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神の右腕 リブート  作者: 伽藍堂
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31話 攻防の果て

 マグヌスマルクトは様々な元素の混じった魔術の雨を凌ぐために、土のドームで自身の周囲を覆う。


 そして、土の権能により自身の分身を生成する。

 

「それでは我は神の右腕を叩く、お前は突っ込んできた勇者を相手どれ。何、能力はあれど端くれだ」


「了解した、本体の我」


 土のドームが安藤の複合魔術で打ち砕かれる。


 それを見計らって、偽のマグヌスマルクトが躍り出る。


「はてさて、まだ始まったばかりだ!全軍迎え撃てぇ!」


 ばらばらに動いていた土人形の軍勢が天王司、安藤、青木に目がけてなだれ込んでくる。


「安藤!魔術を打ち出す速度を上げろ!」


「今やってる!あいつら硬すぎんのよ!」


 天王司が大きく神剣ケラウノスを振り上げる。


 それは後方で控えていたクラスメイトに対する合図だ。


「総員、傾注!!皆で力を合わせて、魔王の幹部を討ち取るぞ!」


「「「おおおおおおおぉぉぉ!!」」」


 合図に呼応するかの様に雄叫びを上げるクラスメイトの面々。


 彼らは眼前の敵、土人形に対し突っ込んでいく。


「俺たちだってこの日のために訓練してきたし、実戦も積んできたんだ!」


「そうよ!実戦の成果見せてやる!」


 土人形の軍勢に攻め入り始めるクラスメイトたち。


 前衛と後衛に分かれ、向かってくる土人形に打撃を与えている。


 曲がりなりにも能力を持つ者、それなりに土人形に対し攻勢に出ている。

 

「あいつら、以前の時よりも威勢が良いじゃないか」


 遠目にクラスメイトの動向を見ていた鬼一ぼやく。


「僕らはどうする?」


 伊野が語りかける。


「取り敢えずはマグヌスマルクトを直接叩くしかあるまい」


 鬼一の背後に佇む影が一つ。


「貴様。我に背を向けるか」


「いいや、まさか。坂岡、伊野下がっていてくれ」


「お、おう!」


 鬼一が振り向く、そこに立っていたのはいたのはマグヌスマルクトだ。


「どういうこった?お前が二人いるなんて」


「勝手に想像し給え。先ずはキサマから排除させてもらおうか」


「へぇ!高く買ってもらっているみたいだな。時は止めないのか?」


「お前のブラックホールの力がある以上、平行線にしかならん、故に」


 マグヌスマルクトの周囲の土が泥状に変化し宙に浮くとともに槍の形状へと変化する。


「こちらは物量でキサマを挫く」


 鬼一が自身を取り囲む槍をちらりと見やる。


「これで俺を倒そうってか」


 彼の額に冷や汗が光る。


(俺がブラックホールで時間の停止を破壊したのは、実はまぐれなんだよな。次は来るとわかっていたから事前に用意ができていた。ブラックホールも特定のコツと握力で生み出せている。次の物量攻撃も全てブラックホールで飲み込んでしまうべきか。俺身体の耐久を踏まえても動けなくなるまで使えるのはあと二回か)


「まぁ良い、では 行くぞ」


 マグヌスマルクトの腕が動くと同時に数十は下らない土の槍、いや矢が雨あられと降り注ぐ。


 全方向から狙われているため逃げ場はない。


(この場で受けるしか無いか。だがそうなればブラックホールが数回しか使えない理由を見透かされるかもしれない)


 肥大化した右腕を胸の前に置き、最低限心臓だけでも守れるようにする。


 次の瞬間、一斉に四方から鬼一に矢が突き刺さる。


「ほう受けるか」


 マグヌスマルクトが嘲るような声を出す。


 鋭い土の刃が鬼一のその柔らかい肉を食い破り、

 金属同士が打たれあったような音が鬼一から発せられる。


 その音はさながら、銃弾が金属に当たり跳ね返される音に似ていたと鬼一は思う。


 内心驚きながら、鬼一が固く閉じていたそのまぶたを開く。


 矢は鬼一の身体を貫いてはいなかった。着ていた皮の軽装服は矢にズタズタにされていたが、肌は何とも無いことを鬼一は再確認した。


(矢に貫かれていない?!いったい今になって何故)


