37話 溜まった依頼
「すっかり、忘れていたぜぇぇぇ」
頭を抱えた鬼一の絶叫がギルドの対面室に響き渡る。
「まぁまぁ、落ち着きてください。まだギリギリってだけですから」
絶叫の根源的な理由は一つ、ギルドの依頼をほっぽり出してしまっていたからだ。
マグヌスマルクトとの対戦と叙勲式などの大きなイベントが発生したことにより、ギルド講習で空白期間ができてしまったのだ。
一定期間、初心者がギルドで依頼を受けていない場合、ペナルティが発生する。
しかし、色々と事情があれば延ばして貰える場合がある。
今回は魔王の幹部との対戦と言うことでペナルティまでに延ばしてもらえたのが不幸中の幸いだが。
鬼一は今後とも勇者と冒険者、二足のわらじでやっていかなければならない。
初心者に出される依頼はどれも難易度の低いものであるが、達成までに時間を要するのである。
初心者が達成しなければならない依頼は三つほど残っていており、明日までに解決しなければならない。
その為、今日と言う一日にに三つほど依頼をこなさなければならないというハードスケジュールになってしまったのだ。
「マナボアの討伐、アルラウネの討伐、ニラミウオの捕獲か」
鬼一がどれから取り組もうかと悩む。
そして、どれからではなく。それぞれが一つづつに対処していこうと言うやり方に決めた。
マナボアは元の世界の猪と異なり、その肉に魔力が満ちているという猪で個体こそ少ないが、畑の作物を襲う害獣として知られている。
これは農家から送られてくる依頼として多い。
マナボアその最大の特徴は死ぬ寸前になると、全身の筋肉に溜め込んだマナを爆発させ、衝撃波を発する危険な一面を持つ。
そのため、通常は安全に捕獲するためには罠を仕掛けて麻痺毒や魔術などで昏倒させてから倒すのがセオリーである。
マナボアは自身の意識で死を知覚すると最後っ屁といった形で衝撃波を出す。
だが今回は時間がないので、衝撃波に万が一に備えて、伊野の拒絶の聖壁で守ることに彼らは決めた。
森を伊野とティナが進んでゆく。
そして、数キロ手前に二頭のマナボアを発見した。
すぐさま近くの草むらに隠れる二人。
「発見しました」
「そうだね。依頼された数は二頭。ぴったりだね」
彼らの魔術の有効射程圏内にまでは、あと少し。
マナボアに感づかれないようにして近づく。
「ここまでくれば」
射程圏内についた。ティナが魔術を放ち、伊野が衝撃波に備える。
伊野の能力は攻撃と並行してはできず。
また今回前衛がいないので、マナボアがこちらに向かってくる場合も考慮して、あまり無茶はできない。
マナボアを一撃で仕留める他ない。
「ティナさん。行くよ」
「ええ、やりましょう」
ティナが魔術を詠唱する。
「天命に代わりて私が命ずる。土塊の礫にて我が仇を仕留め給え。ストーン•スリング」
空間に生成された二つの礫が、アナボアの眉間に正確に当たる。
頭蓋が崩れる音があたりに響き渡る。
一体は倒れたが、もう一体は当たりどころが浅かったのか直ぐに逃げようと走り出す。
「逃さないよっ!」
伊野が能力を切り替えて魔術を行使する。
「天命にて我が命ずる。水よ我が仇に足を滑らせ給え。ウォーター•スライド!」
逃げるマナボアの全体に水が生成され足元に落ちる。
相当慌てていたのか、水の濁流に足を取られドッと倒れ込むマナボア。
「今!」
伊野の号令と共にティナの魔術で作り出された石礫が飛んでくる。
今度こそマナボアの急所を潰した。
「今回みたいな事はあんまりやりたくないわね」
魔術は当てる事は容易だが、どこかの部位にのみ絞って当てることは彼らの腕では容易ではなかった。
「まぁこういうケースは稀だろうし、今回やりきれただけでも良い事なんじゃない?」
二人は獲物の処理をし、指定された集合場所へ向かっていった。
次にアルラウネ、処刑若しくは殺された人間の体液を吸った植物が稀に変化したモンスター。
人のように歩行しているのを山間部などで見かける事例が多い。
一見すると全裸の人間だがその大部分は分厚い根で、頭部には髪のような葉と蕾があるためじっくり見れば人ではないとわかる。
人を直接襲うわけではないのだが、アルラウネが危害を加えられそうになった時、自己防衛の本能があるのか、凄まじい絶叫を上げる事で知られている。
