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神の右腕 リブート  作者: 伽藍堂
22/28

21話 葛藤

 鬼一は空が明けないうちに書き置きをして、ゴーゴリ司教のいる場所へと出かけていた。


「ゴーゴリ司教に会いたいんだが」


 門番の衛兵らに尋ねる。


「司教様?それは良いとしてあんたは」


「不審な者ではないです、ただ確かめたいことがあって来たので」


「おぉ、鬼一殿、よくぞ参られましたな」


 鬼一の背後から声をかける人物が一人。


 笏をついて現れたのは鬼一の目当ての人物、ゴーゴリ司教だ。


「本日は何ようで来られたのですかな」


「実は内密の話が有りまして、それで来たのです」


「そうですか、ではこちらへ参られませい」


 そう言われて案内されたのは、西洋風の東屋、ガゼボであった。


「ここの風景は絶景でございましょう。城下街がここからならばよく見えるのです」


「えぇ、そうですね。本当に素晴らしい景色です」


 レイバルン帝国の城、その近くの小高い丘にガゼボは建っており、そこから城下街が見えるのだ。


 人々の営みが、そこからは見えていた。


「突然で悪いのですが、早速お聞きします。我々の能力とは一体なんなのですか?」


「それは····」


 ゴーゴリ司教の言葉を鬼一が遮る。


「いいえそれではなく。真実をお話して欲しいのです」


 鬼一の眼はゴーゴリ司教の目に合わせられていた。


 一瞬、沈黙が場を支配する。


 そんな中、口を最初に開いたのはゴーゴリ司教だった。


「鬼一殿はどこでそれを知ったのですか?」


「マグヌスマルクト、魔王軍幹部からです」


「最早こちらの手の内はほぼ見られているとの事ですな」


 鬼一がマグヌスマルクトの話していた事をそのままそっくりゴーゴリ司教へと話した。



「あぁ、やはり隠し通せぬものですな。英雄鍛造、たしかにあなた方に施しました」


「最初から騙していたのですか?」


「·····否定はしません。ですが肯定もしません。恐らく、勇者の意味も今思えば食い違っていたやもしれませぬ」


「···勇者の意味、ですか?」


「我が国おいては勇者とは、その身全てを捧げて帝国を守護する者の名にして、身分でございます」


 鬼一が唸る。


(想像以上に重い役割だったんだな。それをあっさり受け入れてしまう俺達の考えも幼稚だったんだな)


「俺たちが手に入れた能力で好き勝手するとは思わなかったのですか?」


「それも加味してもあなた方の召喚が必要だったのですよ」


「·····それ程、追い詰められていたのですね」


「ええ、マグヌスマルクトの能力、あれらに我々は苦難を強いられております。あれにあなた方は対抗できる、と信じております」


「·····信じる、と言われましても」


「元にあなたは事実を知ってなお、こうして話に応じてくださっていますでしょう?」


「それは性善説が過ぎませんか?あまりにも人の善性を信じ過ぎているのでは?」


「人の善性、を信じる。性善説、ですか。言い得て妙ですな」


 フッと微笑むゴーゴリ司教。


「確かに、私共にとっても賭けでございました。我らがレイバルン教の主神の御力を借りての異世界人の召喚、もしも極悪人が召喚されてしまえば、我々が魔王よりも先に滅亡する可能性もありました。今思えば、我々は破滅の一つをくぐり抜けたと言う事ですな」


「·········」


「何にせよ私共は賭けに現状勝ったと言えるでしょう。それで、鬼一、あなた方はこの事実を受けてどうするのですか」


「寿命を勝手に削られたことにも、異世界召喚されたことも、確かに理不尽だと俺たちは感じている。正直、怒りが勝っている面もある」


 鬼一の怒りが、表情にも現れる。


 未来を奪われた挙句、自身の身にも余る力を与えられた。


 彼にとって、これまで理不尽を感じていなかった訳では無い。


 事実を再認識する事で鬼一はようやく自身の身に降りかかった物を理解する事ができた。


 鬼一の右腕が異常に光輝く。それは感情に呼応しているのか、瞬くように発光する。


 鬼一を頭を抱え、その場に膝をつく。


「ハァ、ハァ、ハァ、ッ···········」


「苦しそうですな、いかがなされた」


 ゴーゴリ司教が心配そうに鬼一のかがんだ背に手をさする。


「······すみません」


 頭痛が引いていくのと同時に鬼一は立ち上がる。


 右腕の光も消えていく。


(この頭痛、ショックのせいか·····)


「·····それと最期に一つお聞かせ願えないですか?」


「なんですかな?」


「専用武器とは何だったのですか?」


「あぁ、それはそうですね。ドワーフが作ったというのも嘘です」


「と、すると?」


「·····あなた方の魂の鋳造した物の、その副産物です。あなた方の魂のみに反応し、力を発揮するものです。是非とも旅にお役立てください」


「·············」


 (ああ、どこまで俺を、俺たちを弄んだのか)


 怒りの言葉が、鬼一の頭の中で歪みこだまする。

 

「······もう、あなた方の側では戦えない。認識の齟齬があったとは言え、俺たちはあなた方をもう信用できない」


「·········」


「だが、魔王は我々が討ち取る。この腕で必ずや」


「なぜ、ですか。なぜそこまで我々を」


「勘違いしないでいただきたい。今はこの力をぶつける先がある、それだけで十分です」


 それだけ告げて、鬼一はゴーゴリ司教の元から去っていった。


 帰り道を歩く鬼一。


 その背中には哀愁が漂っていた。


(俺の寿命と引き換えにして得たのが、この力か。平和に暮らしていた人間を、一騎当千の猛者に変化させる。英雄鍛造、魂を鋳造すると言う訳の分からない力にすがらなきゃいけないほど、この世界の人類は魔王の危機に脅かされているのか)


