タイトル未定2026/08/26 11:20
山が消えた。
何でそうなったのかは俺の口からとてもじゃないが言えない。
カールさんが連れてきた商人たちに説明を求められても、俺には説明できない。
天使であるハクアが一瞬で消し去りました。
俺だったら「気は確かか?」と言いたくなる。
実際、こいつ気は確かか?と思っている。
商人たちは呼び寄せた冒険者に対してどう説明するのかを話し合っていた。
「ハクアとクロエがどうにかしたっていえば諦めると思うよ。それでも文句言ってきたら名前聞いといてね? あとでクロエが直接文句聞きに行くからって伝えといて。逃がさない、とも付け加えといて~」
クロエのその言葉に商人たちは口を噤んだ。
空気がもうお通夜みたいに重い。
てっきり冒険者にだけかと思ったが、商人にもクロエの悪行は轟いているようだ。
…………まあいいだろう。
問題も無事に? 解決したんだ。
俺たちは先を進むとしよう。
「カールさん。俺たちはこの場を離れましょう。冒険者を雇う代金は払ってないんですよね?」
「え、ええまあそうですね。しかし……よろしいのでしょうか……」
「良いに決まってるじゃ~ん。冒険者呼んだのはアイツらなんだしさ~。——そうだよねぇぇえ?」
商人たちが「はいいいい」と悲鳴をあげた。
俺はクロエの頭を掴んで無理矢理頭を下げさせた。
「いやー、申し訳ない。俺たちはこのまま行きますので、後の事は頼みます。クロエも俺が抑えときますのでお気になさらずー」
カールさんの馬車にクロエを押し込み、俺たちはその場を後にした。
◇
更地になった山の跡地を馬車で進み、目的地である次の街へ辿り着いた。
「では依頼完了ということで」
「え、ええ。因みに帰りの護衛は——」
「申し訳ない。別の冒険者を雇っていただけると助かります」
「いえいえ。アナタ方のランクを考えると、かなり破格でしたから問題ありませんよ。いつかまた縁があることを願います」
そう言うと、カールさんは去って行った。
残された俺たち三人。
新しい街——その名は「オーダヤカ」
特産は野菜なのだそうで。
実際、街の周辺はのどかな田園風景が流れていた。
この街は魔物の脅威があまりないのだろう。
穏やかな雰囲気に俺の心も穏やかになっていた。
そんな俺の穏やかな心を乱すように、ドンッ! と何かが爆発した音が聞こえた。
「おいクロエ」
「え、待って。僕じゃないからね?」
「あちらから煙があがっていますね。見に行かれますか?」
ハクアが指差す先を見ると、建物の隙間から煙が見えた。
本当にクロエは何もしてないらしい。
俺たちが原因でないのなら関わらなくてもいいか。
それに——
「いや、周りを見てみろ。誰も騒いでないということは大事ではないんだろ。とりあえず先に宿を探して、そこで話を聞こう」
「承知しました」
街の人たちは何故か誰も騒がず普段通り、といった感じだ。
クロエに詫びチューハイを手渡し歩き出した。
◇
「薬師ギルド?」
「ああ、この街の薬師は変わり者が多いからな。また何かの薬品が爆発したんだろうよ」
宿泊を決めた宿屋の店主に先程の爆発について尋ねたところ、このような返事が返ってきた。
薬師ギルドねぇ。
たしかハジマリノマチーにもあった気がする。
薬に使う材料の採取を依頼として冒険者ギルドに張り出していたな。
俺らもいくつかこなした覚えがある。
納品は冒険者ギルド経由なので、薬師ギルドの連中と会ったことはなかった。
というかこの世界の薬品の取り扱いはどうなっているんだ……
下手に近寄って変な薬品で害を及ぼされるのはゴメンだ。
後で薬師ギルドの場所だけ確認して、それ以降は近づかないようにしよう。
宿屋の主人に礼を告げ、街の中を探索することにした。
◇
買い出しやらを済ませたので薬師ギルドへ向かう。
買い出し中も数度の爆発音が聞こえた。
街の人たちは静かなものだ。
音に反応はするが、すぐに気にしなくなる。
事前に聞いていた道を突き進むと、
ツギハギだらけの大きめの建物が現れた。
色んな窓から色とりどりな煙がもくもくとあがっている。
「よし。場所も確認したし帰るか」
「おやおやおや? 薬師ギルドへと入会する方々ですか?」
「……違います」
早速絡まれた。
「俺ら冒険者なんで……」
「冒険者! ということは素材を取って来てくれている方々じゃないですか! さあさあ是非とも見学していってください!」
「いやー、今日はちょっと時間がー」
「まあまあそう言わずに。実は自分が今作っているポーションはですねー、一口飲めば疲労がポンッと抜けるポーションでして——」
駄目だ。
これ以上この場にいると世間に出てはいけない名称が出てしまいそうだ。
疲労をポンッととるなよ。
「ヒロボ『クロエ~? 黙ろうな~?』——帰ったら飲み放題ね~」
「ハクア。クロエを担げ。逃げるぞ」
「しょうがない主様ですね。承知しました」
俺たちは薬師ギルドから逃げ出した。
◆
「——ン?」
大柄な男が作業の手を止めて後ろを振り返った。
「……オレノゴーレムノハンノウガキエタ?」
大男は手に持つノミを小さなテーブルへと静かに置いた。
「アダマンタイトヲマゼタゴーレムヲチュウオウニハイチシタハズダガ……」
大男は思案する。
出来の悪い頭といえど、問題が起きれば「何故そうなったのか」と思案するだけの知能はある。
大男——世間では魔の十傑の一人であり。
『不動の巨兵』を二つ名に持つブルンガルド・ゴライアスは思案する。
何故ゴーレムの反応が消えたのか。
それはすなわち、それほどの強者があの地にいたという事になる。
それは死んだ友である『万生の汚泥』イジークマト・ミュルダールを殺した者がいる可能性が高い。
ならば答えは一つしかない。
「マッテイロ。イジークマトヲコロシタコトヲコウカイサセテヤロウ」
不動の巨兵は動き出した——
友を殺した仇敵を殺すために。
魔の十傑ーー動きます!!




