34話 叙勲式の始まり
「どっ、どうしたんだ。ティナ」
「勇者様!やりましたね!皇帝陛下直々に叙勲を受けられるとは!!」
手足をバタバタさせてティナは興奮しているようだった。
急なハイテンションぶりに驚きつつ、困惑する鬼一。
「確かに叙勲は名誉な事と聞いているが、そんなにすごいのか?」
「勇者様はご存じない様なので、説明いたします」
それからはティナによる簡単な勲章の説明がなされた。
レイバルン帝国において、勲章を貰える者は限られており、それなりの身分が無いと無理だとか。
鬼一たちの現在の身分は、一応は勇者として登録されているため、勲章を受けられるそうだ。
レイバルン帝国の身分は低い者から高い者まで羅列すると、奴隷、商人、農民、騎士、聖職者、貴族、王族、皇帝からなるピラミッド型の様相をなしている。
その中でも勇者は騎士に同等の身分として扱われているのだとか。
騎士の身分から、大きな功績を取り立てれば褒章が帝国から出されるが、皇帝直々に叙勲されるとなれば多少話が変わってくる。
騎士の場合は、騎士団長からの褒章が下されるのが一般的だからだ。
ピラミッド型の、身分の頂点に君臨する皇帝から叙勲されるとなれば、相当の手柄を立てたということになる。
その相当な手柄というのが、魔王の幹部の打倒。即ち、土のマグヌスマルクトの撃破ということである。
「と、言ったところでしょうか。僭越ながら解説させていただきました」
「おー、すげぇな。わかりやすかったぜ」
「お褒めいただき感謝です!」
鬼一がティナに感謝を述べる。
一般的な知識はミネルヴァから貰っていたが、この辺りの知識についてはさっぱりだったのだ。
(なぜ、勲章に関する知識は俺達には無かったんだ。思い出せなかった可能性も無いがミネルヴァでこの世界について知識を取り入れたっていうのに随分と現実乖離があるじゃないか)
「ちなみ聞くがになぜティナはその情報を知っているんだ?」
「実は私の家系は貴族でして、そういった勉強をしているんですよ」
貴族。
勇者よりも上位の地位に位置し、その血筋からは騎士を輩出する事もある。
「そうだったのか。これからは敬語で話さないといけませんかな。ティナ様」
鬼一が身分の事を気にしてか、おどけて返す。
「いいえ、大丈夫よ勇者様。帝国に身を捧げる覚悟のある人間に身分差などあまり関係ないと思ってるから」
「ああ、そうなんだな。ならいつも通りでいいか?」
「えぇ」
そう返しながら、鬼一がふと考え込む。
帝国に身を捧げる、ねぇ。
なし崩し的に鬼一は英雄鍛造の儀式を通して、勇者となった。英雄鍛造は儀式を施された者の寿命と引き換えに莫大な力、能力を引き出すことができる。
知らなかったと半ば騙されたと言い訳はできる。
けれども力という物につられて自分から了承したのもまた事実だ。
(帝国に身を捧げる、そういった崇高な志は持っていないんだけどなぁ)
鬼一はそう思い、ティナに言っておくべきだろうかと悩んだ。
彼女の言動から鑑みるに、ティナは俺達勇者を少し英雄視過ぎているような気がする。
しかし、これもまた勇者としての責務の一部なのだろうかとも鬼一は考えた。
人類からの大きな期待と信頼を寄せられる反面、その期待に応えるという負担に、今後応えていけるのだろうかとも。
そんな事を考えているうちに、一人の男が鬼一たちのテーブルに近づいてきたことに鬼一が気づいた。
何事か、と鬼一が一人警戒する。
一見した所、三十代の男性、魔物の皮で出来た軽装備と背負った弓と腰に備えられた矢筒。
斥候の冒険者のようだが、少し酔っているのか頬が赤い。
「なぁ、そこのお前さん」
「はい、何でしょうか」
