飲み会のネタになる
お嬢様はベッドの上で上半身を起こし、俺はその傍にある椅子に腰掛けていた。
「ヤシロ様のお好きな女性のタイプはどのような方ですか?」
「あー、そうですねー。家庭的?な女性がいいですねー」
「そうなんですね。わかりました」
何がわかりましたなのかあんまり考えたくないが、お嬢様のテンションが凄い高い。
なんだろう、例えるのならとてもヤル気に満ち溢れた新入社員と対面している様な…………違うな。
これは別のナニカだな。
遥かに年下の女の子にグイグイこられるという経験がないせいで――あるにはあるか。あれは金目当てだったからわかり易かったが、今回は目的がわからん。
とにかく俺はかなり困惑していた。
部屋の隅でハクアとクロエは爆笑しているのも気になる。
「ヤシロ様?」
お嬢様の声に思考が戻される。
この子はやばい。
俺が少しでも別のことを考えていると、即座に目の光が消える。
今は適当に話を合わせてこの場を乗り切るしかない。
「こうしてお話を伺っていると、お元気そうで安心しましたよ」
「貴方様が貴重な薬を使ってくださったおかげです。本当にありがとうございます。このご恩は私の命に変えてでも……いえ、私自身をもって返させていただきます!!」
「ハハハ……お気になさらず……せっかく助かった命なんですから、これからは自分の為に生きてください」
このままいくと嫁に貰ってくれ、と言い出しかねん。
体調に触るからとか適当に理由をつけて帰るとしよう。
「貴女の元気な姿も見れましたし、そろそろお暇しますね」
そう言って腰を上げると――ガシッと腕を掴まれた。
「何処へ――行かれるのですか?」
「…………お嬢様の体調も万全ではないでしょうし、帰ろうかと」
「もう少し、もう少しだけ傍にいてください。まだ怖いのです。一人でいると、あの暗闇の中にいる時の恐怖が蘇るのです……」
「そう、ですか……」
俺の腕を掴む手は震えていた。
一年もあんな状態で苦しんでいたんだ。
12歳の少女には、あまりにも過酷な仕打ちだっただろう。
そう思い、浮かした腰を下ろす。
するとお嬢様が抱き着いてきた。
「あの……」
「お願いします。どうか、少しだけこのままで――」
少女のその言葉に、ヤシロはそれ以上何も言えなくなり、流れに身を任せることしか出来なかった。
そして、ヤシロの胸に顔を埋める少女。
伏したその表情は少女というには似つかわしくないほどの、魔性を秘めた笑みを浮かべていた――
◇
「ああぁぁ……疲れた」
「お疲れ様です。主さブフッ――ククク」
「m9(^Д^)プギャー」
「ぶち殺すぞ貴様ら……」
何とか抱き着くお嬢様を引き剥がし、宿へ戻ってすぐベッドに横たわる俺を見て、カス共は心底楽しそうな笑みを浮かべていた。
年下の相手の次は圧倒的年上の対応をしなきゃいけないのか……
ベッドから身を起こし、タバコに火をつける。
「で、お前らはこうなると知ってたな?」
「ええもちろん」
「事前に調査済みで〜す!」
二人は「「ねー」」と息のあった返答をした。
恐らくだが、俺に害はないと判断したから黙っていたのだろう。
そうでなければ、ハクアとクロエのどちらか片方は警告を発する。
冒険者ギルドの依頼でも、そういう場面は度々あった。
ハクアとクロエで危険度の違いがあるので、ハクアは問題無しと捉えても、クロエ的にはアウト。ということがある。
そしてその逆のパターンもある。
なので、二人同時に黙る際はほぼ危険のない証拠でもある。
だからこそ今回はハクアがお嬢様を試すような事を言ったので、ある程度警戒はしていた。
てっきり俺の目で見極めろ、と暗に言っているものだと思っていた。
蓋を開けてみれば二人の娯楽のネタにされただけなのだが……
「ふー、お前ら今日はタバコと酒はナシだからな」
即座にブーイングがかえってくるも、それを一蹴する。
「お前らまだストックがあんだろうが、それで我慢してろや」
「私はあと二箱しかないのですが?」
「僕は一升瓶が一本だけなんだよ?」
「十分じゃねーか」
まったくコイツらは……これから忙しくなるんだ、さっさと動いて余計なことをさせないようにしよう。
「そんなことよりもだ、冒険者ギルドに行くぞ。それが終わったら買い出しだ」
俺の言葉に二人は顔を見合せる。
それもそのはず、さっき思いついたので二人にはまだ話してすらいなかった。
何故冒険者ギルドへ行くのか、何故買い出しに行くのか、その答えを二人に告げるかどうかは冒険者ギルドに目当ての依頼があるかどうかにかかっている。
なかった場合は……その時考えよう。
◇
「護衛依頼、ですか?」
冒険者ギルドの受付嬢ことアイリーンは疑問の声をあげる。
普段の俺らは魔物の討伐か、素材採取の依頼しか受けていない。
なので護衛の依頼は初めて受ける。
そして彼女的にも俺らが他人の護衛を請け負うとは思ってもいなかったのだろう。
「できれば早めに出発するのがいいんだが……」
「えっと、もしよろしければ理由をお聞きしても?」
「いやぁ色々あってね……少しこの街を離れようと思ってね」
「なにか事情があるようなので、詳しくは聞かないでおきますね」
さすがは冒険者ギルドの受付嬢。
コチラの詮索はしないで仕事に専念してくれるようだ。
「そうですね……隣の街へ向かう商人が護衛を募集していますが、ヤシロさんたちのランクが請け負うには見劣りする額になりますね。どうされます?」
低い報酬か。
今は金よりもこの街を出る口実が欲しい。
「ちょっとアイリーンちゃ〜ん。僕たちが請け負うにはちょーっと難易度低いんじゃないかな〜?」
「少し黙ろうな。この依頼を受けるよ。いつ出発できる?」
「依頼人のお店を教えますので、詳しい打ち合わせはそちらでお願いします」
「そうか。わかった、ありがとう。早速行ってみるよ」
「いえいえ。お早い帰りをお待ちしてますね」
アイリーンはニッコリと笑みを浮かべる。
この子ともしばらくお別れか……名残惜しい。
いっそ一緒に来ないかと誘う――のはやめておこう。
アイリーンにまでカス共の重荷を背負わせるわけにはいかない。
さあ、行くとしようか。
「ハクア、クロエ――行くぞ」
「はい主様」
「はーい!」
俺たちの新たな旅の始まりだ。
お嬢様「私がこうすることで喜ばぬ男はいなかった」(累計1人)
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