30話 亡国の王
マグヌスマルクトは剣を土壁で受け止める。
「貴様らもここに来たのか、まあ良い。貴様らも味わっていけ、この土のマグヌスマルクトの力を」
「良いねぇ、俺も混ぜてくれよ」
天王司の隣に立つ人影が一人、それは青木だった。
青木両腕に持つバックラーのような武盾の専用武器、生火ライブレイムが天王司に向かうはずだった土の魔術を受ける。
「ほう中々やるようだな、だが」
マグヌスマルクトが念じると地中の土が大量の人型に変形し、天王司と青木に襲いかかる。
たちまち、マグヌスマルクトの周囲は土でできた軍勢に囲まれた。
「クソ!なんだこれ!」
「うろたえるな、各個撃破していこう」
天王司と青木は自身を取り囲み襲ってくる土人形に対峙する。
その隙にマグヌスマルクトは土人形の間へと消えていった。
天王司と青木がいるということは、と鬼一が考えを巡らす。
「あたしもいるんだよねぇ」
展開されている拒絶の聖壁の後ろから、安藤が飛び出してくる。
鬼一の額に青筋が浮かぶ。
「安藤、貴様らもか!!」
鬼一が珍しくも激昂する。
怒るのも無理もない、魔王の幹部から生贄を要求された結果。クラスの派閥でも嫌われていた鬼一達が生贄になったのだ。
半ば裏切りに近い形で見捨てられた恨みが、そう簡単には解消されるはずが無かった。
坂岡も伊野も続々と現れる元クラスメイトに対し、嫌悪の視線を向ける。
彼らもまた遺恨が無いわけではないようだ。
「なんの真似だ」
「決まっているでしょう。魔王の幹部を倒しに来たのよ」
「なんだと?」
坂岡の怒気をはらんだ声を何ともなさそうに受け流して安藤がそう応える。
「丁度あんたらが時間停止の打開策を見つけていてくれて助かったわ。安心しなさい、あいつはあたしたち、天王司グループが始末するから。光栄に思いなさい。アハハハハハッ」
ようは、手柄が横取りされかけている状態なのか、と鬼一は認識した。
魔王の幹部を倒す、それはいいだろう。
自身の気に入らない相手の手柄の横取りをする、戦場であれば、むしろそれは当然のことだろう。
人類にとってどんな手を使ってでも魔王の幹部を倒すことが悲願なのは明白なのだから。
しかし、
「テメェら、勇者らしくねぇな。仮にも勇者を称しているんだ。それ相応の態度があるべきじゃないのか?」
怒りを抑えた声色で鬼一が安藤に返す。
「勇者らしくない?ご勝手にどうぞ?!私たちはそんなヌルい考えで戦いに来ているんじゃないから」
「そうかよ、なら卑怯者って言われても甘んじて受け入れる覚悟があるんだよな?」
その言葉を受けて、安藤もまたこめかみに青筋が浮き出る。
「なんですって?!」
鬼一がケっと吐き捨てる。
「態度だけは一丁前かよ、だから嫌いなんだお前は」
「好き勝手言ってくれるわよねぇ」
安藤千夏が手にした杖、双星杖ソルーナを掲げ、鬼一に狙いをつける。
「あたしの魔術で殲滅してあげるわ」
「やってみやがれ、ダブスタ安藤」
「よくも言ってくれたわねぇ?」
双星杖ソルーナ、それは安藤の能力、万能の魔本の力を引き出す存在だった。
安藤の能力もまた強力な存在だった。それは魔術の階梯に関係なく複数の魔術、魔法を行使できるからだった。
「どうしたよ、安藤。魔王の幹部を倒すんじゃあ無かったのかよ。俺の相手をしている暇があるのか?」
鬼一の指摘に対し、ギリギリと歯を噛み締め安藤が同意する。
「それに関しては同意ね、私は天王司君の加勢に行くから。夜道には気をつけなさいな」
そう捨て台詞を吐いて、空間移動魔法で去っていく安藤。
「わりーが、あいつの首は俺達がいただく、負けてらんねぇんだわ」
そう鬼一もまたマグヌスマルクトの下へと再び駆け出してゆく。
我は土のマグヌスマルクト、魔王サガ様の幹部。
世界を構成する四つの元素の土を操り、停止した時間の中でのみ他者の精神を読み取ることができる。
裏ダンジョンを生き延びた勇者の端くれ、その強さと力を認めた魔王様は短くなってしまった生を伸ばす為に、連れてこいとの命令を下された。
また勇者よ端くれがこの命令に従うも良し、従わぬも良しとのお達しだった。
サガ様の心中はお察しできぬが、我はそれに従うのみだ。
一週間後、答えを聞けば転生に応じるという、勇者の仲間内での裏切りと伝えた帝国の隠した真実を思えば納得がいった。
その前に勇者の端くれ、鬼一という人物は街の様子を見たいと言った。
