第二十三話【新しい仲間?】
「‥‥‥あの」
うわ、話しかけてきた。
どうしようか‥‥‥。
確かに見た目は好みなんだけどさ、あめが見たら良い思いをしないだろ。
まあ、人として一応返事をするか。
そう考え、俺は壁に貼られている絵画に視線を向けたまま答える。
「どうしたんですか?」
すると一瞬沈黙が流れ、疑問そうな声が聞こえて来る。
「‥‥‥‥‥‥なんで敬語なの?」
んんっ?
知り会いかな。
不思議に思い女の子の方を向いてみた。
「‥‥‥どちら様でいらっしゃいますか?」
近くで見ると、更に可愛く見えるな。
でもさ、こんなに可愛い子‥‥‥俺の知り合いには、あめくらいしかいないだろ。
そのあめは、前髪がたくさんあるから、片目が見えたりはしない。
つまり知らない人だ。
「‥‥‥分からない?」
「あ、はい」
近所の子とかかな?
「‥‥‥あめだよ?」
あめ?
そう言われ窓から外を眺めてみると、晴れている。
「普通に晴れだと思いますよ?」
「‥‥‥誰も天気の話はしてない」
あ、そーなの。
「じゃあなんの話でした?」
「‥‥‥名前」
「名前‥‥‥あー!」
そこで気付いてしまった。
「‥‥‥分かった?」
「うん、まさか‥‥‥あめ?」
「‥‥‥ん」
青色のかわいらしいヘアピンで、前髪を止めているじゃん。
しかも片目を出している辺り、俺が昨日話した好みの女の子に似てるな。
いやー、でも信じられないな。
昨日は恥ずかしいって言ってたのに。
「雪奈あめさんかね?」
「‥‥‥ん」
え、めちゃくちゃタイプだわ。
前髪がある状態でも十分だったけど、片目が出てたらもうやばい。
あまりの可愛さに思わず見惚れてしまう。
俺が無言でしばらく見つめていると、あめは恥ずかしくなったのか、下を向いてしまう。
その顔がまた、睡蓮の花の様にピンクっぽい赤色で、見入ってしまう。
「‥‥‥やっぱり‥‥‥変?」
そんな声が聞こえて来た。
いやいや、それはないじゃろぉ~。
「変じゃない。むしろ可愛すぎる」
「‥‥‥そっか。‥‥‥でも大袈裟だよ」
あめは下を向いたまま少し微笑む。
「大袈裟っていうか、まだ言い足りないよ」
「‥‥‥えっ」
「だって前のあめより断然良いし、俺の好みだわ」
「‥‥‥冗談は思考だけにして」
言っている事を信じてくれない様だ。
「冗談じゃ無いって。本心だもん」
「‥‥‥そ、そんなに良い?」
「ああ、でもいつ買ったんだ?」
「‥‥‥ついさっき。ひろとくんが中々起きてこないから、しばらく村を探索しておこうかなと思って歩いてたら、一つ50ゴールドで売ってた」
「ほう、安いな」
「‥‥‥ん」
さっきから椅子に座っている他の女性プレイヤーがチラチラと見て来ているが、気にしないでおこう。
宿屋のNPCおっちゃんもじっと見つめて来ているが、放っておこう。
俺達のやり取りを見ても面白く無いだろうに。
だって普通の男子と女子の会話だし。
「まあとにかくさ、待たせてごめん」
「‥‥‥ううん。大丈夫。私も少しだけどお買い物が出来たから、楽しかった」
「そっか。なら良かった」
「‥‥‥で、これからどうする?」
俺はとりあえず現実世界の時間を確認する。
「あっちはもう19時だけど、大丈夫?」
「‥‥‥あ、そういえば向こうの事忘れてた」
「ああ、俺も」
「‥‥‥私は大丈夫だけど‥‥‥」
「じゃあ、もう少し村の様子を見て回るか」
「‥‥‥うん」
という事で、俺達は宿屋を後にすると、アスファルトの上を歩きだす。
空は澄んだ青色で、たまに吹き抜ける風が気持ち良い。
「ちゃんと手伝ったんだから、報酬くらい渡してよ! そういう約束でしょ!」
朝日を浴びながら、のどかな風景の中をゆったりと歩いていると、突然荒っぽい声が聞こえて来た。
朝っぱらからうるせぇのぉ。
夫婦喧嘩なら別の場所でしてくれんかね?
