチーヘツヅクドウクツガキエテイルノダガ、ナニカシッテイルカ?」
「——悪いな。俺もそれについては何も知らないんだ」
シラを切ることにした。
ピンポイントで俺たちがやらかしたことへの質問だ。
下手に口を滑らせるわけにはいかない。
当たり障りのない事だけ言うとしよう。
「それにしてもビックリだよな。あんなことができる人間がいるなんてな」
「|タシカニ。スクナクトモ、Sランクイジョウノボウケンシャノシワザダロウナ」
「……俺はまだ駆け出しなんだが、Sランクってのはそんなにヤバイ連中なのか?」
「ジンルイサイコウホウノジツリョクノアルレンチュウダ。コノオレデスラテヲヤクレンチュウダ」
「なるほどねー」
どうやら目の前の大男はそのSランクの人間を相手取れる実力者のようだ。
なおさら俺らが山を消したことは秘密にする必要がある。
「悪いが俺は用事があるからもう行くが、お前さん。名前は何て言うんだ?」
「——ブルンガルドダ。オマエノナハ?」
「おっと。先に名乗るべきだったな。俺の名前はヤシロだ」
「ヤシロ、カ。オボエテオコウ。オレノスガタヲミテモヒルマヌヒンゲンハメズラシイカラナ」
「そりゃどうも。じゃあなブルンガルドさんよ。また機会があれば、その時は酒でも飲もうや」
俺は大男——ブルンガルドに背を向けて歩き出した。
◇
無事に宿屋に辿り着き、ドアを閉じるとその場にへたり込んだ。
ふぅぅぅぅううううう! あっぶねぇー!
何であの大男は山が消えた原因を探っていたんだ?
もしかしてこの街の領主の関係者か?
だとしてもだ、山を消した場面を見ているカールさんはもうハジマリノマチーへ帰っている。
少なくとも俺たちの誰かがうっかり漏らさなければバレることは……ない、はず……クロエ……お前まさか酒場で自慢したりしてないよな?
いや、アイツなら十分あり得る。
流石にハクアはそういう事は漏らさないだろう。
たぶん「君が山を消したのか?」と聞かれたら素直に答えると思うが、自分から言う事はまずないだろう。
二人が戻ってきたら釘を刺しておく必要があるな。
窓を開け、タバコに火をつけ一服する。
……窓から見える景色に先ほどの大男がキョロキョロしながら歩いている姿が見えた。
すぐに窓を閉めて姿を隠す。
あの大男が敵か味方なのかわからない以上、かかわるのはやめておこう。
俺は部屋の隅に縮こまってハクアとクロエの帰りを待った。
ブルんガルドさんは褐色で筋肉モリモリマッチョマンです。
ヤシロに声をかけたのは本当にたまたまで、宿の前を歩いていたのもたまたまです。