マンドラゴラと違い致死性のあるものでは無いが、鼓膜が破れる。
弱点は頭部の花。
これが破壊されると活動が停止し、討伐完了となる。
アルラウネは薬として重宝するため、それなりの値段で取引される。
魔術に対し耐性があり、遠距離から当てるのでは効果がない。
そのため、遠距離から弓で討伐するのが一般的、だがパーティーのメンバーが誰も弓術を取得していないため、これは肉体の再生速度が早い鬼一が近距離で対処することで方針が決まった。
(なーんで俺だけ、こんな扱いなんですかねぇ)
そう心のなかで思う鬼一。
まぁ打倒なんですけどね、ともこぼす。
神の右腕の能力故に身体の再生能力が上がっているそれを有効活用しない手はない。
それに依頼の割り振り自体も鬼一がやったものだ。
(俺も役割を全うしなければな)
森を歩きながらアルラウネを探す、鬼一の目に不審なものが入って来た。
前後に腕がゆらゆらと規則的に揺れている。
歩いているにしてはバランスが悪く今にも倒れそうだ、それらの目から伝わる情報を通じて鬼一の目には不審な人物に見えた。
(なんだ?)
不審に思った鬼一は近くの木に身を隠す。
様子をうかがう鬼一の目に不気味に歩行する一体の何かを認めた。
その何かはざらざらとした肌のような物と頭には葉と大きな蕾が生えているのを確認した。
アルラウネだ。
(あっちはこっちには気づいていないんだな)
どうやら植物のモンスターはこちらに気づいていない。
木陰に隠れた鬼一を見向きもせずに鬼一が来た方向へ向かっていく。
(よし、このまま取り押さえてやる)
木陰から素早く飛び出し、蕾に目がけて右腕を奮う。
乾いた音ともに砕け散る蕾、歩いていたアルラウネは引きつり倒れた。
「あっさり終わった、初級なだけあって楽勝だな」
次はニラミウオ。
鯉程の大きさで釣りをしている人間を睨み混乱させるというはた迷惑な性質をしている。
学者の説明によると、自身の縄張りに来る捕食者に対しこの特殊な目によって撃退する行動を取るのだという。
ただし至近距離で睨むことでしか効果が発揮されず。睨まれる前に仕留められたり追い払うのが一般的だという。
実は食用も可であるため、より高額の報酬金を得るためには損失の少ない急所を狙う方がお得だ。
これは反射神経が一番良い坂岡が主に対応することになった。
ニラミウオが出るという場所を伝え聞いた坂岡は一人、湖畔で一人釣りをしていた。
そうしていると案の定、水面にゆっくりと魚が出てきた。
目が上を向きこちらを睨んでいるようだ。
(あれがニラミウオか)
薄目でちらりと見やると同時にすぐさま、手にした一本のナイフを物凄い速さでニラミウオに向けて投擲した。
グサリとニラミウオの脳に突き刺さるナイフ。
あっさりとニラミウオを撃破した坂岡はナイフにつけていた糸をたぐり寄せ、獲物を確保したのであった。
こうして鬼一たちは依頼を終え、集合した帰り道の途中。
「何だあれ」
「人、か?」
黒い衣を着た人影が森から出る途中にぽつんと立っていた。
夕暮れの木漏れ日の下に立つそれは、この世のものかどうか分からないほどであった。
「気味が悪いね」
「幽霊、じゃあなさそうだな。不審者か?」
「追い剥ぎかもしれないぜ。若しくは盗賊か?」
森の道中には時に盗賊の集団が出ると鬼一たちは聞いていた。
盗賊を容易に返り討ちにできるほどの力を彼らは持ち合わせていた。
だが、この世界でそういった者に出会うのは初めてのことであったため、内心気が気では無かった。
とりあえず、このまま知らんふりをしてすぐ横を通ることにした彼らはそのまま素通りしようとした。
だがそれを阻むようにして、黒衣の者は鬼一たちの前に立ちはだかった。
「····何用だ?」
「突然ですが、同行してほしい場所がありましてね。ハイ。大人しく私たちについてきていただけると助かるのですが」
面白いと思った
続きが気になる
と思ったら評価から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。
ブックマークなどいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