「へっ、聞いたか? 約束だってよ」
「そんなのおぼえてないなぁ~」
「あんたがあたしらに、勝手について来てたんじゃないの?」
おい、やめろ。
わしらは今静かなお散歩をして、若者とは思えんくらい会話も無く歩いているんじゃ。
だがそれも幸せだ。
現に俺は結構こういう雰囲気が好きだ。
何て言うんだろう、特に目的がある訳でも無く、信頼できる女の子とただ無言で歩く。
これほどの幸せは無かろう。
なのにだ、なんださっきから。
誰かは知らんが、不愉快な声を出しやがって。
公害問題で訴えるぞ、こら。
土壌汚染や水質汚濁よりも達が悪いわ。
「ふざけないでよ。明日ちゃんとゴールドを渡すって言ってたじゃない。私憶えているんだから」
痴話喧嘩かね?
まあ、若い頃はよくあるもんじゃ。
そういうのを乗り越えてこそ、本当の信頼が得られる、若者よ、わしらみたいな関係になりたくば、頑張れ。
わしは幾度も堪えては、相手にぶつけ、そして仲直りをしてきたぞ?
それが人生というものだ。
えっ、わしが今何歳なのかって?
良いじゃろう、特別に教えてやるわい。
十七歳の現役高校生だよ!
「あんたが覚えてるから何? 私達は知らないわよ?」
「だな。記憶にねぇぜ」
「これ以上しつこく来るんなら、ぶっ飛ばすよ?」
物騒な世の中じゃのう。
「‥‥‥もう良いわ。あんた達の誘いに乗った私が馬鹿だった」
「まあそう言うこった。これで勉強になっただろ?」
「てか、あの程度の実力で報酬なんか求めるなよ。俺らの足ばっか引っ張ってたじゃん」
とそこで、隣りにいるあめが俺の服をつまんで来た。
「‥‥‥ひろとくん。助けないの?」
どういう事だ?
「なんで知らない人の喧嘩に入って行くんだ?」
「‥‥‥知っている人だと思う」
えっ!?
そう言われ、初めて争いをしている若い衆達を見てみた。
すると、大きな木にもたれ掛かっている一人の女子を、数人のやつらが追い詰めている。
誰がどうみても、いじめだ。
俺は、いじめられている女の子を確認してみる。
「あ! 鉄さんじゃん」
そう、昨日も見た高身長で美人の鉄さんが居たのだ。
「‥‥‥ん。‥‥‥かわいそう」
「どうするかね?」
「‥‥‥知っている人だから、見て見ぬ振りはしたく無い」
「だな」
「‥‥‥行ってくれる?」
上目使いで見て来る。
片目の破壊力‥‥‥やばいな。
「よし、行ってやろう! 俺の格好良い姿を見ているんだな」
正直、昨日は助けに行かなかった事に後悔したからな。
だから同じ過ちを繰り返すつもりは無い。
美人の知り合いが困っていたら助ける、それが五月雨弘人だ。
例え知り合いじゃなくても、二次元っぽくて小さい子なら、この身を捨ててでも助ける、それが五月雨弘人だ。
「‥‥‥お願い」
あめはちぃとばかし不安そうな顔をしながらも、そう言った。
安心しろ、ちゃんと期待に答えてやるぜ。
自分で言うのも何だが、頭の回転と、屁理屈だけは誰にも負けない自信がある。
俺は口喧嘩をしている集団へ向かうと、鉄さんの横で立ち止まった。
そこで気付いたが、周りにいる数人のプレイヤーが、鉄さん達を面白そうに見学してやがる。
誰か止めに入れよ!
「あの、大丈夫ですか?」
かなり困った顔をしている自分よりも少しだけ身長の高い美少女を見上げながらそう言った。
「はい? 誰です‥‥‥あ! えっ、同じクラスの子‥‥‥だよね?」
どうやら気付いたらしい。
「おい、誰だてめぇ」
「関係ないやつが入ってくんなって」
うるせぇ小蠅共! 会話の邪魔だ。
「そうだよ」
「やっぱり。最近学校で有名だから、五月雨君だってすぐに分かったよ」
そう、俺は有名人だ。
それも一週間ほど前から突然だ。
あめと絡みだした頃くらいだな。
「そっか。で、大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃ無い‥‥‥かな」
どうやらお困りの様だ。
「無視かよ。うぜぇ」
「地味な顔しやがって」
うるせぇ、蚊共、話に入って来るんじゃねぇよ。
「じゃあ助けようか?」
「えっ?」
俺が無表情で余裕そうにそう呟くと、鉄さんは頭にはてなを千個くらい浮かべて、思わず声を上げた。
みなさん、俺が何か策を持ってこの場に来たと思っているよね?
