28話 強奪のダガン
「ようやく見つけたぞ、神の右腕、永遠に至る梯子。神の鞭計画、その欠片」
野太い男の声が響く、そこはとある男の私室出会った。
部屋は暗く、怪しい光に満たされている。
そこに立つ男の名はダガン=ケルへペレス。
その大柄な身体はきらびやかな宝石と赤い布地をした服に包まれている。
彼はレイバルン帝国における王族の一人だ。
彼の前には巨大な水晶球が鎮座しており、そこから彼らは自身の密偵らが報告してきた内容を聞いていた。
水晶球にはダガンの私兵、黒曜石と名付けられた人物らが写っていた。
彼らの出自は孤児であり、ダガンはそんな彼らを自らの私兵として徴用しているのだ。
その黒くみすぼらしい姿は仮初の姿である。
「本人たち曰く、補給も無く自力で裏ダンジョンを突破したとの事です」
「たった三人のみで、しかも補給もほぼ無しでダンジョンを攻略したのか。恐らく能力によるものか、やはりとんでもない力だな、若造のくせにやりおるわ。故にその力、やはり王の血脈たる我にふさわしい」
ダガンがいやらしく、にやりとその顔に笑みをたたえる。
アルカのダンジョンは踏破されるまでにかなりの年月が経っており、それを僅か数日で踏破するのは前人未到の領域であった。
「どうりで裏ダンジョンにいないわけだ。だがこちらで今後裏ダンジョンを攻略する必要は無くなったわけだ。裏ダンジョンに残存する捜索隊に通達せよ。裏ダンジョンに留まる必要なし直ちに撤退せよ」
「はッ」
「例の能力者どもはどういたしましょうか?」
「神の右腕と結界張りと悪狼もどきか。ううむ、実際の所、優先順位では神の右腕の方が高い。接触はせずに引き続き監視をせよ」
「はッ、引き続き監視を行い随時報告いたします」
「ああ、次の報告は昼にせよ、我が兵」
「はッ、ダガン様に栄光あれ」
ダガンが私兵の黒曜石らに下がるように命じる。
巨大な水晶球から光が消える。
「永遠はもうすぐだ。もうすぐにでも手に入る。我が夢の千年ももう間近だ」
そうぶつぶつ呟くダガンの背後に忍び寄る影が。
「──ッ」
鋭一太刀で一閃、人影がダガンの背後に斬りかかる。
「うがぁっ」
背後から袈裟切り、ダガンは気づくことなくその攻撃を受け斃れた。
大きく切りつけられたその大柄な身体から血が噴き出し、飛散する。
「·········」
辺りはしんと静まり返っている。
人影の正体は白いフクロウの面をした地味な服の暗殺者だ。
ダガンは王族の中でも専横で有名であり、なんでもかんでも自分のものにしたいと言う強欲から。
強奪のダガンと言う二つ名で庶民を中心に悪感情を買っている。
そのため、このように王族の暗殺が実行されるまでに至ったのだ。
動かないダガン、その喉元に手を伸ばす暗殺者。
どうやら完全に息の根を止められたか確認するようだ。
だが、それは叶わない。
死んだはずのダガンの左腕が暗殺者の喉を握っていたからだ。
「····ぐぅ··ぅ」
むんずと首を掴み掲げたまま、ムクリと身を起こすダガン、苦悶をこぼす暗殺者。
「俺様をこんなショボい斬撃だけで仕留められると思ったのか?」
「··な、に?!」
暗殺者が目を見開いて、驚愕する。
ダガンの袖がずり落ち、その皮膚が露わになる。
その左腕には竜の鱗がびっしりと生えていた。
黒い色をしたそれは、普通の腕の一回り大きさはある状態だった。
暗殺者は忍ばせていた暗器や短刀で自身を掴む左腕に幾度も刃を立てるが、貫くことさえ叶わない。
鋭い爪の生えたそれは、暗殺者の無防備な首に食い込んでいる。
「こんなハズレの能力でも、使いようはあるってか。まぁ強奪しておいて良かったぜ」
「な、貴様はッ」
「黙れ!!このウス汚ねぇ暗殺者が!!」
藻掻く暗殺者に対し、左腕をギリギリと締め上げるダガン。
「俺様を殺そうとするバカなんざ。私兵を使うまでもねぇ!!俺様自身が叩きのめしてやる!!!」
激昂するダガン、激しく藻掻く暗殺者。
そして、ぼくっと音が辺りに響き。藻掻いていた暗殺者の動きが糸が切れた様にだらりと四肢が垂れる。
「ダガン様!!」
私室の扉が勢い良く解き放たれ、黒曜石達がなだれ込んでくる。
「申し訳有りません、侵入に気づくのが遅れました」
「フン、まぁ良い。この暗殺者の依頼者を洗っておけ、俺様を弑そうとするなんざ、いい度胸だ」
「はッ、処分はどういたしましょうか。一族郎党皆殺し、でございますか?」
「良い、今回は暗殺を依頼したバカ一人の命で勘弁してやる」
「はッ、必ずや思い知らせます」
そう言って、ダガンから暗殺者を受け取り私室から波が退くように去っていった。
数人が残り、ダガンの血の跡を掃除していた。
「ううむ」
ダガンがうめき声とともに身をよじる。
暗殺者に斬りかかられた袈裟切りの後は、いつの間にか僅かな傷跡となっている。
「能力とは言え、斬りかかられるのはやはり痛いものだな。ああ、大事な一張羅が台無しではないか」
高級そうなダガンの着物のその背中には、切りつけられた後がくっきりと残っていた。
「変わりのお召し物を直ぐにご用意いたします」
黒曜石がすぐさま服を取りに出ていく。
「まぁ良い。神の右腕よ待っていろ。直ぐに俺様の物にしてやる」
強奪のダガンは、にぃと笑う。今後自分の元に神の右腕が来ることを確信しているかのようだった。
場所が変わって、レイバルン帝国とあるのレイバルン教会。
そのとある場所にて、とある二人の人物がいた。
「········神の右腕のご降臨がなされた」
「いよいよ主神レイバルン様が我々をお救いくださる。しかし、異世界人の右腕宿られるとは」
「能力は滅多に人には宿らぬ。そのような事を言うな」
そう言い放つ初老の男性は、裾が床まである白色と金色の高位の法衣を身に着けている。
ステンドグラスからの光を受けて、その神々しさは眩い物となっている。
「我らの信仰が届いたからこそ、主が外界に下されたのだ」
「ええ、存じております。しかし、強奪のダガンがすでに動いていますが、大丈夫でございましょうか」
そう事を案じる若い人物。
レイバルン教の法衣に身を包み、金髪に茶色の瞳が特徴的出会った。顔は清潔感があり、人当たりがよいように感じられる。
「何を疑問を持つ事がある。他ならぬ神の右腕、邪な者にこそ、問答無用で天罰を与える存在なのだぞ?」
「申し訳有りません。我らが信仰を疑った訳ではないのですが」
「まぁ、お前も若い、仕方あるまい。神の右腕の力を見誤るのはあり得る事よ」
「はい」
青年は思い出す、レイバルン教における、神の右腕とは何なのかを。
レイバルン教の神話において、主神の右腕とはかなり象徴的な存在だ。
主神の右腕は、世界は開闢し、悪の存在を地獄へ打ちすえた。
当に神業のような存在である。
その奇跡が宿った存在それが、神の右腕である。
「私も様々な主神の奇跡の御業を代行する身でありますが、神の右腕とはそれさえも凌駕するものなのですね」
「ああ、そうだとも。そして、それを御する精神もまた素晴らしいものなのだよ」




