酔いどれ
「今どんな感じ?」
首がジグザグになったクロエが戻ってきた。
……なん、え、なにその状態。
なんで首がそんな状態になっても生きているんだ?
無言でじっと見つめていると。
「ん? あーはいはい。気になるよねー。《再生》――お、おごごご、ぎっ! ふー、はい治ったよ」
クロエが呪文を唱えると、緑色の光とともにジグザグに折れ曲がった首が、ゴキゴキと音を立てながら治っていった。
「なんでそんなホラーじみた治り方なんだ?」
「僕に言われてもねぇ」
「お前の魔法だろうに……」
「だから、僕にいわれてもねぇ」
「もういいです……」
ダメだ。
コイツに何を言っても無駄だろう。
とりあえず今のこの状況をどうにかするしかない。
俺は膝の上で寝ているハクアをどうするか考えた。
「へ~、ハーちゃんってそんな風になる事もあるんだー」
「とりあえず宿に戻りたいから、ハクアを連れて先に戻れるか?」
「主様は一緒に来ないの?」
「俺はほら、ココの後始末があるから……主に金銭的な意味で」
「あー、なるほど。了解。ほらハーちゃん、行きますぐええええええええええええ!!」
クロエがハクアに触れた瞬間右ストレートを叩きこまれ、またもや外へ飛んでいった。
……もしかして、シンプルにクロエにだけそういう機能が発動するだけなのか?
とりあえず考えるのを止め、酒場の店主に告げた。
「申し訳ないが店の修理費の支払いは明日でもいいか? たぶん俺じゃないとこの子を連れて帰れなさそうなんだ」
「あ、ああ。それでいい。というかさっさと出てってくれ」
「本当に申し訳ない。明日必ず修理費を払いにきますんで……」
ペコペコ頭を下げながらハクアを背中に背負うと、店の外に出てクロエを探す。
アイツも回収して早く宿屋へ戻ろう。そう思いながら辺りを見回し――別の店の壁に突き刺さっているクロエを回収してから宿屋へと戻った。
◇
朝か。
窓から差し込む日差しで目が覚めた。
俺はベッドから体を起こし、周囲を確認する。
なんで、なんで、こうなった…………
宿屋で借りている一室は血で濡れていた。
何故か知らないが、部屋の隅で横たわるクロエにはモザイクがかかっている始末だ。
そんな部屋の扉が突然開けられ、一人の女が入って来る。
「おや、おはようございます。よく眠れましたか?」
「お、おお、ハクアか。おはよう。お前もよく眠れたか?」
「私は……少し頭が痛いですね」
「そうかそうか。なら今日は宿で休んでるといい。俺は行かなきゃいけない所があるからな。クロエの処理は任せた」
それだけ告げるとそそくさと部屋を出て、昨夜の酒場へ向かった。
◇
ふう……何とか許して貰えた。
酒場の主人に壁やら天井やらの修理費を握らせ、最後には足りなければ冒険者ギルドへ伝言をするようにと伝えておいた。
終始顔が引きつっていたが、無理矢理金の入った袋を握らせてなんとかなった。
目先の問題も片付いたので減った金を補充する為の依頼を冒険者ギルドへ探しに行くことにした。
◇
「そうですね……今はヤシロさんたちにお願いするような依頼はありませんね」
「そうなのか。いっそのこと俺らのランクよりも上の依頼でもいいんだが」
「そのようなことは致しておりません。規則ですので」
「……そうか。わかった。無理を言って悪かったな」
俺は冒険者ギルドのいつもの受付嬢――アイリーンに声をかけていた。
彼女は俺がこの街で唯一といって良いほど好感を持てる女性だ。
所詮は仕事での対応なのだろうが、それでもうちのカス共と比べると天と地ほどもある愛想の良さだ。
この子こそ天使じゃないのかと俺は疑っている。
「張り出されていない依頼でいいのはない感じだよな?」
「うーんと……今のところないですね。というよりも、ヤシロさんたちはそれなりに稼いでると認識しておりましたが、差し支えなければ依頼を求める理由をお聞きしても?」
「いや、その……うちの二人がやらかしてな。修理費とか慰謝料的なものでそれなりに減ったんだよ……」
「あー、ハクアさんとクロエさんですね? お二人は二つ名が出来るくらいには有名ですからね」
二つ名? え、アイツらにそんなものができてるのか?
「因みに、どんな二つ名なんだ?」
「そうですね――」
アイリーンから二人の二つ名を聞いた俺は笑った。
乾いた笑いではなく、的を射ているという意味で笑った。
なので、いつの間に冒険者ギルドに来ていたハクアとクロエに声をかける。
「おう、お前ら」
「なんですか主様。ニヤニヤして」
「なになに~? アーちゃんと喋れたのがそんなに嬉しかったの?」
「黙れカス共がよー」
口を開けばロクな事を言わない二人を黙らせ、俺は告げた。
「お前ら喜べ、他の冒険者から二つ名付きで呼ばれているらしいぞ」
アイリーンの話では、ハクアとクロエの二人に二つ名がついたようだ。
二つ名とは本人の名前以外に呼ばれる称号のようなものだ。
サッカーとかで有名な選手がファンタジスタとか呼ばれる例のあれだ。
そんな二つ名が二人にもつけられたらしい。
「あー、ついに来ちゃったかー。僕たちに超絶カッコいい二つ名」
「私は特に興味ないですね。他人からの呼び名など、どうでもいいので」
「お前らはホント反応が極端だよな」
二人の反応の差に慣れた気もするが、この二人の興味が出るラインというものが未だによくわからずにいた。
わからないままだが、事実を告げる分には問題ない。
「それじゃあ、お前らの二つ名を言うぞ?」
「オッケー!」
「まあ、はい。どうぞ」
二人からの了解も得られたので、俺は二人に告げた。
「まずはハクア。お前は〝白煙の銀華〟と呼ばれているそうだ」
「へえ……まあまあですね」
「え、なにそれ。めっちゃカッコいいじゃん。ずるい」
「クロエ。お前は〝酔いどれ〟だ。よかったな、カッコよくて、この酔っぱらいが」
「――は? 何でさ!! 究極可愛いこの僕の二つ名が〝酔いどれ〟⁉ 納得いかないねえ!!」
「俺に文句言うなよ。文句は周りの冒険者たちに言え」
俺がそう言うと、周囲の冒険者たちが我先にギルドから逃げだした。
正直この光景がこの二人の正当な評価なんだろうと俺は一人頷いた。
「待てやゴルアアアアアアアア!!」
「――哀れね」
逃げる冒険者を追いかけるクロエを見ながらハクアがポツリと呟いた。
クロエは常に酒を飲んでいるので周囲には常に酔っている美少女と思われています。
一方ハクアはクールな美女の振る舞いをするので、周囲からは高嶺の花と思われています。
ヤシロ? そんな美女二人を従えている普通の男と思われていますし、なんなら同情されてます。




