33話 戦いの後に
「魔王の幹部が一人、倒されたってよ!」
「そりゃあ、本当かい?!」
「ああ、そうらしいぜ。そういう訳で今日は派手にパーッとやろうぜ!!」
その日の午後、冒険者ギルドでは魔王の幹部が打ち倒されたことが瞬く間に広まり、帝国の各地では戦勝記念にと宴が催されていた。
アルカのダンジョンの近く、ルロマのギルドの酒場では冒険者たちが口々に談笑し合っていた。
「これで暫くは大丈夫そうだな!」
「肝心の魔王が倒されちゃいないが、打倒魔王に一歩近づいたんだ。こりゃあ祝わなきゃ損だろ」
「俺達冒険者じゃ精々魔王軍のゴブリンやオークを相手にするしか無かったんだ」
「そうそう。北側から進行してくるあいつらの軍勢を相手にした時は気が気じゃなかったぜ」
「何はともあれ、討ち取ってくれた勇者の野郎にカンパーイ!」
そう言いながら、冒険者たちは盛り上がる宴の中で、楽しそうに酒杯を片手に語らい合っている。
酒場の奏者が酒場の雰囲気を盛り上げる。酒だるがいくつも割られてゆく。
どうやらギルドからの祝いの品らしい。香りのよい果実酒が、冒険者たちの食欲をそそる。
冒険者にとって一日で一番の時が流れ始める。
そんな彼らを席に座り遠巻きに眺めているのが鬼一たちだった。
「盛り上がっているなぁ」
鬼一がそう言い放つ。
「そうだな。こっちも楽しもうや」
坂岡が鬼一にそう返す。
「そうそう!なんてったって、あの魔王の幹部を倒したんだからね!」
自信いっぱいに伊野が語る。
「流石は勇者様だね、我らが打倒し得なかった、魔王の幹部を倒すは」
頷きながら賛辞を送るティナ。
「私は戦の場にはいることはできませんでした。雄姿を見られなかったのは残念ですね」
ロニパが少し声のトーンを落として言う。
「うん、まぁ気を取り直せロニパ。取り敢えずカンパーイ」
鬼一の掛け声と共に、各々がコップを打ち付け合う。
「それにしてもよぉ、俺達の能力で、魔王の幹部を倒せちまうとはな」
以外そうに坂岡が言う。
「まぁ、な。英雄鍛造が無けりゃ手も足もでなかったのも事実だがな。それにマグヌスマルクトが執拗にこっちに攻撃を繰り返してくれた部分も大きかったような気がするな」
「そうだね、なんで鬼一くんにだけ攻撃し続けてたんだろう?」
「そりゃあ、マグヌスマルクトの時間停止に対抗する
術を持ってたから、大方俺を一番の驚異とみなして真っ先に潰しにかかってきたんだろうな」
「なるほどなぁ。でも時間停止に対抗するためのブラックホールだが、何発も打てなかったんだろ?」
「そうそう、マグヌスマルクトに何回もやられていたら危機的状況に陥ってだろうな。ホントにギリギリの戦いだったぜ」
ため息をついて、ぐいとコップに入った飲み物を飲み干す鬼一。
「ある意味運で勝てたというような感じだね」
ティナが鬼一にそう返す。
「おお、そうだな。今度は実力だけで勝利したいものだぜ」
「そうね。時に戦況を運によって左右される事もあるけど、自身の力で勝利を掴みたいものね」
「そう言えばティナ。お前の魔術、マグヌスマルクトには効きづらかったな、残念だ」
「···そう、ね。並大抵のモンスターには効くんだけど、魔王の幹部に効かないのは以外だったわ」
「まぁ、俺は秘技とか連発できない技ばっかりだからな。その分普段は頼りにしているぜ」
鬼一が悲しませまいとフォローを入れる。
「はい!普段からの後方支援はお任せください!帝国の為にも皆さんの為にも私、頑張ります」
元気そうにティナがドンと胸を張る。
「そいつぁ頼もしいぜ!」
「頼むぜー、ティナ!」
「私は戦闘には参加できませんが陰ながら応援しております!」
ロニパもティナを応援する。
そうして、話しているうちに頼んでいた料理が運ばれている。
基本的に肉や野菜を中心とした物と主食のパンが運ばれてきた。
