25話 答え
その日の夕暮れには、坂岡と鬼一は宿屋に戻り伊野と再会した。
「おかえりなさい!鬼一君、坂岡君!」
「何をやっているんだ?」
「これ?見て分かる通りお昼ご飯の準備だよ。宿のおかみさんの厨房を借りて作ったんだ」
鬼一は唖然とした。
部屋に入れられたテーブルには、多すぎず少なすぎない量の種類の皿に並べられた料理、これを伊野が一人で作ったというからだ。
「伊野、お前まさかこれを一人で作ったというのか!」
「ロニパさんも手伝ってくれたよ。ついさっき休むと言って寝台で寝ているけれど」
二段ベッドを見れば、ロニパがすやすやと眠りについていた。
「しっかしすごいな!伊野が料理をできるなんて知らなかったぞ!」
「そんなに言っても何も出ないよ。さぁ一緒に食べよう!」
なるほど女子よりも人気がある理由がわかったような気がする、そう鬼一は思った。
顔もよく性格もよくそれに家事、料理まで上手いなんて、そんな人物は伊野の他にはクラスの人間は、誰一人として思い浮かばなかった。
(そう言えば、クラスの連中はどうしてるんだろうか。まだ、ダンジョンで演習でもしているんだろうか)
鬼一はふと自分たちを切り離した、天王司派閥の連中を思い出す。
天王司はいつも通り理想を振りかざし、安藤はそれにその他の連中を迎合させているだろう。
ともう一人、天王司派閥の人物を鬼一は忘れていた。
青木吉宗 〈あおきよしむね〉、体格がよい好青年と言った所が特徴の人物。天王司派閥における天王司に比肩する中心的人物。
天王司とは中学以来の友達だとか。
身長も高くそれなりにモテるが、伊野を女と間違えて口説きかけた事もあったと伊野から聞いている。
それを聞いた時、鬼一はしょうがないと思ったが、同時に品性が無いとも感じた。
彼は心情的には、学生なのだから節度ある行動をすべきという学校の校訓を遵守していた。
青木が鬼一派閥と対立したのはそれのせいもあったかもしれない。
何故今になってその事を思い出したのだろうかと考え込んでいると、伊野が鬼一に話しかけてくる。
「どうしたの?おいしくなかった?」
心配そうに聞く伊野に鬼一は応える。
「いや、かなり美味いから感動しててな。すまん」
それなら良かった、と安心したように穏やかな顔になる伊野。
一段落がついた所で鬼一が手を挙げる。
「話が変わるが、俺達の旅の目的について話そう」
坂岡と伊野が真面目な顔で頷く。
「話をまとめると帝国軍とは別に、俺達だけで魔王に挑む。先の問題として後四年しか寿命が無い。そしてマグヌスマルクトの誘いにも乗らない。そもそも魔王の手先だから信用できない」
坂岡が手を挙げる。
「マグヌスマルクトが話に乗ってこなかった場合、攻撃を加えてくると思うんだが、何か勝機はあるのか」
「あー、それなんだが無くは無い。ただ、運任せになる可能性が大だな」
「それでよく、話を突っぱねることにしたな」
「なぁに出たとこ勝負だ。いつも通りさ」
「あの時間停止をどうにかできるっていうのか?」
「あぁ、一つだけな。それが何かは今は言えないが。その後は、北に向かいつつギルドの依頼をこなし、路銀を稼ぐ」
「なかなかハードになりそうじゃないか!」
「出たとこ勝負、いつもの僕らじゃない」
にやけて笑い合う二人。
そうだいつもの俺等はこんなんだったよな、と鬼一も微笑む。
バカをやって、色んな事をして、毎日を過ごす。
後四年の命だけれど、毎日がこんななら悪くないんじゃないか。
鬼一はそう思った。
その後鬼一、坂岡、伊野、ロニパの一行は装備を整える為に防具屋である黒斧店に来ていた。
帝国から支給されていた装備は良いものだったが、裏ダンジョンでの戦いで大半が使い物にならなくなっていたため、修理か新調するかで一行は悩んでいた。
店の至る所には、剣や防具が所狭しと並べられており、鏡のように磨き上げられた防具はいかに店の手入れがされているかを物語っている。
「やぁ、お前さんだったか」
「ご無沙汰しています、大将」
