38話 帝国の影
「俺たちはちょっと急いでるんだ、後でにしてほしいんだが」
「そうはいかないんですよ。お兄さん」
鬼一たちの背後に二人の同じ服装をした輩が出てきた。
各々が得物を片手に、鬼一たちを囲む。
その場を不穏な雰囲気が立ち込める。
「やり合おうっていうのか?まさか魔王軍の手下か」
「いいや、まさか。人間とあらばすぐ皆殺しにする魔王軍に入れる訳無いでしょう。大人しく同行してくれれば無駄な手間は省けるんですがね」
(鎌をかけたつもりだが、どうやら失敗したらしい、さてどうしようか)
内心冷や汗をかきつつ、状況を分析する。
前方の一名は手練らしい、後方には三人得物はナイフなど。
相手はいかにも暗殺者といった風体である。
(この程度なら俺たちの能力で対処可能だ)
「嫌だと言ったら?」
「····お前たちを拘束し連行するまでだ」
鬼一が不敵に笑みを浮かべる。
嗜虐心に満ちた嗤い。
それは強者が弱者を見下す時に見せる物だ。
「···········俺たちを能力者と知っての事か?」
「そうだとしても貴様らを連行する義務が我々にはある、さぁどうするんだ?ついてきてくれるのかくれないのか。さぁ」
(俺たちは今日中にこれをギルドに提出しなきゃならねぇ。ならここはさっさと押し通るべきか)
「嫌だね。俺達もやることがあるんだ」
そう鬼一が言い放つのを皮切りに、暗殺者達は即座に反応した。
「ならば、お前たちやれ!」
背後の暗殺者の手下たちが武器を投擲する。
だが、
「······拒絶の聖壁!」
伊野の能力によって、その投擲武器が全て弾かれ叩き落とされる。
その隙を見計らい、坂岡もまた能力を発揮する。
「お前ら!俺等の敵ってことでいいんだよな!?」
伊野の拒絶の聖壁から抜け出した坂岡の。
人を遥かに凌ぐ力が、暗殺者の手下たちを襲う。
坂岡の獣のような鋭い爪を持った両腕が振り回されるたびに人がなぎ倒されてゆく。
地面に叩きつけられた手下たちはうめき声を上げながら、身動き一つ取れなくなってしまった。
その様子を呆気に取られたように見つめる暗殺者に鬼一が言葉をかける。
「降参するなり、とっととずらかるしてくれ。俺たちは急いでるんでな」
「········ほう。比較的大人しいとは言え、能力者。一筋縄では行かないか」
暗殺者らしき男の目が紅く光る。
直接目を合わせていた鬼一の身体が強張る。
能力を発動しようとしても出来ない。
焦る鬼一。
「·····な、に······?!」
「能力を使えるのは能力者の特権だが、何も能力者はお前たち勇者だけじゃぁないんだぜ?」
不敵に笑う暗殺者に、残り二人は動揺する。
「「鬼一!」」
「勇者様!」
ピクリとも身体を動かせなくなった鬼一が辛うじて言葉を紡ぐ。
「お····前も、····能力···者か」
「ご明察。何の能力かは言わんがな」
暗殺者が両脇から両刀のサーベルを引き抜く。
「·····回収させてもらおう」
鬼一の、その両足を切断しようとする暗殺者。
だが、その刃は防がれる。
坂岡がすんでのところで、双腕刃マニソルで受け止めたのだ。
ギリギリと嫌な、金属が擦れあう音がする。
「ほう、よい仲間に巡り合ったようだな」
「はははっテメー、なんでこのタイミングで能力を使った?すぐにでも使えば、俺たちなんて簡単に捕縛できたろうによ!」
「··············」
坂岡の問いに答えようとしない暗殺者。
「おかしいと思ったぜ。能力者なら真っ先に能力で蹂躙してくる筈だ。能力にも限定されるタイプもある。特定の限定下でしか発揮できない奴、それがお前だ」
鬼一もまたその言葉を得て疑問に思った。
(そうだ。坂岡の言う通り、俺たちのような能力者ならすぐにでも能力を発揮して相手を蹂躙する。だが奴はそれをしなかった、というかできなかったのか。例えばタイマンでしか相手に効果がなかったりするタイプの能力ならそれだ)
そう考えていると、鬼一の動かなかった身体が急に動き始めた。
(能力の効果が切れたのか!)
