41話 はぐれのエルネ 上
「·····勇者様?」
ティナの声が背後から響く。
「あぁ、ティナか。何かあったのか?」
「あの方を、ご存知だったのですか?」
首をかしげる鬼一。
「いいや、いましがた知ったばかりだが」
そうですか、と言うティナ。
何某かの訳ありなのかな?と鬼一は思い、聞くことにした。
「エルネ=グレイヴスターと言うそうだ。ティナは彼女について何か知ってるか?」
少し不安げに眉をしかめて、ティナが言葉を紡ぐ。
「え、えぇ。知っていますわ。あの子、私の同期だったので」
へぇ、と鬼一が返す。
「結構仲良かった、って感じでもなさそうだな·····」
「·······同期と言ってもそこまで仲が良かった訳ではありません。互いに魔術を競った仲です」
(なるほど。たしかに微妙な立ち位置だな)
「続けますね。彼女は実は魔術学院イメスから除籍されているのです」
「除籍か、何かとんでもないことをやらかしちまったのか?」
「彼女は、魔術に関してはかなり期待されていた人物でした。魔力の質なら私よりも高かったです」
魔力の質はその質が高ければ高いほど、その魔術の効果にも及ぼす影響も大きい。
魔術の名家なら代々その質の維持の為に、より魔力の質の高い人間との結婚を望む。
この世界では、魔力の量と共に質もまた重視されているのだ。
「順調かの様に見えたエルネの生活も、途中で終わりを迎えます。魔術学院イメスは異性関係に厳しく、在学生と恋仲になってしまった結果、除籍されその影響で気を病んでしまったと聞いています。それ以来、はぐれのエルネと学院生に蔑まれながらも生活しているようです」
「なるほどねぇ。恋愛絡みでとは壮絶だな」
魔術学院と銘打たれるだけあって、輩出する人間の質を維持する為に公序良俗を維持する厳しい規律があるのか、と鬼一は思った。
エルネの陥ってしまった恋愛沙汰も、現代の価値観を持つ鬼一からすればまぁあり得る可能性の一つだった。
しかし鬼一は誰かを好きになったことも、惚れられた事もない。
だから異性関係で学院を除籍になった事については、まぁ不憫ですねとしか考えられなかった。
「学院生の蔑む人々が多人数で、でも私は気持ちが分からないでも無いんです。でも学院の意向も大事だと思うんです」
「板挟みって奴だな」
「そうなりますね。自分でも言ってておかしいのは分かってます。ですが、エルネさんは私もまた蔑んでいる側だと思っているんです。それでお会いするのがちょっと······」
「·····なるほど、そうだったのか」
少しの間を置いて鬼一が頷く。
「つまりは学院生ではない俺に、エルネに便宜を図って欲しいと言う事か」
「·····勇者様には申し訳ないのですが、そうしていただくと助かります」
しょうがないかと頭をかきながら、鬼一は承諾する。
「俺はエルネに早速言ってくる。ティナは戻っていてくれないか」
「ありがとうございます!」
そう言うと深々と頭を下げるティナを背後に、エルネの向かっていった先へ鬼一は歩いて行った。