否、行き当たりばったりだぜ。
どうなるか分からんから、助けられる自身も無い。
「おい! 痛い目あわすぞ、ごらぁ」
は?
「あのさ」
俺はそう呟きながら、声のした方を向いてみると、二十代くらいのチンピラっぽい男がこちらを睨んで来ていた。
そのチンピラ君は、突然俺に反応して貰えて若干ビックリしたのか、驚いた様な表情をしている。
だがすぐに、こちらを威圧しながら機嫌が悪そうに、答える。
「あ? なに?」
「お前、馬鹿だろ?」
生粋の馬鹿だな。
「は? なにが言いてんだ?」
「いや、痛みを感じないプログラムが組まれているこの世界で、どうやって痛めつけてくれるのかなと思いまして」
「そりゃー、現実でぶち殺すに決まってんだろ」
「あ、了解です」
うん、別に何の問題も無い。
俺の顔がやたら澄ましていたせいか、チンピラは不思議そうな表情をしながらも睨んでくる。
「何が了解なんだ?」
「勿論、現実でぶち殺すってところにです」
「言っとくが冗談じゃねぇからな」
見つけられる訳ねぇだろ。
「はい、分かってますよ」
「は? どうせ見つけられないとか思ってんだろ?」
「思ってないですよ。ただ怖いのでログアウト後、あなたに見つかる前に法律の第二百二十二条、脅迫罪の罪で警察に訴えておこうと考えているだけです」
「あ? 出来る訳ねぇだろが」
かなりイラついている様だ。
「可能ですよ。メニュー画面にあるカメラ機能を使う事によって、今俺から見えているものを撮る事が出来ます。これは皆さんも知っていますよね?」
そう言ってオレンジ色のメニュー画面を開くと、中間あたりに存在している(カメラ)と表示されているボタンを押し鉄さんを追い詰めていた三人の姿を撮る。
パシャッ!!
少し大きめの音が響いた。
シャッター音がかなり大きめに設定されている理由は、盗撮防止の為らしいぜ?
「おい!! てめぇ何撮ってんだよ」
「何撮ってんだよって‥‥‥あなた達ですが?」
そのくらい分からないかね?
「そんなの知っとるわ」
「まあ俺は、先程からずっとあなた方の会話を聞いていましたけど、この女の子を騙していたって事で間違いないですか?」
三人はそれぞれ誰かが喋ってくれるのを待っているかの様に目を合わせている。
いやいや、この状況になるの早すぎだろ。
もうちょっと自分の意見を言えよ。
俺が面白く無いんだよ。
「もしそうなら、渡すべき報酬を払わなかったと判断し、刑法二百四十六条の詐欺罪としても、この写真とともに警察の方へ説明させて頂きますのでご了承ください」
出来るかどうかも分からない事を早口で言ってみると、一人の女性プレイヤーが焦った様な顔をし、「タクヤ、もういいからお金を払いなよ」と小さく呟きながら、チンピラくんのズボンを引っ張った。
それに便乗するかの如く、もう一人の男性もタクヤ? の方を見る。
「お金くらいまた稼げば良いだろ。こいつなんかやばそうだ」
ほう、君は中々分かっているじゃないか。
それに対しタクヤは、チッっと舌打ちをしながら鎧の内ポケットにある数枚の札を取り出し、地面に放り投げた。
そしてそのままどこかへと歩いていく。
女性と男性は一瞬こちらを睨むと、どこかへ向かっているタクヤの後ろについて行く。
なんか大人のくせに口弱すぎない?
社会人として生活していたら、それなりに頭が良くなると思うんだけど。
いかつい容姿をしてニートなのかね?
