第二十二話【塔の財宝】
目の前に、木の化け物が待ち構えていた。
目と口を大きく開けていて、今にも噛み付かれそうだ。
「おわっ!!」
ダンッッ!!
頭で状況を理解したのと同時に、横へとステップし噛みつきを回避した。
「‥‥‥」
タッタッタッ
「うわ、あぶなかったぁ!」
もう少しで当たりそうだったわ。
一瞬死んだと思った。
てか、あの木野郎の涎がちょっと腕に掛かったんだけど。
「‥‥‥また何か妄想してた?」
何か聞こえてくる。
「まさかそんな訳ないじゃろぉ~」
俺は若干誤魔化す様にして答えた。
「‥‥‥本心を言おっか」
めちゃくちゃ威圧されてる様な気がする。
なんか怖い。
そんな状況に、思わずはっきりとした声で返答してしまう。
「はい! 少しばかり自分の世界に入っておりました」
おしまいとか言って、勝手に物語を終えようとしてました。
「‥‥‥素直でよろしい」
お、許してくれるんだな。
‥‥‥って、あれっ?
今気付いたんだけど‥‥‥あめって一週間前、こんなキャラだったかしら?
何か違うんだけど。
尻に引かれている感があるんだけど。
‥‥‥まあ、気のせいだよね?
うん。
俺はあめの変わり様にちょっとばかし動揺しながらも、気を引き締め、周りに集中した。
どうやら先程の木野郎は、もう諦めているらしい。
そりゃー、俺の敏捷はある程度鍛えているからな。
そこら辺の雑魚的には追いつかれない自信がある。
うん実際、とげとげの芋虫くんも全く付いてこれてない。
頑張って地面を這っているが、遅すぎだろ。
俺は特に空中移動を使う訳でも無く、ただ走っていく。
やがて塔の目の前に到着すると、あまりの大きさに思わず口を開けて上を見上げてしまった。
見た目は、全体的に黄色で、所々に苔が生えている。
高さは宇宙にも届きそうなほど大きくて、約三十メートルほどだろう。
‥‥‥いや、全然宇宙に届いてねぇよ!
‥‥‥全く、俺の思考回路だけは、大げさな事を言った直後に矛盾を生みやがる。
もはや天才の領域だぜ。
「よし、村長の話によると魔物もいるみたいだし、気を引き絞って行こう!」
「‥‥‥ん」
そう会話をし、体重が三キロのあめをおんぶしたまま、塔の扉を開ける。
まあ予想通りで、扉はかなり重たい。
押せば開いていくのだが、老化が進んでいるせいか、ちょっとずつしか開きやがらねぇ。
まるで集団面接を受けに来た人達みたいな進み具合だ。
ああ言うのは大体、一人ずつ「失礼します」と言ってお辞儀をして、少し進んで止まり、会釈した後でまた進む。
それを目の前の全員が繰り返しやがる。
いや、早く進めよ! って思うわ。
少しして、およそ人間一人分の隙間が開くと、そこから中へと入って行く。
するとそこには、今にも崩れ落ちてしまいそうなほど古い造りになっていて、大部屋の様に広い空間がある。
上へ行くには、どうやら反対側にある階段を上らないと行けないらしく、それを遮る様にたくさんの魔物がうろついている。
そして、同じクエストを受けているのか、数人のプレイヤーが魔物と戦っている。
そう、ここには隠れられる様な場所が無いらしく、全て丸見えだ。
女性プレイヤーの鎧の中も丸見え‥‥‥失礼しました。
「‥‥‥敵、多いね」
「ああ、だけど俺達にそんなのは関係ないぜ?」
「‥‥‥空中移動を使って無視するの?」
ほぉう、あめさんや。
俺の事をよく理解しているじゃないか。
今現在、空中移動(Ⅲ)を無条件で使用できるので、三回空中で飛べる。
つまり、魔物を数匹飛び越える程度、造作もない事なのだ。
「その通り。じゃあしっかりと捕まっててな」
「‥‥‥ん」
俺は、他のプレイヤーからしたら考えられないくらいの速度で走り出し、向かってくる魔物を四段ジャンプで躱し、次の階層へと進んで行った。
うん、NPCの村人達が無理だと判断し、引き返して行ったと言う、第一階層‥‥‥終わりました。
何か空中を飛んでいる時に他のプレイヤーの顔が見えたんだけど、「あいつ、狡猾すぎだろ!」みたいな表情をしてやがった。
どこがだよ!
