酒場で飲もうか!
「なんで図書館に入るのに金がかかるんだ……」
「この世界では本の類は貴重ですので。知らなかったんですか?」
「知らないから次は事前に教えてくれ……」
「わかりました」
俺は今、ハクアと共に来たくもない図書館へ来ているうえに、金も取られた。
そういう店に行くのを誤魔化すために、咄嗟に「図書館に行く為に通りがかった」なんて言うんじゃなかった。
別に素直に告白してもよかったが、天使とはいえ女性であるハクアに面と向かって「女を抱こうと思っている」なんて言うのはちょっとな……
さすがの俺もその辺の配慮はする。
昨今はやれパワハラだ、セクハラだ、〇〇ハラだと何かとうるさい世の中だ。
生前運営していた会社でも、その辺の講習は定期的に行っていた。
社長である俺が一番多くの講習を受ける羽目になったのだが……まあ、それに関しては全然問題ない。
むしろ俺が率先してそういうことに気をつける必要性があるので、いち早く対策できたのはいいことだと思っている。
そういった訳で、ハクアとクロエに直接的にそういう場面を見られたのなら全力で誤魔化す。
何となく察している可能性はあるだろうが……いや、さすがに気づいているだろう。
気づいたうえで俺の言い訳を受け入れてくれているのなら、これ以上何も言うまい。
俺は本棚から適当な本を手に取る。
本の表紙には簡単に開けないように錠前がかけられていた。
厳重に管理された本を眺めながら、俺は改めて思ったことを口にする。
「図書館ってもっと気軽に本を読める所だよな? ここはちょっと本の扱いが厳重すぎじゃないか?」
「知識というのは時として、既存の権力の脅威となり得ることがあります。ですので、扱いが厳重なのでしょうね。他の理由としてはシンプルに貴重、という可能性もありますが」
「ふーん。そんなもんか」
本を元の位置に戻し周りを見渡す。
大きい本棚が十個あり、その中には本が収められているわけだが、本棚全てが埋まっているわけでもなかった。
こんな状態で結構な金額を取られたのは納得がいかないが、ハクアが言うようにこの世界での本の扱いはそれくらい貴重なのだろう。
そうだとしたら疑問が生まれる。
「結構な額を払ったのに中身が見れないのは詐欺だろ」
この図書館に入る際に払った金額は決して安くない。
具体的に言えば、一般市民が一カ月働いた給与と同じ額だそうだ。
図書館の受付で金額を告げられた時は、すぐさま帰りたくなったがそれだけの金額を払う価値があるのかと思い、迷った末に入館した次第だ。
ぶっちゃけ今となっては後悔している。
「中身が見たい本があればあちらの受付で鍵を外してくれますよ。その際にも本の内容によって取られる金額が違うので気をつけて下さい」
「……やっぱり詐欺じゃない?」
「それだけこの世界での情報というものは貴重なんです。ご命令とあれば、私がこっそり鍵を開けますよ?」
「……いや、やめておくよ。因みにここにある本で見る価値のある物はあるか?」
「ありません。全て私が把握している情報しかないので、完全に金の無駄遣いです」
「そうか」
あーあー!! ハクアに見つからなければ、ここの入館料でそれなりにいい思いができたのになあ!!
俺は図書館という単語を出したことを心の底から後悔した。
そもそもハクアがあの場面で現れなければこんな事にはなっていない。
人のせいにする気はないが、それでもそういう考えになってしまうのが人間というものだ。天使にはわからんだろうなあ!
