魔族の十傑~十指の葬列~
「お忙しいところ集まっていただきありがとうございます」
薄暗い部屋の中、円形のテーブルの一角に座するローブを身に纏った人物が立ち上がり声を発した。
テーブルには椅子が十個。
半分は埋まり、半分は空席のまま。
そこに座る人物たちは体の大きさや見た目に統一感はなく。
大きな四対の翼が生えている者。
2メートルを優に超える身長の者。
魅惑的な体をごく僅かな布で覆っているだけの者。
だがその人物たちに一つだけある共通点――皆頭に立派な角が生えていた。
部屋の暗さもあり、その人物たちの表情は読みとれない。
最初に声を発した人物に対して、痴女的な格好をした女が応えた。
「挨拶はいいからさ、私たちがここに呼ばれた理由を早く言ってくれない? 結構無理して時間作ったんだから」
「まあまあ。折角集まってもらったんですから、まずは近状報告でもしませんか?」
女の言葉をローブの男は軽く流そうとした。
「イキナリノショウシュウ。ナニカモンダイゴトナノダロウ? キンジョウホウコクナドハソノアトニシロ」
カタコトで喋る大男がその流れを断ち切り、男に対して早く本題に入れと言い放った。
「まったく……皆さんは昔からそそっかしい。ではコチラをご覧ください」
ローブの男は肩をすくめる動作をした後に、懐から丸い板を取り出す。
丸い板には淡い光を放つ宝玉がはめ込まれており、それぞれが別々の色を放っていた。
その数は全部で十個。
そしてそのうちの一つがひび割れ、光を失っていた。
「おいおい。まさか誰か死んだというんじゃないだろうな?」
「……残念ながら、その通りです」
「ハア?! 誰が死んだのよ!」
「『万生の汚泥』イジークマト・ミュルダールです」
ローブの男の言葉に、場がシンと静まり返り――女が笑い出した。
「アハハハハハ! ちょっと、アンタも冗談を言う時があるのね。それで? ほんとは誰が死んだの?」
「……冗談ではありません。イジークマトが死んだのをこの目で確認しました」
ローブの男の言葉に怒気が込められていたのか、空気がピリッとひりついた。
「ホントウ、ナンダナ?」
「ええ。もっとも私が彼の住処についた時にはわずかな肉片しか残っておりませんでした」
「ソウカ……」
「噓でしょ……アイツの再生力は私たちが数人束になってもモノともしないくらい強力なのよ?」
「ですが、事実です。彼が人間の生贄を要求している村の人間からも、彼は死んだという証言を聞きました」
全員が押し黙るなか、一人の人物――老人の見た目をした男が声をあげた。
「アイツを殺せる者など、この世界では数えるほどしかいない筈だ。誰がやった?」
「あー、それがですね。話を聞く限りですと、男が一人と女が二人の三人組だそうです」
「ふむ……少なくとも私の知る中に該当する者はいないな。名は?」
「それが名前を憶えている者が誰もいなかったんですよ。魔法を使って記憶を覗きましたが、該当する人物の所だけ奇麗に無くなっていました」
ローブの男が残念そうに項垂れると、老人が首を傾げた。
「その辺は貴様の得意分野の筈だろう。なぜ読み取れない」
「読み取れないんじゃなくて、記憶そのものが消えているんです。男と女の三人組ということしかわかりませんでした。正直こんなことは初めてですよ。私以上の使い手がいるなど考えたくもないですね」
「そうか……それで、奴が死んだ場所はどれ程の被害が出ていた? 奴を殺せるだけの威力の魔法と言えば、神話級……もしくは禁術くらいしか思いつかん」
「あー、それがですね……何というか。言っても信じてくれるかどうか……」
ローブの男が急にしどろもどろになると、痴女風の女が急かした。
「さっさと言いなさいよ! あの肉だるまを殺せる相手の情報を私たちに隠すなんて何考えてんのよ」
「わかりましたよ…………被害は彼の住処が燃えたくらいでした」
「………………ハァ? それだけ??」
「それだけです。周囲に血の跡はありましたが、戦闘痕はほとんどありませんでした。被害と言えるものが彼の住んでいた家が燃え尽きていたくらいです」
「……燃えた位じゃアイツ死なないわよね?」
女が首を傾げ、周囲の者へ同意を求めると、皆無言で頷いた。
そのまま、無言の時間が流れ――
ローブの男が言った。
「今話した内容が今回招集した理由になります。今回来なかった人物には私が別個で会いに行くのでそのつもりでいてください」
「『共鳴の崩落』ニハ、オレカラハナシテオコウ」
「『傀儡の糸紡ぎ』も私の方が近いし、会いに行くわ。あの引きこもりにも久しぶりに会いたいし~」
「わかりました。では残りの三人には私が出向きますので」
ローブの男の言葉を最後に、全員が席を立つ。
「それでは皆さん。くれぐれも気をつけて下さいね? 我々に対する脅威が迫っているかもしれません。彼を殺した人物たちの目的がわからない以上、目立った行動は控えるようにお願いします」
「はいはい。私は元々目立った行動はしてないから平気よ。じゃあね~」
女の姿が霧のように消えてなくなると。
「俺も失礼させてもらう」
四対の翼を持った男が自身の影の中へと入っていった。
「オレハアルイテカエル」
「良ければ私の魔法で送りますよ?」
「イヤ、スコシアルキタイキブンナンダ……」
「そうですか。アナタは彼と仲が良かったですからね」
大男は静かに部屋の扉から出て行った。
「……で、貴方はどうされます?」
最後に残った老人にローブの男は声をかけた。
「…………貴様。何を隠している」
「なにも隠してませんよ?」
「人間の教会に紛れ込んでいる貴様が何も知らないなどありえん。全て話せ。でなければ教会へ貴様のことを告げるぞ」
ローブの男は観念したように溜息を一つ吐くと、口を開いた。
「わかりましたよ……ほんと性格悪いですね」
「貴様ほどではない」
「ひどいなぁ……まあいいでしょう。聖女様がお告げを授かったようです」
「お告げ?」
「ええそうです。お告げです。その内容はいたってシンプルでして、こう言っていました――」
ローブの男は間を開けて告げた。
「異世界から一人の人間と二人の天使が来た――と」
あ、あからさまな奴らが現れてるううううううう?!
肉だるまのお肉は周辺の魔物に美味しくムシャムシャされました。
それとは別に人間の女もいましたが、片腕だけ謎の激ヤバ女に奪われました。
獲物を横取りとかほんと酷い話ですね。