以前に鬼一が、バシュムの尾から見つかった剣を預けた店だ。
「今日は何のようできたんだ。まぁおおよその検討はつくが」
「そうですね、装備の新調をしようか迷っているんですよ」
そう言ってカウンターに彼ら自分の装備していたものをごとりと置く。
坂岡と伊野は帝国で用意された防護帽、籠手、胴鎧、足甲と言ったもので、冒険者には必須のものである。
鬼一の場合は、ロニパの人体実験の被害者の物を使用しており、そのほぼ全てがくたびれた革と鉄の軽装備だった。
うーむ、と唸るドワーフのオヤジ。
「お前さんのはもうほとんど直すこともできん。新しく買い替えたほうがええじゃろうて。他の二人のはまだまだ仕えるのう、帝国に卸しとる特製のものじゃしな」
「なるほどです。ありがとうございます」
「俺も鬼一の防具はほとんど使えなさそうなのは指摘したんだがな、貧乏性なんだよお前」
「実際に専門家の意見を聞いたほうが良いと言ったんだよ、貧乏性じゃないだろ」
坂岡の茶々に言い返す鬼一。
それに割り込むようにして、ドワーフのオヤジが口を開く。
「それで。お前さんの体格からしても重装備も行けそうだとは思うんじゃが、防具はどうしたい?」
鬼一が顎に手を当てて考え込む、判断に迷っているようだ。
「重装備も良いんですがねぇ、でも動ける時には動けるようにしておきたいんですよ」
「それなら、今まで通りの軽装備じゃな。身軽な方が動きやすかろうて。うむこれでどうかのう」
カウンターの下から見繕ってくれてたのか、いくつか見本を取り出してくれる。
取り敢えず出されたものを着込んでみる鬼一ににかっと笑みを浮かべる、ドワーフのオヤジ。
「ほう、なかなか様になっとるじゃないか」
もともと鬼一の体つきが良いためか、それなりに良い感じに見て取れる。
「うーんと胸のほうが少しキツイよう気がします」
「ほんじゃ、これでどうじゃ」
鬼一が着ている物よりも一回り大きいサイズを渡す。
「これならぴったりです」
「おう、わかった。この大きさで新しく見繕うか」
そう言えばと鬼一が切り出し、背中から降ろしていた袋に手をかけ、一息にカウンターへ乗っける。
「おん、これは?」
「実は怪物の牙や皮、骨なんかを加工して装備を作ってもらえるって話を聞きましてね、その鑑定をお願いしたいんですよ」
鬼一が持ってきていた袋には、激選した裏ダンジョンの怪物などの骨や皮と言った物を何かに役立つのだと思い収集していたのだ。
「ほう、ホワイトサラマンダーの皮にマーナガルムの皮、牙と骨か。なかなかお目にはかかれんものだのう」
そういって目を瞬かせて、ドワーフのオヤジが素材をしげしげと見やる。
「これで防具とか作れませんかね?できたらそういう物がいいんですが!」
嬉々として質問する鬼一。
何を隠そう、鬼一はそういった物で作られた装備に興味があったのだ。
「それはええが、その場合は特注の品となるでな。既製品よりも倍の値段になるぞ」
「あっ。そ、そんなあ」
それに素材とするにも数も足りん、とドワーフのオヤジが言う。
現実問題、帝国からの金があるとは言え、装備に回す金は極力抑えておきたいのが鬼一の本音であった。
それに。
「鬼一、抜け駆けは許さんど」
「鬼一君だけ特別ってのはどうなのかなぁ」
二人の圧もある、それにロニパも心無しかあまりよろしくないと目で訴えている。
「ええいわかったよ、大将、悪いけど既製品で頼んます」
「そ、そうか。わかった。そっちの装備の修理も合わせて、ミュンダース銀貨五十枚といったところだの」
「はい、丁度」
会計を終わらせて、荷物を受け取る。
その時、こんこんと黒斧店のドアがノックされる。
「こんにちわー、鬼一くん、いらっしゃいますか?」
鬼一はその声に、聞き覚えがあった。
「まさか。ティナか?」
扉が開き、一人の女魔術使いが入ってくる。
「また会えたね!鬼一くん」
明るい声がむさ苦しい空感に響く。
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