十分正攻法だろ?
なあ、そうだろ?
ずるい要素なんて全く無いよな?
俺は勢いに任せ階段を上って行く。
「‥‥‥なんか、ずるい」
おーーん!?
あめが何か言いだしたぞ!
「そうか?」
「‥‥‥ん。他のパーティーがかわいそう」
可哀想だと?
何を言っているのだね?
「いや、それは違うな。世の中狡猾な者が得をする様になっているんだよ。よし、現代社会での現状を考えてみよっか。‥‥‥例えば仕事だ。
1.社長がいない内にのんびりして、来る時間になると仕事を始める。
2.誰も見ていない時こそと思い、社長がいない内に一生懸命仕事を終わらせ、来る時間になる前に終わらせる。
普通に考えて二番の方が真面目で良いと思うが、現実は違う。お前何手を止めとんねん! ってなるんだよ。特に飲食店だ。どれだけ上司の見ていない所で、壁拭きや、床掃除をやっても誰も気に留めない。
それに比べて一番は、一見不真面目に見えるのだが、上司や社長の目線からしたら違うんだよ。あいつ、いつも一生懸命頑張っているな。休憩も取らず真面目だな。そう思われるものだ。
つまり、どれだけ仕事仲間のいない内に手を休め、仕事のレパートリーを残しておき、社長等、偉い人のいる時にそれを一生懸命消化出来るかなんだよ。
これが俺のバイト生活で培ってきた技術だ!
と、こんな感じかな、どうかね?」
「‥‥‥‥‥‥ひろとくんって、実は頭良いの?」
おいおい、実は、ってなんやねん!
「まあな」
「‥‥‥ひろとくん」
「ん? なんだ?」
まさか俺に惚れたのか?
「‥‥‥突然なんだけどさっき、クラスメイトの子がいた様な気がする」
「えっ!?」
今クラスメイトって言った?
「‥‥‥同じクラスの子が、魔物と戦ってた」
「同じクラスの子?」
「‥‥‥ん、確証は持てないけど‥‥‥鉄雨花さんに似てた」
「マジで?」
鉄雨花さんって言ったら、あの運動神経抜群で高身長の人だよな。
「‥‥‥まじ。ほとんど同じだったから、同一人物だと思う」
「でも、あの子ってゲームやるイメージ無いんだけど」
確か部活はやって無かったみたいだけど、体育の時間とかあれだけ目立っているんだ、絶対習い事をしているはずだ。
良い体形してるしな。
身長だけじゃなくて、胸もかなりあるしな。
お尻もかなりあるしな。
魅力があるしな。
足長いしな。
美人だしな。
「‥‥‥うん、無いね」
「まあ、頂上で財宝を手に入れたら、帰り道に確認してみよっか! よーし頑張るぞ!」
「‥‥‥ん‥‥‥けど」
「けど?」
どうしたんだろう。
「‥‥‥もう頂上着いてるよ?」
あめにそう言われ目の前を確認してみると、宝箱があった。
うん、下の階層よりもかなり狭い部屋で、中心には赤色の宝箱があるのだ。
他のプレイヤーが全くいないという事は、ここも村長の家と同じでA、B、Cとパーティーによって分けられているんだろう。
「いつ‥‥‥着いたんだ?」
覚えが無いんだけど。
「‥‥‥ひろとくんが一人で仕事の極意みたいな感じの事を語っていた時には、もうここの下の階を走ってたよ?」
「全然記憶が無い‥‥‥てか魔物とかちゃんと躱してた?」
「‥‥‥うん。器用に全部避けてた」
「おぉー、俺ってすげー」
「‥‥‥」
「おし、宝箱を開けよっか!」
「‥‥‥私がやろっか?」
まあ、罠っていう可能性もあるし、HPがたくさんあるあめが言った方が良いだろうな。
「じゃあ、お願いしやす」
あめは「‥‥‥ん」と呟き、俺の背中から降りると、中央の宝箱に向かって歩き出した。