まあ、君達に言える事はただ一つ。
どんな仕事でもプライドを捨ててポリシーを持ち、必死に頑張って行きなさい。
将来あれがしたいとか、物事の目的を想像し生活していれば、自分の思考にベースが出来、おのずと人に言い返せるくらいの知識はつくはずだ。
そんな事を考えながら、地面に落ちている数枚のお札を拾うと、呆然と立っていた鉄さんに渡す。
「はい、どうぞ」
「えっ!? あ、ありがと」
鉄さんは口を開けたまま俺からお札を受け取ると、お礼を言った。
まだあまり状況が理解出来ていない様だ。
とそこで、少し遠めの場所に居たあめがこちらに向かってくる。
クラスメイトがいるからか、若干恥ずかしそうだ。
まあ、自分からゲームしてますよ、って証明しに来ている訳だし。
少なくとも鉄さんにはあめがゲーム好きだという事がバレるな。
「‥‥‥ひろとくん。大丈夫だった?」
あめは俺の隣に来ると、近くに立っている鉄さんを気にしながらも、話しかけてきた。
「ああ、余裕だったぜ。ちょっと法律関係の事を言ってみたら、それだけで引き下がって行った」
「‥‥‥そっか」
「えーっと、あのー」
鉄さんが疑問しか浮かべていない様な表情で会話に割り込んで来た。
分からない事がたくさんあるのだろう。
俺は声のした方を向くと、首を傾げる。
「どうした?」
ビックリしすぎておならが漏れたのかね?
「聞きたい事だらけなんだけど‥‥‥まず最初に私の事を助けてくれたんだよね?」
「まあ、うん。クラスメイトを偶然見つけて、なんか困ってたから助けた方が良いと思ってさ」
「そうなんだ、実は‥‥‥さっきのやつらとは昨日この村で出会ったんだけど、壁役を探してたみたいで、冒険者ギルドに行った時に、「報酬はたくさんあげるから、少しだけクエストを手伝ってくれない?」って言われたの」
「ふむふむ」
「私は主に、他のプレイヤーの手伝いをしながら、お金を稼いだりしていたから、快く引き受けたの。でも、塔に入った瞬間あいつらの態度が豹変して、しまいには今日報酬を渡すって言ってたのに覚えて無いとか」
「会話は大体聞いてたからそんな感じだろうなとは思ってたけど、ひどいやつらだな」
「でしょー? で、そこで五月雨君が現れたってわけ」
「実を言うと、本当は昨日塔の中で助けに行く予定だったんだけど、タイミングを失ってさ、結局さっきになっちゃたんだよ」
「え? 塔に居たの?」
この様子からして、俺とあめの存在に気付いて無かったみたいだな。
「いたぜ? まあ一瞬でクリアしたけど」
「一瞬でクリアって‥‥‥あ! まさか、女の子をおんぶして物凄いスピードで駆け抜けて行ったのって、五月雨君だったの!?」
「と、あめだな」
そこで鉄さんが、納得した様に頷く。
「なるほど、最近学校で、二人付き合っている説が流れていたけど、そういう事だったんだ」
「‥‥‥えっ、いや」
「勿論その通りだぜ?」
「‥‥‥」
あめが弁解をしようとしたが、一瞬で遮ってやったぜ~。
「勿論って‥‥‥じゃあやっぱり付き合ってるの?」
「ああ、俺の家で一夜を共にした事もある」
俺は親指を立てて自慢げに呟いた。
「‥‥‥ひろとくん! 誤解を招くからやめて」
「誤解って、本当の事だろ? だって同じベッドで寝たんだから」
「おおおお、同じベッド!?」
「‥‥‥ち、違うの」
鉄さんが顔を消防車の様に赤く染め、聞いてくる。
あめが顔を口紅の様にピンク色に染め、誤魔化そうとしている。
二人ともどうしたのかね?
