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白煙の銀華

 

「ところで」

「なんだ?」


 逃げ惑う冒険者を襲うクロエを尻目に、ハクアが口を開く。


「主様の二つ名はないのですか?」

「俺? 俺のはないらしいが、強いて言うのなら〝飼い主〟なんだと」

「……私たちが飼われている側だと?」

「俺に文句を言われてもなあ。他の連中が勝手にそう言ってるってだけなんだし」


 二つ名なんてものは他人が勝手に呼んでいるにすぎない。

 なので俺に文句を言うのは、お門違いというものだ。

 ひとしきり冒険者を襲ったクロエが鼻息を荒くしながら戻ってきた。


「失礼しちゃうよねー! こんな可愛い子を酔っ払い扱いなんてさっ!」

「否定できんだろうに」

「普段の行いのせいよ」

「ムキー!!!!」


 わかりやすく怒りマークを頭に浮かべたクロエが地団駄を踏み鳴らすと、建物の天井からホコリがパラパラ落ちてきた。

 やめろやめろ、怒りで力加減が利かなくなってやがる。

 ハクアに目配せをすると、すぐにクロエを肩に担ぎ上げた。


「うおおおおー! 離せー! 自分だけカッコイイからって調子に乗りやがってー!!」

「主様が寝た後に部屋を抜け出して酒場で毎度暴れるからよ」

「ち、ちが僕はただ楽しく飲んでいただけで――」

「時折ビクビクしながら勇気を振り絞った人間が私に言いに来るのよ? アレをどうにかして下さいって」

「だ、誰だ! そんなこと言うやつはー!?」


 周囲の無事な冒険者は皆顔を背け、自分には関係ないとしらを切った。

 まあ仕方ない、俺だってそうする。

 生前も酔うと面倒な輩はいくらでもいた。

 いたのだが、コイツは群を抜いて酷い。

 魔法とかいう訳の分からない力を使えるので、質の悪さは俺の中で歴代ナンバーワンだ。


「ぐえええええ!!」


 いきなりハクアがクロエを地面に叩き付ける。

 悲鳴を上げたクロエはそのままグッタリとし、身動きを止めてしまった。


「まったく……申し訳ない皆さん。クロも黙りましたので、私どもはこれで失礼しますね」


 ハクアはグッタリしたクロエを再度肩に担ぎ直し、俺の手をとるとそのまま冒険者ギルドの外へ向かって歩き出した。

 あ、俺も出て行く感じなのね。

 手をハクアに掴まれたので、俺もクロエと同じ結末を辿りたくない。

 黙って従うことにした。


 ◇


 あれから数日が経ったある日。


「ヤシロ様。本日は御願いがあってまいりました」


 門前払いをしていたエドガーがどうしても俺に会いたいと、ハクアから告げられたので会うことにした。

 エドガーの感じからして切羽詰まった様子はないので、お嬢様の容体が急変したというわけではなさそうだ。

 なさそうなのだが……俺の勘がこれは、面倒事だと告げている。


「…………話だけなら聞こう」

「おお! ありがとうございます! ――ではですね」


 そこから語られる内容を簡単にまとめるとこうだ。

 例のお嬢様の体調はあれから良好の兆しを迎えており、今ではある程度の固形物も食べられるまでに回復したのだそうだ。

 無事に回復したのならめでたいことだ。

 俺みたいに不摂生がたたった結果なら納得も出来るが、さすがに自分よりも年下の娘が死ぬのは寝覚めが悪すぎる。

 なので俺的には一安心したが、エドガーはこう言った。


「お嬢様がヤシロ様に、直接お礼を言いたいそうなのです」


 お礼ねぇ……いや、言いたいことはわかる。

 俺だって生前に通りすがりの謎の人物が、ガンを治療してくれたのなら全力でお礼をしただろう。

 というか、何が何でも探し出して金を握らせるし、その後の活動の支援もする。

 向こうからしたら俺たちがその人物なのだろう。

 さすがにここで断るのは印象が悪すぎる。


 お礼を言われるだけなんだし、会ってもいいかな。


「わかった。そちらに伺っていい日程を教えてもらってもいいか?」

「今すぐでも構いませんが」

「……明日。そう、明日にしてもらえないかな?」

「畏まりました。では明日の早朝迎えに参りますので、私はこれで失礼いたします」


 エドガーが部屋を出ていくのを見送り、椅子に腰かけた。

 俺の中でのお嬢様は瘦せ細った姿しかしらない。

 あれからそれなりの日数が経っているが、果たしてどれ程の回復をしているのか予想もつかない。

 それに、貴族令嬢という人間がどんな態度をとるのか楽しみ半分、不安半分といったところだ。

 貴族なだけあって高飛車な態度をとるのか……さすがに命の恩人にそんな態度はとらないよな?


 アレコレと考えていると、部屋の扉が勢いよく開いた。


「たっだいまー!」

「おう、おかえり。また朝帰りか?」

「今日も地道なロビー活動をしてきたからね~、手ごたえは――あるよ」

「お前、ロビー活動の意味を間違って使ってないか?」


 クロエはここ最近、例の二つ名である〝酔いどれ〟を払拭するべく何やら動き回っている様子。

 催眠魔法や洗脳魔法の類は使うなと厳重に注意しているので、地道に何かをしているようだ。

 何をしているのかまでは知りたいと思わないので好きにさせている。

 俺とハクアが尻拭いをする羽目にはなっていないので、大人しく活動を続けているようだ。


「あら、クロ。お帰りなさい。ちょうど朝食ができたから貴女も食べなさい」

「は~い。聞いてよハーちゃん。もう少しで僕のカッコいい二つ名が生まれるよ!」

「はいはい。寝言は寝てから言いなさい。主様もクロの言うことは話半分で聞いてていいですよ」

「もとよりそのつもりだ」


「ムキー!」と怒るクロエを尻目に、テーブルの上にバランスのいい朝食が並べられた。

 ハクアが用意した朝食を三人で食べている最中に、頭の中にある疑問が浮かんだ。


「そういえば、お前らってこの世界に来る前は二つ名とかあったのか?」


 それはシンプルな疑問だった。

 この二人は元々、神様を名乗る謎の存在の部下だった二人だ。

 二人が語る様々な世界での悪行――もとい神の僕としての仕事の話は何度も聞いた。

 そんな世界を股に駆ける二人ならば、二つ名の一つや二つはあってもおかしくはないと考えた。


「もちろんあるよ~。とは言っても、身内がそう呼んでたってだけなんだけどね~」

「身内……ということは他の天使か?」

「ええそうです。もっとも、私とクロは仕事内容から直結したような呼び名でしたね。主様は生前その様な呼び名はなかったのですか?」

「俺? 俺は……基本的に苗字か社長のどちらかで呼ばれていたな。日本での二つ名なんて役職名くらいだな」

「なるほど。では私たちも社長とお呼びした方がよろしいですか?」

「今まで通りでいい。会社もないしな」


 会社もないのに社長と呼ばれるのも変な感じだしな。

 ……なんか話を逸らされた気がする。

 よっぽど聞かれたくない二つ名なのか? 是非とも聞き出さなくては――


「それで、二つ名はなんだったんだ?」

「そうですね。私たちの二つ名は――」

 

クロエがすっかりギャグキャラになってしまった……


次回、当初の予定で考えていた二人の二つ名が判明します。

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クロエもハクアも最初からギャグキャラでは……
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