俺も少々距離を空けてついて行く。
もし魔物とかが出てきたら、いつでも助けられる様に。
やがて宝箱の目の前に到着すると、あめはしゃがんでゆっくりと蓋を開けていく。
「‥‥‥‥‥‥あ」
「どうした?」
「‥‥‥ネックレスみたい」
その言葉を聞いた俺は中央へと向かって行く。
「あ、ほんとだ、綺麗」
宝箱の中には、青色の宝石が付いてあるネックレスが転がっている。
「‥‥‥凄い」
あめは物凄く欲しそうな目で見ている。
‥‥‥前髪で見えないけど。
「よし、これを持って帰ればクエストはクリアだな」
「‥‥‥ん」
「で、報酬がこれのはずだから、その時にあげるよ」
「‥‥‥良いの?」
上目遣いで聞いてきた。
あら、かわいい。
「ああ、良いよ!」
「‥‥‥じゃあ楽しみにしてる」
俺達はそう会話をし、おんぶ体制を取ると、元来た階段を下りて行く。
一つ下の階。
「そういえばクラスメイトがいるかもしれないんだよな?」
「‥‥‥うん」
「でもこの階には、主に男しかいないな」
「‥‥‥だね、もう一つ下にいこ」
「おう」
俺は自身のスピードと、空中ジャンプを上手く使い、魔物達を格好良く無視して行く。
数人のプレイヤーが魔物と戦いながら、驚きの顔でこちらを見て来ているが、魔物を無視することくらい珍しい事でも無いだろうに。
もう一つ下の階。
「女性プレイヤーは数人いるけど‥‥‥違うな」
「‥‥‥うん」
もう一つ下の階。
「見覚えのある人はいないな」
「‥‥‥ん」
もう一つ下の階。
てか俺達って結構、上って来てたんだな。
早く着きすぎて、三階立て程度かと思ってたのに。
「う~ん。この階にも知っている人はいないな」
「‥‥‥あそこにいる金属の鎧を着た、高身長の女子は?」
あめがとある方向を指さして言った。
確認してみると、数人の男女パーティーが魔物と戦っている。
高身長で金属の鎧の女子って事は、先頭の壁役をやっている人だろう。
しかし。
「‥‥‥‥‥‥誰だ?」
見覚えが無いんだが。
「‥‥‥鉄さんだと思う」
「いや、あんな人はクラスにいないと思うぞ」
「‥‥‥絶対いると思う」
「いや、知らない。初見だ」
「‥‥‥ひろとくんって‥‥‥私と出会った時もそんな感じだったよね?
「あ、うん」
最初はあめがクラスの女子だって分からなかったな~。
いや~、あの頃が懐かしいねぇ~。
「‥‥‥もしかして‥‥‥クラスの女子‥‥‥全員知らない?」
「いや、名前は分かるぜ?」
「‥‥‥顔は?」
「一応苗字も全部言えると思う」
「‥‥‥顔は?」
「誰が貧乳かって言うのも把握してるよ?」
「‥‥‥‥‥‥顔は?」
「顔‥‥‥あめのは分かるよ?」
「‥‥‥みんなの顔は?」
「はい、分かりません!」
「‥‥‥」
あめは少し不機嫌そうだ。
「すまんな。俺って基本、人に興味が無いから好みの子しか覚えられないんだよ」
「‥‥‥えっ?」
えっ、って。俺が三次元の女の子にさほど興味が無いのは今更だろ。
「まあとにかく‥‥‥もう少し近くで見たら分かるかもしれん」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥そ、そっか」
なんか間が長かったな。
「で、あの子がクラスメイトなのは間違いないんだよな?」
「‥‥‥う、うん」
「実はカロリーメイトって事ないよな?」
「‥‥‥どう見ても食べ物には見えないと思う」
「実はアニメイトって事もない?」
「‥‥‥建物に見える?」
前髪の向こうから妙な威圧を感じた。
失礼致しました!
