第九話:噂の広まる速さ
「――で、団長。例の占い師様との仲は、順調なんですか?」
自警団の詰め所で、若い部下の一人が、にやにやしながらヴァンスに詰め寄っていた。
「……お前、どこでその話を」
「どこも何も、町中の噂ですよ。団長が占い小屋に足繁く通ってるって話、知らない人の方が少ないんじゃないですかね」
ヴァンスは、深いため息をついた。この町の情報の伝達速度は、時として恐ろしいものがある。
「先日は、食堂で二人でいるところを見た、なんて話も聞きましたよ。もうデートまでしてるんですね」
「……否定はしない」
「うわ、素直!」
からかい半分の同僚たちに囲まれながら、ヴァンスは苦笑いを浮かべるしかなかった。
一方その頃、占い小屋でも、似たような騒動が起きていた。
「ちょっとリリー! 聞いたわよ、団長さんとデートしたって!」
常連客のおばさんが、興奮気味に詰め寄ってくる。
「だ、誰から聞いたんですか、それ」
「食堂の主人よ! あんたたちが来た日、えらく機嫌が良かったって、皆に話して回ってたわよ」
「あの店主……!」
まさかの情報源に、リリーは頭を抱えた。せっかく静かに関係を育んでいたつもりが、いつの間にか、町中の公然の秘密になっていたらしい。
「これからは、もっと大きな祭りとかにも、堂々と一緒に行けるんじゃない?」
「ま、祭りって、来月の収穫祭のことですか」
「そうそう。あれ、恋人同士で行くのが定番なのよね」
その情報に、リリーは思わず頬を赤らめた。
夕方、店じまいをしていると、いつものようにヴァンスが顔を出した。
「なんというか……町中に知れ渡っているみたいだな、俺たちのこと」
「こっちもです。今日、常連さんに根掘り葉掘り聞かれました」
二人は、顔を見合わせて、思わず苦笑した。
「隠すつもりも、そもそもなかったが、これほど早いとは思わなかったな」
「私もです」
「それで、だ」
ヴァンスは、少し照れくさそうに切り出した。
「来月の収穫祭、一緒に行かないか。噂になっているなら、いっそのこと、堂々と行った方がいい気もしてな」
「……はい、喜んで」
素直に頷くリリーに、ヴァンスは安堵したように微笑んだ。
「ところで」
リリーは、ふと気になっていたことを尋ねた。
「詰め所の方でも、からかわれたりしましたか」
「……散々な」
「ふふ、私と同じですね」
「お前も?」
「常連さんに、根掘り葉掘りです」
顔を見合わせて笑う二人の間に、これまでとは違う、穏やかな空気が流れていた。誤魔化す必要も、隠す必要もない、ただの恋人同士としての時間。
「収穫祭、楽しみにしています」
「ああ、俺もだ」
窓の外、夕暮れの町の喧騒が、いつもより少しだけ、賑やかに聞こえた。当たりすぎる占いから始まった恋は、いつの間にか、町中を巻き込む、賑やかな噂話へと育っていたらしい。
それも、案外悪くない"当たり"なのかもしれないと、リリーは密かに思っていた。