「ちょっと! ここは火気厳禁だぞ!」
いきなり受付の人にそう指摘されたが、もちろん俺は火を使っていない。
不意に漂ってくるタバコの匂い――
「……おい」
「――? 何か?」
「……はぁ。もういいから出るぞ」
「わかりました」
受付の人に軽く頭を下げながら図書館を後にした。
◇
「まったく、お前は少しの間だけでも吸うのを我慢できないのか?」
「何で我慢する必要があるのですか? 主様はもう後ろ盾を得ているのですから、多少の問題は領主の権力で揉み消せます」
「そうだとしても、自分たちから問題を起こしていいわけじゃないからな?」
「……以後、気をつけます」
少しムスッとした表情をしたハクアは、そのままスタスタと歩いて行ってしまった。
……あっ、俺は置いていく感じなのね。
そのまま遠ざかっていくハクアの背中を見送り、俺は考えを改める。
「――よし、行くか」
「主様じゃ〜ん。何してんのー?」
「今度はお前か……」
「え〜なにさ〜、こんな可愛い子に向かってなんで残念そうな顔するわけ〜?」
「別に……見慣れた顔だなって……」
ハクアがいなくなったので再度そういう店に行こうとしたが、今度は酒カス天使の方が現れた。
そんな酒カスは俺の周りをぐるぐる回りながら、酒瓶で俺を軽く小突き始める。
「なにさなにさ〜、テンション低いね? そんな時は飲みに行って気分転換っしょ!」
「飲みねぇ……もうそういう気分じゃなくなったし行くかー」
「さっすが主様〜、ほら行こ〜。早くしないとハーちゃん宿に帰っちゃうよ~」
そう言ってクロエは俺の手を取ると歩き出した。
随分と小さい手だな。
そんなことを考えながら、クロエとともにハクアの向かった方角を目指した。
◇
その後すぐにハクアに追いつき、そのまま近くの酒場へとハクア共々クロエに引っ張られた。
「たまにはこの世界のお酒もいいよね〜」
「まあ悪くはないが……味は薄いしアルコールも弱いんだよな」
「お酒なんてどれも同じ味では?」
「ハーちゃんはわかってないねー。たとえ同じ銘柄でも、味にブレというものが存在するのだよ」
「あっそ」
ハクアに対してクロエは酒の良さをなおも熱弁するが、聞いてる本人は興味なさそうにタバコのパッケージを眺めていた。
一通りクロエが話を終えると、唐突に思いついた様子で――
「あっそうだ、ハーちゃん。アレやってよ、アレ」
「――アレ? アレってどれよ」
「ほらー、アレだよアレ。なんか地面に刺さった棒に掴まってくるくる回るやつ」
「ハクア、お前ポールダンスができるのか?」
「まあ、はい。一応」
思わぬところでハクアの特技を知ることになった。
たしかにハクアなら身長もそれなりにあるし、身体つきもスラッとしてて出るとこは出ているので、見応えはあるのだろう。
「見たいですか?」
「そうだな……見せてくれるなら」
「なら、仕方ないですね」
ハクアは立ち上がると《収納》から長い鉄の棒を取りだし――酒場の中央にある机にぶっ刺す。
「おい」
注意しようとしたが、俺が見たいと言った手前強く言えない。
もっとも、中央の机を使っていた客は文句を言っているが、ハクアは聞く気がないらしく。
ハクアの指先がポールに触れる――
静かに体が浮き上がり、弧を描くように回転する。
同時に、長く美しい銀髪が煌めきながら宙を舞う。
俺はポールダンスといえば、もっと卑猥なものを想像していた。
だがハクアのそれは艶めかしくもあり、同時に力強く、見る者すべてを引きつける不思議な魅力があった。
ハクアが一つ回転するたびに、周囲の喧騒は鳴りを潜め、生唾を飲み込む音が漏れる。
最初はゆっくりと、そして次第に速くなるその動きは、一切の迷いもなく滑らかに続いていく。
重力さえも味方に付けたハクアの動きに目が離せない。
周囲の人間同様に、俺は息をするのも忘れてその光景を目に焼き付けた。
そして――
静かにテーブルへと足をつけたハクアは、優雅にお辞儀をする。
「ブラボー!!」
クロエの一言に、周囲からは割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。
俺たちの元へ戻ってきたハクアは胸を張りながら言った。
「どうです? 私のすごさがわかりましたか?」
ポールダンスはなんかエロくない競技用みたいなやつ。