少しばかり調子に乗りすぎました。
「見えないで御座います! よし、近づいてみよう」
「‥‥‥ん」
俺は魔物の攻撃に気をつけながらも、マシン型のやつと戦闘中のパーティーに近づいていく。
見た感じ四人グループで、男二人、女二人だ。
どうやら鉄さんが壁役をして攻撃を食い止めている間に、他三人が直接攻撃だったり魔法を使ったりして相手のHPバーを削っている。
みんなは一生懸命戦っているからか、俺達の存在には気付いていない様だ。
てか、なんか効率悪い戦い方だな。
敵の攻撃とかわざと食らいに行ってるじゃん。
あれくらい普通にジャンプしたら躱せるだろ。
俺なんて、適当に歩く感覚でも避けられると思うぞ。
「‥‥‥やっぱり本物の鉄さんだ」
「お、おう、そうだな」
「‥‥‥分かっているの?」
「勿論。ちゃんと分かるぞ!」
なんか怖い。
尻に引かれてるな~。
俺達が適当に魔物の攻撃を避けながら動いていると、パーティーの男性が大きな声を上げている様子だ。
「おい!! ウカ、もう少し食い止めていろよ!!」
どうやら前衛で剣を振っているやつが言ったらしい。
「分かってる! でもこいつの攻撃重たい」
「それを何とかするのがお前の役目だろうが!」
「‥‥‥」
そんな荒っぽい男の言葉に気を悪くしたのか、鉄さん? は無言で盾を構えると、ひたすら敵の攻撃を受ける事に集中し始める。
「‥‥‥鉄さん‥‥‥なんか嫌そう」
あめが少し不安そうな声で呟く。
「確かに‥‥‥あんなの絶対楽しく無いだろ」
俺だったら、絶対張り回すわ。
あ、そんな力無かったわ。
「‥‥‥助ける?」
「いや、俺達が割り込んで行った所で何も出来ない可能性があるから、止めとこう」
「‥‥‥うん」
実際俺達って強いのかな?
他のプレイヤーと関わった事が無いから、目標レベルとかそういった基準があんまり分からんぜよ。
でも、与えているダメージからして、あめの方が火力は上だろう。
そして俺が居れば、油断さえしなければダメージを受ける事は無いので、俺様の方が強いだろう。
‥‥‥ってなるとさ、あいつら、やっぱり効率悪いよな?
「とりあえず目立たない様に背後から見守っておこうか」
「‥‥‥ん」
俺は魔物が来ないであろう下りる方の階段に行くと、黙って見守り始める。
それはもう温かい目で。
かなりの時間が経った。
うん、一回の戦闘にしてはかなり長かった。
こんな調子で塔の頂上に着けるのか?
どうやら協力して魔物を倒し、わーい! と喜ぶシーンなのだろうが、変な空気が流れているぞ。
ここから見た限りだと、鉄さんが、他の三人に責められている様に見えるんだけど。
特にあの二十代くらいの男。
暴言だけじゃなく、少し手を出してやがる。
見ていて、きゃくそが悪ぃのぉ~!
「‥‥‥なんか少しイライラする」
背中にいるあめさんもご立腹の様子である。
あのあめですら気を悪くするという事は、そうとうだ。
「だな、知り合いがあんな感じで罵られてたら、気が悪い」
「‥‥‥助けに行く?」
「誰が?」
「‥‥‥」
俺の問いかけにあめは無言だ。
「あー、分かった!」
「‥‥‥本当?」
「ああ、でも大丈夫か?」
あめって同じクラスの人ですらまともに話せないのに、あんな怒っているやつを止められるのか?
