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飲むのはアルコールが入ってない物で

 

 カバンの中から葉巻を取り出すと、クロエが口を開いた。


「主様〜。それはいいの?」

「…………コレで治療するんだから仕方ないだろ」

「そういえばそうでした」


 それだけ言うとクロエは窓際へと移動し、新しい缶を開けた。

 相変わらず自由なヤツだと思い、ハクアへ手招きする。


「ハクア。始めるぞ。皆さんもよろしいですね?」

「ああ、始めてくれ」


 領主は娘の傍から離れようとしない奥さんを抱き寄せ、その場を離れる。

 葉巻の先端は既に切られており、口に咥えた瞬間に火が灯る。

 本来はこんな簡単に火がつくことはないのだが、そこはスキルの効果なのだろう。


 ゆっくりと煙を吸う。

 葉巻自体吸った経験は数えるくらいしかないが、この葉巻が上質なものであると理解した。

 このままじっくり時間をかけて吸いたいが、そういうわけにもいかない。


 口の中で煙を溜め――少女に向かって吹きかける。


 ふー、いやホントごめん。六十超えたおっさんの吐く煙は嫌だろうが呪いを解く為に必要だからここは我慢してもらうしかない。


 俺が吐き出した煙に合わせるようにハクアが魔法を発動させる。

 バレない様に上手くやれるだろうか。そう思ったが、それは杞憂だとすぐにわかった。

 葉巻の煙は少女の体に触れると、仄かに輝き出し――まばゆい光を放ち始めた。


 うお眩しっ。


 光はどんどん増していき、目を開けていられないくらいの光量になっていく。


 だ、大丈夫かこれ……やり過ぎじゃないか?