料理に舌鼓を打ち、腹を満たす鬼一たち。
「伊野の料理も美味いが、こっち(異世界)独特の料理も美味いな」
「そうだね。元いた世界と比べると、醤油とかが恋しくなっちゃうなー」
ティナが怪訝そうに首をかしげる。
「こっち?元の世界?それって一体何なの?」
「あー、それか、まぁ話しても問題無いだろな」
ボリボリと鬼一が頭をかき、ティナに説明し始める。
自分たちが別の世界から来た事、地球と言う星の、日本という国の、高校生と言う事。
話を聞いている最中、ティナはしみじみとしたも面持ちで聞いていた。
そして、全てを話し終えた時、半信半疑と言った顔になっていた。
「勇者様がそのような略歴を送っていたとは考えられ無かったわ」
「···信じてくれるのか?」
「にわかに信じがたいけど。勇者様が言う事だし信じるかと言われれば信じます」
「信じてくれたならまぁ、嬉しいな」
「今後は背中を預け合う仲だからな。そこんとこは知っておいても問題は無いだろ?」
「しっかし急に別の世界から来たとか言われたら常人から見たら狂人だと思われるのが普通だな」
そこへティナが割り込んではいる。
「私自身も勇者だと知らなかったら狂人だと思っていやもしれません。ですが勇者様だからこそ、その言葉に信用が生まれるのです」
「中々嬉しい事を言ってくれるじゃないの」
「そうだな、それにそんだけ勇者としての責任は重いってわけだよな、鬼一」
ロニパも加わり、鬼一に話す。
「勇者と言う階級がある以上、責任はありますが同時に信用もあります。その事をどうかお忘れになりませんように」
「そいつは失った時の心の損失が危ぶまれるなぁ」
鬼一が顎の下を撫でながら、勇者としての責任と重さについて考えていた。
(俺達が思っている以上に冒険者に半ばなったとは言え勇者として地位は重いもんなんだな。今回の一件でその片鱗を見たような気がする)
考えていると目の端に何やらこちらへ向かってくる影がある。
その人物を鬼一達は知っていた。
それはいつぞやの仮面の男だった、鬼一たちに冒険者へと加入させた人物である。
楽しげに酔っている冒険者の集団をかき分け。
それがいつの間にか、鬼一たちの座っているテーブルへとやって来ていたのだ。
「どうも、勇者様御一行」
「今度は何の用事ですかね?」
鬼一が余裕を持って応える。
「お話しが早いようで助かります。実は勲章の叙勲式が近々予定しているのです」
「勲章?俺たちにか?」
「作用でございます」
「ギルドに用済みと捨てられたかと思っていたぜ」
「いえいえそのようなことは。彼の力を持つ方々をその様に無碍には扱えません。今回だけ特例だったということで平にご容赦を」
「···········。すまない、俺達もそんなに責める気は無かった」
「話を戻しましょう。改めまして魔王の幹部、土のマグヌスマルクトの討伐、有難うございました」
仮面の人物がお辞儀をする。
お礼を言われたことにまんざらでもない鬼一たち。
「今日より二日後の日時計、八時に帝都にて皇帝ダイン=ミュンダース陛下寄り直々に勲章が賜れます。勇者様には早朝より帝都にお越しくださいませ」
「礼服は無いんだが」
「ご心配はご無用です。そのために早朝よりお越しくださるのですから。ではお遅れなりませんようにお願いいたします」
言うだけ言って仮面の男はそのまま帰ってしまった。
「勲章、かぁ」
「裏ダンジョンに落とされた時には想像だにしなかったね。勲章とかさ」
「転移させられてから生き残ることばっか考えてたな。それが良い方向に転がってくれたから良かったぜ」
それぞれが感慨にふける中、ティナは顔を紅潮させていた。それにプルプルと震えている。
その様子を見て心配する鬼一。
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