「‥‥‥どういう事?」
「ん? あめが行くんだろ?」
「‥‥‥今の話の流れからして、ひろとくんが行く場面だと思う」
「えぇ、いやー、厳しいだろ」
「‥‥‥私も無理。だからひろとくんに行って欲しい」
「俺も無理だよ!」
「‥‥‥それでも男?」
「俺はこういう人間だ! これ以上のものも無いし、これ以下も無い。あめがどんなに行けと言おうと、俺は行くつもり無い。それは最初からずっとそう言ってる。開き直ってなんか無い! うん、開き直ってなんか無い」
「‥‥‥じゃあ、見捨てるの?」
「なあ、一つ提案があるんだが」
「‥‥‥なに?」
「一緒に行かない?」
「‥‥‥あ、‥‥‥さっきの所を見て?」
そう言われ、さっきの四人組が言い争っていた場所を見てみると‥‥‥もういねぇ。
「俺達が悩んでいた間に進んで行ったみたいだな」
「‥‥‥ん」
何故だろう、少し安心している自分がいる。
絶対助けないといけない様な気がしてたのに。
「進んだって事は、解決したのかな?」
俺、今自分を正当化させようとしてないか?
「‥‥‥分からない」
「じゃあ帰ろっか」
「‥‥‥うん」
結局俺達は、鉄さんの事を確認しないまま、静かな村へと帰還した。
最低だとは分かっている。
あめもそれは感じているんだろう。
帰り道はずっと無言だった。
てか罪悪感が半端じゃない。
今更助けに行っておけば良いと思っている自分がいる。
だが、それと同時に、助けに行ったとしても俺達じゃ無意味だと思っている自分もいる。
やがて村に到着すると、村長の家に行き、ネックレスを見せた。
すると村長は少し嬉しそうな顔で「死ぬ前に見る事が出来ただけで大満足じゃ。で、昔からの言い伝えだと、そのネックレスには魔力を増やす事の出来る効果があるみたいなんじゃ、だから魔術の道を歩んでいる大切な人に使ってもらうのが良かろう。
冒険者の方々や、もう一度お礼を言わせてくれ、その財宝とやらを見せてくれてありがとう。
これで心置き無く逝くことが出来るわい」と言っていた。
話し終わる頃には、村長の目には少しばかり涙が溜まっていた。
このゲーム、やたらそういうところに力入れてるよな〜。
その後ギルドに報告しておき、正式にネックレスを頂く事が出来た。
その際、酒を飲んでバカ騒ぎをしているプレイヤー共は、俺達がこのクエストをクリアした事にかなり驚いていているらしく、ごちゃごちゃと会話をしていたが、俺とあめはそれが気にならないくらい、塔にいたクラスメイトの事を考えていた。
中々、罪悪感が消えない。
そのたびに、俺の出る幕じゃ無いとか。俺が行ってもどうせあの三人は笑うだけだ。等、楽な方向にばかり思考を傾けてしまう。
まあ実際そうなんだろうけど。
てか、俺と鉄さんって、全く関わりが無いしな。
近づいて行っても、気持ち悪いと思われるだけだ。
「あめ」
俺は冒険ギルドから出て、近くの道を歩きながら話し掛けた。
「‥‥‥どうしたの?」
「このネックレスを着けてあげるから、後ろを向いてくれる?」
とにかく後悔ばかりしていても仕方無い。
切り替えよう。
俺の言葉に、あめは顔を紅葉の様に赤くしながらも、素直に後ろを向く。
その時、あまりはっきりとは見えなかったが、口元が微笑んでいて、嬉しそうに見えた。
気のせいかもしれんが。
俺はあめの髪を持ち上げながらも、首にネックレスを通していく。
そして金具を付け‥‥‥。
首の後ろで金具を‥‥‥。
金具‥‥‥。
付けれねぇ!
おい、これってどうやってするんだ?