 さすがに演出が過剰過ぎるだろ。この前の時はここまで光っていなかったぞ。


 徐々に光が収まっていくと、ベッドに横たわる少女の顔色が幾分かマシなものへとなっていた。

 青白かった肌は血の気を帯び、乾いた唇には潤いが戻っていた。

 少女の瞼がピクピクと動くと――静かに目を開けた。


「主様。成功です」


 ハクアの一言に領主と奥さんは娘の側へと駆け寄る。


「シャーロット!」

「体はどうだ? 痛みはあるか?」


 二人の言葉に少女――シャーロットは言葉を詰まらせながら答えた。


「お、とうさ、ま……おかあ、さま…………すごく、きぶんがいい、です。もう、どこもいたく、ない」

「お、おおおおおお! そうか! ああ、よかった!」

「シャーロット――う、うぅぅぅ」


 両親に抱き締められるシャーロットは幸せそうな表情を浮かべていた。

 そんな三人を見て。

 俺の心の内は少しだけ暖かなものが溢れ出していた。

 俺に両親はいない。

 結婚もしていないので、子を持ったことがない。

 子が親を、親が子を。

 互いが思い合う気持ちというのは、俺にはあまり理解できない。


 だがそれでも――この光景は俺の胸に残り続けるだろう。


 俺はタバコに火をつけようとしているハクアからタバコを取り上げ、部屋の外へ行くようジェスチャーすると、ハクアは渋々部屋の外へ向かった。


 隙あらばタバコを吸おうとしやがる……せめてこの状況が落ち着いてからにしてほしい。


 ハクアが部屋の外に出たが、クロエは窓の外をただジッと眺めていた――と思いきや、なんか笑っている。

 何か面白いものでも見えたのだろうか。まあ今は静かだから放っておこう。

 俺はハンカチで涙を拭うエドガーに声をかける。


「俺らは別室に移動しといたほうがいいですか?」

「――グスッいえ、このまま待機していてください」

「あ、はい」


 家族の感動のシーンに俺たちがいるのもなあ……治したのは俺らだが。


 やることがないのでクロエの側に近寄る。

 するとクロエは言った。


「僕ハーちゃんの様子見てくるね~。主様も外見て気分転換すると良いよ~」

「え、おい……行っちゃったよ」


 一人だと気まずいから側に寄ったというのに……

 もういいや。外でも眺めてよう。

 ………………結構凄い庭だな。異世界の貴族ってのはかなり金持ちなんだな。

 元の世界の貴族の知識がマリーアントワネットくらいしかないので、これがどの程度のものなのかわからない。

 マリーアントワネットは女王だっけ? パンがなければケーキを食べればいいじゃないが有名だったな。

 でも本当は言ってないという話をどこかで聞いたな。どこだっけ……忘れた。


 そんなどうでもいいことを考えていると、部屋の中にハクアとクロエの二人が戻って来た。

 二人が戻って来たことにより、孤独感が薄れた。

 薄れたのだが、二人は入り口の扉の前から動こうとしない。


 俺が無言で二人を見つめると、手招きされた。

 仕方ないので近寄り用件を聞くと。


「主様。あの小娘に呪いをかけた人間が逃げたみたいです」

「……え、どういうことなんだ?」

「さっき窓の外見てたらねー慌てて外に飛び出す使用人がいたから。たぶんアイツが何か知ってると思うよ~」

「お前が笑ってたのはそれを見たからなのか……」


 そうするとだ。俺たちは犯人を知っているということになってしまう。

 このことが領主にバレると俺たちが共犯だと疑われる可能性がある。

 ………………黙っておこう。


 俺は領主に近寄り言った。


「領主様。病が治ったばかりですが、お嬢様へと差し上げるものがございます」


 わざとらしくかしこまり、ハクアに合図をする。

 ほらアレを出せ。

 ハクアは《収納》から鍋と皿を取り出す。

 俺は鍋からスープを皿に注ぐと、少女の前に差し出した。


「コレを飲んで体力を回復させるといい。君が以前飲んだモノと同じスープだ」


 俺はそう言って、スープ――異世界のコンソメキューブを溶かしただけの物を奥さんに渡す。

 本人も覚えていたのだろう。

 すぐに喉を鳴らす音が聞こえてきた。

 奥さんがスプーンを使い、少女の口元へとスープを運ぶ。

 少女は一口飲み込むと――目から涙を零し呟いた。


「――おいしい」


 その一言を聞き、奥さんは次から次へとスープを口へと運び。

 すぐに皿の中が空になってしまった。


 そうだな……病気の時に美味いと感じられる物は数少ない。

 かつての俺もそうだった。


 病院でベッドに横たわり、味気のない食事を摂る毎日。

 食べても体が衰弱していくのを感じながら、ただ生きる為だけに摂る食事は苦痛ですらあった。

 最後は点滴だけになり、物を食べることすらなくなってしまっていた。

 そういう点でこの子に同情してしまったのだろう。


「腹が膨れるまで食べたら、一度眠るといい。次に起きた時には世界が違って見えるはずだ。いいね?」

「は、い……あな、たのおなまえ、は」

「――ハッハッハ。今は俺が誰かなんて気にしなくていい。ゆっくり休みなさい。今まで、よく頑張ったね」

「…………はい」


 そう言うと少女は静かに目を閉じると、すぐに寝息をたて始めた。


 眠ったか。そりゃそうだよな。あれだけ衰弱していたんだ。

 いくら治ったからといっても、休息は必要だ。

 今はゆっくり休むといい。

 いやホントマジでゴメンねおっさんの煙吹きかけて…………


 少女が寝たのを確認した領主が立ち上がると、俺に向かって言った。


「娘を救ってくれてありがとう。これ以上の感謝の言葉が出て来ない。ついて来てくれ。報酬について話がしたい」

「わかりました。二人とも、行くぞ」

「はい」「うい~っす」


 俺たちは部屋を出る領主の後に続いた。

 

社の必殺技一覧

社全力パンチ:ゴブリン程度ならそれなりのダメージがある。

社全力キック:ゴブリンならそれなりに尻もちをつかせられる。

社全力切り:ゴブリンなら一撃で殺せる。 注:剣を装備時のみ使用可能

社の命令:天使二人による圧倒的な暴力により相手は死ぬ。

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