友達同士がお泊り会をしたところで、何もおかしく無いだろ。
特にあめ、本当の事なんだから認めなさい。
「ふ! ふ、ふ、二人ってそういう関係なの?」
鉄さんは俺が信用できないからか、あめの方を向いて言った。
「‥‥‥う、嘘では無いけど‥‥‥なにも無かった」
「何も無かったって、男子の家で男子と同じベッドで寝ている事が、おかしいと思うけど」
「‥‥‥ん」
あめは返答に困ったのか、下を向いてしまう。
よし、俺が助け船を出してやるか。
「そういえば、鉄さん?」
「え、な、何?」
「なんでこの【デスティア・オンライン】の中にいるんだ? 鉄さんってスポーツしかしていないイメージがあるんだけど」
そう質問してみると、鉄さんは下を向いてしまう。
なんでどっちも下を向くんだよ。
「そ、それは、たまたまよ! 別にゲーム好きって訳じゃ無いんだから」
「たまたまでこの高いフルダイブマシンを買うとは思えないけど」
「う、いや、これはお兄ちゃんのやつで、今日ちょっと貸して貰っているだけだから」
「そっか」
「ええ、そうよ」
「てかさ、ずっと思ってたんだけど、鉄さんってファイナ〇ファンタジーのあのキャラに似てる、何だっけな‥‥‥ティ、ティ、あめ分からない?」
「‥‥‥ティナ?」
「いやー、そっちじゃない方」
「‥‥‥私、6の小説しか読んだ事無いから分からない」
フ〇イナルファンタジーの小説ってあるんだ。
知らなかったわ。
「なんだっけな~、あの黒髪の」
「ティファよ!! じれったいわね」
悩んでいると、隣から大きめの声が聞こえて来た。
「ぷっ」
俺は思わず吹いてしまう。
「な、なによ?」
「いや、ゲームにお詳しいんだなと思って」
あめもようやく俺の意図に気付いたのか、下を向いて静かに笑い出す。
「ちょっと! 嵌めたわね!!」
「別にゲーム好きでも良いと思うぞ。恥ずかしい事ではない」
「私は嫌なの! だって知られたら友達がいなくなりそうだし」
まあ、その気持ちは分からんでもないな。
「別にそれでいなくなるんならほっとけば良いだろ」
最近の高校生あるあるだな。
リアルに充実した生活を送る為、本当の自分を隠し、連れに合わせる。
俺はそんな上辺だけの関係に意味など感じないがな。
自分のしたい事が出来ない日常なんてクソくらえだ。
いやー、にしてもまさか鉄さんというゲーム好きが同じクラスに潜んでいたとはな。
全く気が付かなかったぜ。
正直に言うと、見てすらいなかったぜ。
二年生になってクラス替えをした時に、高身長の美人さんがいるなぁ~って思ったくらいかな。
「もう一度だけ言うわ。私はリアルでの生活に満足している女子高生よ!」
そのセリフ、この状況で良く言えたな。
「もうなんか、ここまで行ったら、逆に清々しいな」
「‥‥‥ん」
「うるさい。というか、雪奈さんもゲーム好きなの?」
鉄さんは話を逸らす様にあめの方を向いて呟いた。
ぷふっ。
おい、聞いたか?
雪奈さんもだってよ。
普通に自分もゲーム好きって事を認めているじゃねぇか。
このレベルに達すると、なんか可愛いわ。
まあ俺は常識の備わった、完璧人間だから、敢えて口には出さないが。
「‥‥‥わ、私はこのゲームが最初だよ?」
「えっ、そうなの?」
「‥‥‥ん。人と関わり合えるようにって、お父さんに貰ったから。‥‥‥で、最初の小さいサーバーでひろとくんに出会ったの」
あめって鉄さんとなら結構話せているな。
周りに他のクラスメイトがいないからか?
「そうだったんだ。でも、ゲームって楽しいでしょ?」
「‥‥‥ん。楽しい」
その後俺達は、近くにあったベンチに座り、適当に会話をしていった。
何故俺が真ん中なのか教えてくれんかね?
何故右に、高身長巨乳美女がいるのかね?
何故左に、片目が隠れていて、サンカヨウという花の様に透き通った目を持っていて、低身長で、マスコットキャラクターみたいに可愛くて、完全に俺好みな女の子がいるのかね?
正直言って端っこが良いです。
何か身動きが取れない。
で、色々と話し合っていた結果、色々と鉄さんの事について知る事が出来た。
まず、ゲーム好きでは無いけど、ゲームの時間を減らしたくはないから、部活には入らない。
友達に誘われたら、本当はすぐ家に帰ってゲームがしたいけど、一緒に遊ぶ。だがゲーム好きでは無いらしい。
体育系に見せる為、毎日運動は欠かさないが、本当は部屋に籠ってゲームをしていたい。けどゲーム好きでは無いらしい。
どんなゲームでも、タンク系が好きらしく、ある程度の攻撃力以外は、ほぼ全てHPと防御力、魔法防御力に振っているらしい。この際、たくさんのゲームをしている疑惑が沸いてくるのだが、本人曰く、ゲーム好きでは無いと言う。
「よし、そろそろきりも良いし、話を終わるか」
「‥‥‥ん」
「良いわよ」
という事で、俺は一人で明後日の方向に歩いていく。
だが、一定以上の距離を歩いた所で、あめに服を掴まれて、進めなくなった。
俺は後ろを振り向くと聞いてみる。
「あめ、どうしたんだ?」
「‥‥‥ここは、すぐに立ち去る場面じゃないと思う」
「ん? と言うと?」
「‥‥‥鉄さんが仲間になりたそうにしてるよ?」
読んでくださりありがとうございます。