いや、大体分かるんだが、慣れてないせいで指がいう事を聞いてくれねぇ。
金具が小さいんだよ。
「‥‥‥ひろとくん。どうしたの?」
自分からやりだして、今更出来ないとは言えない。
「いや、何でもない。もうすぐだから」
よし、気を取り直して、金具を‥‥‥。
金具‥‥‥。
金‥‥‥。
無理だぁぁぁ!!
「‥‥‥自分で付けよっか?」
「はい、お願いします」
認めます。
はい、無理でした。
てか恥ずかし。
約二秒後‥‥‥。
あめは無事にネックレスを付け終えたのか、こちらを振り向く。
「‥‥‥ど、どう?」
「お、おぉ。可愛いぞ」
元々の良い容姿に、魔法使いっぽい服、そしてカンパニュラ・ポシャルスキアナという花の色素に青を足したみたいな色のネックレスがローブの胸元から覗いている。
「‥‥‥本当?」
「ああ。‥‥‥でもしいて言うなら、前髪をヘアピンで留めればもっと可愛くなると思う」
「‥‥‥ふぇ?」
「これは俺個人の意見なんだが、あめって大きくて綺麗な目をしてるから、片方だけ出すっていうスタイルが良いと思うぜ?」
お泊り会で見たあめの目は、一生外忘れないだろう。
それほどまでに綺麗だった。
まあ、片目って言うのは完全に俺の好みなんだけどな。
アニメとかで、目が片方だけ隠れているヒロインって、物凄く可愛いんだよ!
何というかさ、その子と良い関係になっている主人公を殺害したくなるレベル。
「‥‥‥でも、‥‥‥前髪がないと‥‥‥恥ずかしい」
あめは下を向きながら呟いた。
あー、やっぱりかー。
「そっか」
その後俺達は休む為に、冒険者ギルドの近くにある宿屋へと向かった。
おし、ここでひろってぃー講座第二を開きます。
え、今回はどんな事をするのかって?
良い質問だ。
今回の疑問は、宿屋のシステムについてだ。
みなさん、宿屋とは回復の為に、手軽に使用出来るものだと思っていませんか?
‥‥‥否、この【デスティア・オンライン】で宿屋を使用し回復するには、一晩泊まらないといけない。
あー、でも正確には寝ていると判断された時間によって、回復する量が違うみたい。
HPやMPの少ないプレイヤーだったら少しの仮眠で済むし、逆にHPがたくさんあるタンク型のプレイヤーはそれなりに寝ないと全回復は出来ない。
となると、少々お高いが、ポーションの方が楽だ。
で、これは俺の一週間の経験から分かった事なんだけど、この仮想空間の中では睡魔というものがある。
この睡魔は、現実世界の自分自身の疲労感を元に出て来るみたいで、ゲームを始める前に向こうでしっかりと睡眠を取っていれば、【デスティア・オンライン】内でもその分起きていられる。
つまりこっちで寝れば、現実世界でも寝た事になるのだ。
だから、忙しい人が睡眠不足を解消する為に、こっちで精神を休めれば良いと考える人もいると思うが、それは不可能である。
というのも、仮にこっちで十時間寝た場合、時間の進み具合は0.1倍なので、現実世界の体では一時間分しか寝ていない事になる。
あと、現実世界で寝不足のまま、こっちの世界には来ない方が良いだろう。
実際、あまりの睡魔に寝落ちしてしまい、気が付いたら、ポケットの中の持ち物、装備品をすべて他のプレイヤーに奪われていたという事件も起きている。
街中ならそれで済むが、魔物のいる所でログアウトもしないまま寝てしまったら、うん、死が待っているだろうな。
流石にそんな間抜けはいないと思うが。
という事で俺とあめは、少量の睡眠時間と回復を兼ねて、この村の宿屋で寝るのだ。
やがて、かなり古い造りになっている宿屋に到着すると、店主のおっちゃんにゴールドを払って部屋の鍵を貰い、それぞれ別の部屋へと向かう。
そう、別の部屋に。
なんかさ、この前‥‥‥現実世界の俺んちでお泊りをして以来、あめが同じ部屋で寝るのは嫌って言い出したんだよ。
決して俺の事が嫌な訳じゃないとは言ってたけど‥‥‥。
俺の寝相でも悪かったのかな?