「大したものだ自身の肌を硬化させるとは」


 そうマグヌスマルクトが言い終わらないうちに土で生成したであろう双剣を鬼一目がけて振るう。


「ごはッ」


 瞬時に鬼一の喉に傷跡が発生するも、それを瞬時に治癒する身体。


「中々固いではないか、そうなると次は」


 マグヌスマルクトの鋭い蹴りが炸裂する。


 ボロ布を纏った身体からは想像できない程の圧が鬼一のみぞおちに入る。


「ぐぅぅッ」


 もんどりをうって地面に倒れる鬼一の身体を土が変形し拘束する。


 四肢を捕らえられた鬼一に一瞬で距離を詰め、その無防備な喉に、炭化した人の腕が食い込む、それはマグヌスマルクトの物だ。


「あが、ぐがぁ!」


「武器は通らない、ダメージも直ぐに回復されていしまう、ならばその首絞め落としてくれようぞ」


 鬼一に与えられるダメージは軽減する、回復される。ならばいっそ意識のみを刈り取ってしまえば良いと判断したマグヌスマルクト。


 そうはさせまいと鬼一が首の筋肉を励起させる。それは鬼一が柔道で絞め落とされまいと抵抗する際に行う、必死の抵抗だった。


 ぐぐぐっとマグヌスマルクトの手が押し返される。


「抗うではないか、まぁいい。最期に聞かせてはくれないか?なぜお前は転生を拒んだ!帝国に無理やり拉致され寿命を削る儀式を受けさせられ、その理不尽を強いた帝国に復讐できる。そんな誘いを何故お前は蹴った!」


 首の筋肉の守りが削れていくその最中、煮え立つ脳みそを無理やりに制御して、鬼一は言葉を紡いでいた。


「これいじょう、人間を、やめたく、なかったから」


「········ハッ。今更何をいうかと思えば、そんな事か」


「おまえが、何を、想像してるかは、知らねぇ、だけどな」


 鬼一が最後の言葉を振り絞る。


「俺は、死なねぇ、人として、死ねねぇ。だからこそ、短くなった寿命、から逃げたく、ねぇのさ」


 それが、並大抵のことでは死ねなくなった男の本音であった。


 その瞬間、マグヌスマルクトの中で何かが音を立てて崩れた。


「何だと」 


 動揺したマグヌスマルクトが、締めようとしていた手が緩む。


「人として死にてぇだと、その力を持っておいて。何を今更···」


「ごほ、ゲホゲホ、ふぅ。そうさ、今更だとしてもその力を授かったとしても、俺は人間であることから逃げたくねぇのさ!!」


 叩きつけられた回答は、文字通りマグヌスマルクトの中に響いていった。


(人間であることから逃げない、だと?)


 そして、マグヌスマルクトは思い出した。


 自分が何故、魔王の幹部になったのかを。


(あぁ、俺は人間であることに疲れて、俺もまた魔王様の転生させられた。元の人間だった頃の名は──エレメイユヴァンフリット、それが人間だった頃の名だ)


 その衝撃は、地面の拘束から右腕を一つぶん解放させるには十分な時間だった。


「ぜりゃぁぁぁぁ」


 お兄一の右腕、神の右腕がマグヌスマルクトのフードに入り、その首根っこを掴む。


(掴んだッ)


 ギリギリとマグヌスマルクトの首を片手で締め上げる鬼一。


 鍛え上げられたその腕と神の右腕としての力、その両方が、立場が逆転した哀れな敵へと牙を剥く。 


「な、にぃ」


 マグヌスマルクトが離れようと藻掻くと、フードが初めてはだけられる。


 がしゃりとマグヌスマルクトが戴いていたであろう、古ぼけた王冠が地面に落ちた。


 年代物であろうそれには、既に宝石と言った装飾品は抜け落ち形を保っているのが奇跡と呼べる代物だった。


 隠されていたマグヌスマルクトの素顔が露わになる、炭化した人の表面とマグマのように赤くらんらんと光っている両目が鬼一を見据える。


「それがお前の正体か、マグヌスマルクト」


「ぐ、ああ、あ」


 考えるまでも無いが魔王の幹部は、最早人ではなかった。


 恐るべき神の右腕の握力がマグヌスマルクトの首を潰されるペットボトルのように握りつぶしていく。


 炭化した人の腕がガリゴリと神の右腕に爪を立てる。が勢いは止まらない。


 そして、まるで千切るようにしてマグヌスマルクトの首は落とされた。


 ゴトッと地面にマグヌスマルクトの首が落ちる。それと同じくして、クラスメイトや天王司らを襲っていた偽のマグヌスマルクトは乾いた泥人形が崩れるようにして瓦解した。


 偽のマグヌスマルクトもまた風に吹かれた砂の様に消えていった。


「何が起こった!」


「いきなり消えたけどどうしてなの?勝ったと言うことでいいの?」


 クラスメイト内で混乱の声が飛び交う。


 それを受け天王司が収拾をつけようと動き出す。


 その様子を鬼一は一瞥し、転がったマグヌスマルクトの首へと近づく。


 マグヌスマルクトはまだ生きていた。


 転がった首のまま、鬼一を見上げている。


「まだ死なないのか、呆れた耐久だ」


 魔王の幹部を見おろしながら、そうため息をつく。

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