それと同時に、暗殺者が受け止められた刃を一度離し、坂岡の右腕の方に攻撃を重ねて放ってきた。
「ぐうぅ!」
坂岡が重い一撃を受け止めるが、片方だけを集中して狙われた為、受け止めきれず鬼一の方へ刃が届く。
「しまっ」
だが、その瞬間その刃を受け止める者がいた。
「·····間に合ったか」
神の右腕で受け止める鬼一、刃は手に食い込んではいない。
そのまま勢いで強力な握力により刀身を粉砕する。
暗殺者はそれを確認したと同時に坂岡に蹴りを入れる。
「ごはぁっ!」
「多勢に無勢、ここらへんが潮時か」
そう呟くと暗殺者は手下には目もくれず一目散に森へ入っていった。
「クソったれ!すぐにとっつかまえて」
「待て!深追いしても駄目だ!」
追っていこうとする坂岡を止める鬼一。
「取り敢えず、街の詰所にはここに倒れてる奴らを突き出そう」
手分けしてギルドに出す荷物と暗殺者の手下たちを回収した。
先ず街の詰所へ行き、事の経緯を説明する。
「命を狙われた、ねぇ。勇者様が言うには間違いないんだろうけどなぁ。取り敢えず、捕まえて吐かせておくよ」
「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」
坂岡が窓から外を見上げ、焦りながら言う。
「やべぇ依頼受付終了の日暮れまでもうちょいだ!走るぞ!!」
後は詰所の衛兵に任せ、彼らは日が暮れる前にギルドへギリギリで到着した。
「はい。確かに全ての依頼の達成を確認しました!皆さんお疲れ様です。これで初心者課程は終了です」
ルロマの街のギルド受付嬢のリィンが鬼一たちにそう言い放つ。
「お、終わったぁ」
ギルドへの受注完了の手続きを済ませた鬼一たちは、ギリギリに間に合ったことに脱力した。
「今後は自由に看板から依頼を受注できるようになります。また明日の朝よろしくお願いしますね」
雀の涙の報酬金を受け取り、看板の前で今後について話し合う鬼一たち。
「にしてもよぉ。途中で襲ってきた奴はなんなん
だ?」
「俺も気になってたんだ、一体誰なんだ?」
「僕にも見当はつかないよ」
そんな中おずおずと手を挙げる者が一人。
「私、わかります」
それはティナだった。
「えっ、何?」
「あれは帝国の密偵かと」
ですが何かおかしいんです、と付け加える。
「何がおかしいんだ?」
「帝国の密偵は基本的に誰も襲いません。戦うにしても奇襲を仕掛けて相手を一撃で仕留めます。今回みたいなケースは無いはずです」
「どうしてそこまで言い切れるんだ?というか何で詳しいんだ」
鬼一がそこまで言いかけたところで、
「ここにいましたか、猟犬」
リィンがやってきていた。
「裏ダンジョン攻略の件で来たのですが」
「あぁ、その件ですね。ティナ、後で話を聞かせてくれ。俺はリィンさんと話をしてくる。お前らは先に夕食でも食べててくれや」
そう言うと鬼一はリィンと共に別の部屋へ向かっていった。
「一応鬼一がリーダーだからな、俺たちは先にやってようぜ」
「そうだね。取り敢えず、ここのメニューを制覇したいな」
ガヤガヤと話し合いながら、彼らはそのままギルドの席へと去っていった。
「なるほど。つまり俺達が前衛として攻略していく感じですか」
「ええ、そうなります。貴方がたの力を見込んでの采配と思っていただいてかまいません」
鬼一とリィンは二人、ギルドの一室で話し合っていた。
話し合っている主題的な内容は、裏ダンジョンと称される、アルカのダンジョンのもう一つのダンジョンについてである。
「戦力を買っていただける以上、報酬金ははずんでくださるんですよね?」