酒気を帯びた吐息をこちらにかけながら、その男はこちらに問いかけてくる。
「まさか、お前さんはオニイチと言う勇者か?」
場の雰囲気が一瞬静まり返る。
なぜ聞いてくるんだろうかと考える鬼一は、どやされるのかもしれないと恐怖しつつも、正直に応えることにした。
「確かに私は鬼一ですが、なにかありましたか?」
「さっきの話を少し聞いてしまったんだけどよ。魔王の幹部の野郎をぶっ殺してくれたんだってな!」
「は、はぁ」
何が目的なんだ?と内心身構える鬼一。
「良くやってくれた!ありがとうな。おい!オメェら、魔王の幹部をぶっ倒してくれた勇者様がここにいるぜ!!胴上げすんぞ!」
鬼一たちのテーブルにはいつの間にか、他の冒険者たちが取り囲んでいた。
「こ、これは一体」
「なーに、俺達の共通の敵を葬ってくれたんだ。その礼さ。俺達は常にすかんぴんだから何かおごってやるとかはできないが」
「え、えぇ?!」
「こうやって感謝を伝えることしかできないがな!」
「そうそう、俺等冒険者は体力が取り柄だからな!」
その後、鬼一たちは胴上げされた。
各々は驚きつつもそれを受け入れていた。
帝国の人々、ひいては冒険者たちがそれほどまでに喜んでいるならと甘受した。
その後も宴は続いたがどんちゃん騒ぎに絡まれ、その日は過ぎていった。
そして、叙勲式当日。
鬼一たちは王都の一室で礼服の着付けをしていた。
「いやーなんとか間に合ったな」
メイドさんに取り囲まれながら鬼一が言う。
鬼一が来ている赤色の礼服は豪奢でありながらも気品ある一品だった。
着付けの前に帝国式の礼儀作法は何度も練習をした。
「うー、祭り騒ぎの後の頭痛がひどいぜ」
「酒気にやられたんじゃない?坂岡君、お酒弱いもん」
「伊野に言われてもなぁ、お前酒強すぎんだよ」
坂岡たちもまた赤色の礼服をつけていた。
叙勲式には、勇者の地位にある者は皆この服を着なければならない。
軽口を叩き合いながらも式典まで待機することとなった鬼一たち。
鬼一、坂岡、伊野、ティナ、ロニパの五人は着慣れない服の違和感に落ち着かないと言ったふうだった。
「なぁ、ティナ。お前は貴族なんだろ。叙勲式はどんなかんじなんだ?」
「叙勲式は、簡単に言いますと貴族や王族の皆の前で勲章を受け取る感じになります。あんまり緊張するのも良くないですよ」
「ああ、ありがとう。わかった」
ティナからの助言を素直に受け取る鬼一。
「皆様、お時間でございます」
一人のメイドが鬼一たちの目の前の扉を開ける。
「さぁ!行くか!」
鬼一の一声とともに一行が扉へ進んでゆく。
開かれた扉を進んでいくと、同時に音楽隊が演奏を奏で始めた。
奏でられる音楽からは荘厳な雰囲気を感じとる事ができる。
(取り敢えず言われたとおりに行くか)
そのまま胸を張り、悠然と玉座の間までの道を歩いてゆく鬼一たち。
進んでゆくと豪奢な服で着飾った、貴族と思われる集団が玉座の間の扉の前に集まっていた。
(確か、こう、だよな)
軽くお辞儀をし、右腕を胸の中心にあて、そらすように左腕を高く上げる。
帝国式の礼儀作法はつけ焼き刃だが、それなりに形にはなっていた。
重々しく玉座の間への扉が開かれる。
玉座にはダイン=ミュンダース二世がどっしりと構えていた。
「勇者一行は我が前へ参れ」
皇帝陛下の言葉が玉座の間に響く。
ぞろぞろと五人が玉座の間へ入る。
それと同時にダイン=ミュンダースのそばに仕えていた小間使いが儀礼剣を跪き、両手で捧げる。
儀礼剣は黄金といくつかのきらびやかな宝石からなるものだった。
皇帝が剣を受け取り、その場で引き抜き言い放つ。
「これより叙勲式を開始する」