幹部になれば、この世界の人類の敵になるというのに、何を考えているやら。
転生した後にこれから破壊する街を見て何を思うのだろうか。
串焼きを一つ、我に献上するという。理解ができなかったが食らおうとして、ふと思った。
自分は最早人ではない、故に人の食べ物は食えない。
そうだ、なぜ自分が人だと勘違いしたのだろう。我は魔王様の幹部だ。
彼にその事を伝えると、もったいないので我の分だった串も食べるという。
若いから腹も空くのだろう、必死になって食べている、その様子を見て我は、かつて自分にも子がいたという感覚が頭に浮かんだ。
何故だ、私は魔王の幹部、子などいるはずもないのに、なんだこの存在しないはずの記憶は。
それをきっかけにして次々と記憶が溢れ出してくる。何なのだこれは、今更になって。
ある国に国王がいた、民草から愛され、家族にも恵まれた。
「お父様、あの店の串が食べてみたいです」
そう息子は言った。
買って与えれば、息子は美味しそうに食べた。
一生懸命に熱いはずの串を構わずに頬張っている。
その様子があまりにも愛おしくて、じっと見つめていればその視線に気づいたのか息子が質問してくる。
「どうしたのですか?お父様」
「いいや、なんで無いんだ」
自分も買った串を食べてみる。
「ほうこれは美味い」
気付けば自分の心の底に言い表しようの無い幸せな感情が溢れていた。
そんな幸せが続けば良い、そう王様は思っていた。
しかし、幸せは長続きはしなかった。
帝国と名乗る者たちが王国へと侵略してきたのだ。
当然この侵略に対抗すべく、騎士を招集し国土に進行する帝国の兵士を食い止めようとしたが、敵の数は膨大だった。倒せども倒せどもキリがない。
我々は次第に疲弊し、そして敗戦を喫することとなった。
多くの民と騎士、貴族が一度帝国へと連れ去られたが、幸いなことに多くのものが帝国兵士の護衛とともに帰還を果たしたのだ、だが、様子がおかしい。
男も、女も、子どもも、年寄りも。皆声を揃えてこういった。
「あんたが王様?バカを言わんでくださいよ」
「さてねぇ、何も思い出せない」
「本当にいたのかな、僕全然わかんない」
「「「私たちに王様なんていたかしら?」」」
国王だった男は絶叫した。
愛した国民は自分のことを知らないという。
男は這々の体で帰ってきた自分の家族にも問うた。
私は国王だ、私はお前たちの親であり、伴侶である、ともしかしその返事は冷たいものであった。
「あなた、は誰ですか?」
「おっちゃん誰?」
誰も私を覚えてはいない、誰一人として私を知るものはいない。
愛していたはずの妻にさえ、慕われていた息子にさえ、知らないと言われてしまった。
そのうちに、我は私は、自分自身が本当に国王だったのかすら怪しくなってしまった。
「私は、いったい私はいったい誰なんだぁぁぁぁ」
そう叫んだ、絶望を口にした。
誰も私の苦悩はわかるまい、誰も私の思いはわかるまい。
半狂乱で以前と変わらないほどに栄えていた市場を走り回る。
愛していたはずの国民の目は冷たくそして恐れに満ちていた。
その眼は狂人を観る眼だった。
そしていつの日か、私は放浪者となった。
以前の豪華な服とは程遠いボロ布を着て、杖を片手につきかつて自身の領土だった国土を歩いては皆の記憶がなく無くなってしまった理由を考えていた。
全てはあの帝国のせいだ、あの帝国に何かがある。
そこまで思い出した。
本当に今更、何を思い出しているのだ。
戦いの最中、だと言うのに。
思い出したきっかけは、全てはあの男にある。
このままでは思い出という邪魔な存在に足を取られ、敗北してしまう。
我が優先的に排除すべきは、あの男だ。
目の前の三人の勇者はそれ程ではない。
多少鍛えたつもりなのだろうが、攻撃に粗がありすぎる。
攻撃力こそ高いものの、その粗が命取りだ。
以前に攻撃を食らった奴の方がまだマシだ。
「·····さて、奴がこちらに来ている。相手は別の我にしてもらおう」
マグヌスマルクトの不気味な笑みと共に、夜も更けてゆく。
激戦はまだ、始まったばかりだ。
面白いと思った
続きが気になる
と思ったら評価から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。
ブックマークなどいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