それとも無意識に触ってた?
何にせよ、理由を言って欲しいよな~。
いくら聞いても、下を向いて答えないし。
俺はそんな事を考えながらもきちんと部屋の鍵を閉めると、布の服を脱いでパンツ一丁になり、ベッドへと寝転がった。
‥‥‥なんかこのベッド硬いな。
鉄板でも入ってるんじゃねぇのか?
てか、正直全然眠たくない。
だが外は少し日が落ちていて、だんだんと暗くなって来ている。
この村は始まりの街に比べて、明らかに建物が少ないので、光があまりないのだ。
その為、外に出ると真っ暗に等しいので、灯りも持たずに村から出て探索を続けるのは危険だ。
だから【デスティア・オンライン】の夜は素直に寝て過ごすか、ログアウトして現実世界で十倍の進み具合を利用し、朝になるのを待つ方が利口だ。
あめは回復したいから、宿屋で寝るらしいので、俺も同じ様にする。
「あー、マジで眠く無いな」
最近現実世界で規則正しく寝ているせいで、全然眠く無い。
多分起きておこうと思えば、向こうで言う徹夜‥‥‥つまりこっちで二百四十時間くらい行けるぞ。
ベッドの上で天井を眺めながら考え事をする事、約三分‥‥‥。
とある宿屋の一室のベッドに一人の男が、気持ちよさそうに寝ている。
涎を垂らして、幸せそうな顔をしている。
間抜けな顔をしている。
さっき二百四十時間起きれるとか言ってたのは誰だったのだろう?
次の日‥‥‥。
気持ち良く目を覚ますと、もう窓越しに朝日が差し込んで来ていた。
「ふぁ~、良く寝たぜ」
いい目覚めだ。
あめが隣に居ればもっと最高だったんだけどな。
知らないうちにぐっすりと寝ていたらしい。
俺はとりあえず脱いでいた装備品を着用すると、部屋の外に出た。
そして部屋の鍵を返す為にロビーへ向かう。
あめってもう起きているのかな?
だとしたら、あんまり待たせる訳にはいかないな。
レディーを待たせる男って最低だろ?
やがてNPCのおっちゃんのいるロビーに到着すると、鍵を返却した後で、木の椅子やソファーを確認していく。
すると、前髪で目の隠れている可愛い女の子が‥‥‥いない。
あれ、まだ寝ているのかな?
絶対俺の方が、遅いと思ったんだけど。
長い椅子には、知らない女性プレイヤーが三人と、ソファーにも女性プレイヤーが一人いる。
椅子の方の三人は見た事すら無いな。
‥‥‥で、ソファーの方なんだけど、めちゃくちゃ可愛いじゃん。
うひょー!
特に目元が、俺の好みだわ。
片目を隠しているのがまたセンス良いじゃん。
いやー、まるでアザレアの花を見ている様だわ。
‥‥‥って、こういう事を考えるのは止めとこう。
あめが見てたら良い思いしなさそうだ。
いつも街中で、身長の低い女の子のNPCとかに見惚れてたら、冷たくて不機嫌そうな顔をして睨んで来やがるからな。
あれほど冷たいのは、ゴリゴリ君アイスくらいだろう。
そんな事を考えながらも、ソファーの女の子に見惚れていると、目が合った。
うん、そのソファーの可愛い子がこっちを向いて、顔を赤くしている。
何だね?
わしに一目ぼれしたのかね?
俺はやばいと思い、とりあえず目線を逸らした。
あー、あそこに貼ってある絵画、綺麗だな。
おー、青色がベースなのか。
これを描いたプログラマー、かなりセンス良いな。
スタッスタッ
なんか足音が聞こえてくる。
まあ、気のせいだろ。
「‥‥‥あの」
顎に手を当て、絵画を舐め回す様に観察していると、近くから女の子の声が聞こえてきた。
うわ、話しかけられたぞ。
読んでくださりありがとうございます。