 鬼一は右手を見やる。


 なんの変哲もないただの人間の腕だが、能力を使用すれば、不死身になり人離れした力を振るうことができる。


(短くされた寿命に比例して、能力と言う強さが出てきているのかもな。そう考えれば、彗星の瞬きのようなものだな)


 長くてもあと四年の命、と言う圧倒的絶望感を前に、鬼一はなんとか持ちこたえた。


 その理由は、自身の仲間がいるからだ。


 同じ境遇の仲間の、痛みを分かち合う友達が気がかりだったのだ。


(少なくとも俺があいつらに振りかかる火の粉を全て受け負えばいい話なんだ。あいつらは不死身じゃないからな)


 歩みを進める中で鬼一の中では、一つの結論へと行き着いた。


(後の4年間はあいつらを守りつつ、冒険者として活動をし、そして、魔王の幹部を倒すか。中々難しいがなんとかやり遂げたいところだ)


 そうして彼は白い尻尾亭へとたどり着いた。


 もう昼ごろらしい、太陽は天高く輝き、泊まっていた人間は外へ食事に行っているのか消えていた。


 自室へ階段を一歩一歩上がる彼を呼び止めた者がいた。


「おかえりなさい、マスター」


「·····ロニパか」


 ホムンクルスのロニパが出迎えに来てくれた、だがどうやら穏やかなな雰囲気ではないようだ。


「お二人方が出ていってしまいました」


「えっ?!」


 とてつもない衝撃が鬼一を襲う。


 守ると心で誓った仲間が突如として、消えた。


「二人がどこへ行ったのか分かるか?」


「わかりません。気づいた時にはどこかへ行ってしまいました」


 それを聞いた時、鬼一の。


 せき止めていた感情が揺れ動く。


「う、ぐっ········」


「どうしましたか、マスター」


 無感情なロニパの言葉が鬼一の耳に響く。


「何でもない、あいつらの事だ、なんてことはないさ。·····気分転換に飲みにでもいってんだろ」


 揺れ動いた感情は再び、カチリと心に鍵がかかる。


 なに、いつもの事だ。


 そう、鬼一は自分に言い聞かせる。


 感情が氾濫しそうになるたびに、鬼一はその心に鍵をかけてきた。


 そのたびに鍵が綻びかけようとも。

 


 昼には鬼一、一人ギルドで依頼をこなした後、とある場所に来ていた。


「すみません、お邪魔します」


「·····おお、何ようだ」


 ドワーフのオヤジが営む武器屋に鬼一は来ていた。


 精霊属ドワーフ種は鉱石などの扱いに長け、独自の鉄の鍛え方で人間の製鉄技術とは一線を画す。


 この黒斧店の主人のドワーフは、長く蓄えた白いひげと黒い眼帯に低い背が特徴であった。


「この剣について見てもらいたいのですが·····」


「ほう、見せてみい」


「これなんですが·····」


 そう言って、バシュムの亡骸から見つかった剣を取り出し、アンデルスに手渡す。


「ほぉ、いい剣じゃねぇか」


 刀身を柄から僅かに抜き、刀身を見やるアンデルス。


「長らく鍛えてねぇみたいだが、オメェさん。これどこで手に入れたんだ?」


「龍の尾から出てきたんですよ」


「ほぉ、そんなおとぎ話みてぇな事、そんなにねぇぞ」


「他にも前例があるのですか?」


「ワシも話に聞いたくらいだからのぅ。まさか本当に出てくる剣があるとは思わなんだ。こいつはどうするんだ?鍛えるのか?」


「えぇ、お願いいたします」


「なるほどな、こいつは一応預かる。銀貨5つってとこだな」


 支払いを済ませると鬼一は武器屋から退店した。


 その日、夕方になっても二人は帰ってこなかった。

 鬼一は一人で夕飯を食べることとなった。


「······」


「······」


 今夜ギルドの酒場の出されたのは、白身魚のムニエルだ。


 それと付け合せの黒パンと豆のスープ。


 機械的に食べ、飲む、ただそれだけだ。


「あの鉄級の冒険者たち、いつもの人数がいないんじゃないか」


「まぁ、そういう事もあるのよ」


「パーティにいづらくなって消えたんじゃないか。見ろよ、男と女の二人だぜ。無理も無いさ」


 そんな言葉がひそひそと辺りでささやかれる。


 同じ鉄級だけではなく、青銅、銅、銀のパーティなどが同じように食事を食べていた。


「········マスター」


「良いんだ、俺に何かしらの落ち度があったんだろう、さ」


 ホムンクルスに生殖器官は無い、それ故に男女の仲となる事は無い。


 だが、それはぱっと見では分からない為、そう言われてしまうこともあるのだ。


「出ていってしまった二人を探さなくても良いのですか?」


「そう、だな。探すにはどうしたら良いんだろうか」


「マスターのお友達も後四年の命、人は現実逃避の為に何かに依存しているのだと考えました」


「なるほどな。現実逃避か、その手は考えていなかったな。明日はそれらしい所を見回ってみようか」 


「当てはあるのですか?」 


「ある。あいつらの行きそうな所の当てが」

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