子供の前では吸うな
俺たちは豪華な屋敷の中を執事風の男の後に続いて歩いていた。
というか何度も執事風の男と認識していたが、どうやら他の使用人の服装を見るに、本当に執事のようだ。
そういえば名乗られていない気がする……正直ここまできたら、逆に聞くのが変な感じがする。
だからといって名前も知らない相手に案内させるのも失礼だな。
「そういえば、貴方の名前をまだ伺っていなかった気がするんだが――」
「おお、これは失礼致しました。私の名前はエドガーと申します」
「エドガーさんね、申し訳ない。本当なら昨日聞くべきだった」
「いえいえ、こちらの不手際ですのでお気になさらず」
「僕は知ってたよ」
隣にいるクロエがこそっと告げた。
知ってたのなら事前に教えろよ……
あいかわらず報連相がまともに出来ない酒カス天使に俺は心の中でため息を吐いた。
「お嬢様の治療の前に旦那様と会っていただきますが、よろしいですかな?」
「ああ、問題ない。素性の知れない人間を簡単に病人と会わせる訳にはいかないからな」
「ありがとうございます。旦那様はこの先の部屋にてお待ちです」
エドガーさんに連れられ、一際大きい扉の前へ辿り着いた。
扉にノックをした後、俺らに断りを入れたエドガーさんが先に部屋に入った。
「お待たせしました。皆様方お入りください」
部屋の中に入ると、一人の男が佇んでいた。
一目見ただけでわかる。
この男は幾つもの修羅場をくぐってきた男であると。
部屋の空気がピリピリとひりつくのを感じる。
懐かしいなこの感じ……若い頃を思い出す。
かつて、自分が若かりし頃に感じた取引先の社長から感じるものと同じものを感じていた。
あの頃の自分はその場の空気に飲まれることが度々あった。
だが――今は違う。
数々の商談を潜って来た今の俺に、この程度の重圧が効くはずがない。
だからこそ先手を打たれる前に動く。
「お初にお目にかかります。私の名前はヤシロと申します」
俺の言葉に目の前の男が少し警戒するのを感じた。
「ああ、始めまして。君が娘を治せる薬を持っている冒険者かね?」
「……ええそうです。事前にお話は伝わっていると思いますが、我々のことがどう伝わっているのか確認してもよろしいですか?」
エドガーが俺たちの事を変に伝えている可能性もある。
ここは一度、領主本人の口から聞き出しておこう。
「世界樹の葉を加工した物を所持していると聞いた。鑑定を行いたいところだが……構わないな?」
構うね。鑑定なんてされたら偽物だと一発でバレてしまう!
ハクアに視線を向けると、ハクアは一つ頷いた。
頷いたということは、問題ないということだよな? 信じるぞ? ここで偽物でした。なんて展開は避けたい。
懐から事前に出していた葉巻を取り出し、領主へ突き出す。
「これが……エド。鑑定を」
「かしこまりました」
領主から指示を受けたエドガーは、懐から丸められた紙を取り出した。
……なにそれ? ハクアさーん?
ハクアに視線を送る。
(スクロールというものです。一度きりですが登録されている魔法を使うことが出来る代物です)
(なるほど。理解した)
そんな物があるのか……魔法というのは奥が深い。これなら得意じゃない魔法も使えるってわけだな。
とはいえ偽物であると一発でバレてしまうのだが……
(僕の魔法で偽装するから大丈夫だよ~。あとでお酒ちょうだいね!)
大丈夫らしい。
偽装魔法。そんなものもあるのか……だとしたら鑑定という魔法は意味をなさないのでは? いや、コイツラが規格外なだけの可能性もあるか。
ハクアとクロエは意外とヤバイ性能をしているからな。普段はカスだが。
エドガーがスクロールとかいう紙を広げると「鑑定」と唱えた。
紙が光を放つと同時に、葉巻も光に包まれた。
光が落ち着くとエドガーは言った。
「旦那様。どうやら本物の様です」
「そうか……ああ、神は私を見放さずいてくれたようだな」
なんか勝手に納得してくれたようだ。
これで問題はクリアされた……か? 俺にはよくわからんが二人の反応を見るに大丈夫そうだ。
「えーっと。では早速娘さんの治療を行いますか?」
「――そうだな。すまないがよろしく頼む。報酬は君の欲しいものを約束しよう」
「わかりました。では参りましょう」
◇
屋敷のとある部屋へとやって来た。
中に入っただけでわかるが、女の子らしい部屋だ。
ぬいぐるみや色鮮やかな装飾。
一目見ただけでこの部屋の持ち主は少女趣味であることがわかった。
わかったが。
その部屋のベッドに横たわるその姿は、可憐な少女とはかけ離れた姿をしていた。
虚ろな目をしており、体は痩せすぎていて骨と皮しかない印象を受ける。
この状態で良く生きていられたものだ。そう思えてしまうほどに痛々しい姿をしていた。
「この子が私の娘のシャーロットだ」
領主はそう言うと、愛おしいものを愛でる様に彼女の頭を撫でた。
その動作一つで娘を心の底から愛しているのだということが伝わってくる。
俺には子供がいなかったのでその気持ちはわからないが、きっと自分の命よりも大切なんだろう――「ふー」な、おい。
ハクアが新たなタバコに火をつけた。
「ハクアァ? 子供がいるんだぞ??」
「…………え、だから何なんですか?」
「子供の前でタバコ吸ってんじゃねえ! 消せ! それか部屋の外へ行け!!」
「えー? わかりました……」
渋々タバコの火を消すハクア。
そう。何を隠そう俺は子供の前ではタバコは吸わないタイプの人間だ。
副流煙だの分煙だのと騒がれる昨今で、喫煙者の肩身が狭い中。
生前の俺は、喫煙者としてのマナーだけは徹底していた。
飲み会でもタバコを吸わない人間がいるのなら店の外で吸ってるし、自分の会社でも喫煙所でしかタバコは吸わないようにしていた。
そのおかげ末端の社員ともコミュニケーションを取れていたので問題はないのだが……それとこれとは話が別だ。
コイツラとコミュニケーション取ったところで予想の斜め上を行かれるので意味がない。
早くこの子を治療してしまおう。
そう思い懐から葉巻を取り出した。
同作者がアルファポリスで連載中の「異世界転移は草原スタート!? 勇者はお城でVIP待遇、俺は草原でサバイバル」第一巻が好評発売中!!
なぜかは知りませんが一巻よりあとの「出稼ぎ編」から読み直すことをお勧めします。
なんでやろね? なぜなのか自分にもわかりません。イラストレーターさんが神だということしか分かりません。
初版なんで今のうちに買っておくとレアになるかも?(ダイマ




