第八話:ライバル、現る
デートから数日後、占い小屋に、見慣れない若い女性客が訪れた。自警団の事務を手伝っているという、控えめな雰囲気の娘だった。
「あの……占っていただきたいことがあって」
「はい、どのようなご相談でしょう」
「実は、ずっと気になっている方がいて。その方との、恋の行方を知りたいんです」
嫌な予感がしつつも、リリーは職業意識で丁寧に応対した。
「お相手のお名前を伺っても?」
「……自警団の、ヴァンス団長です」
案の定というべきか、リリーの手が、僅かに固まった。
(な、なんという巡り合わせ……!)
内心の動揺を押し隠しながら、リリーは平静を装った。
「そ、そうなんですね。では、視てみますね」
水晶玉に触れる。だが、この状況で"視る"必要が、果たしてあるのだろうか。答えはとうに分かっている。ヴァンスの想い人は、他でもない自分自身なのだから。
(でも、正直に言うわけには……)
かといって、当たり障りのない嘘をつくのも、これまでの経験上、あまりうまくいった試しがない。
「あの、視えたことを、正直にお伝えしてもよろしいですか」
「は、はい、もちろんです」
リリーは、慎重に言葉を選びながら、口を開いた。
「団長さんは、既に、想いを寄せている方がいらっしゃるようです」
その言葉に、女性客の表情が、目に見えて曇った。
「……そう、ですか」
「申し訳ありません。当たってほしくない占いだったかもしれませんが」
「いえ……。むしろ、はっきり言っていただけて、ありがたいです。ずっと、もやもやしていたので」
女性客は、それでも気丈に微笑んでみせた。
「その、お相手というのは、どんな方なんでしょうか」
思いがけない問いに、リリーは内心で盛大に慌てた。
「え、えっと、それは……」
「あ、すみません、答えにくいですよね。占いの範疇を超えているかもしれません」
「い、いえ、その……」
正直に名乗り出るべきか、リリーは激しく葛藤した。だが、目の前の彼女の、真摯な様子を見ていると、誤魔化すのも、なんだか不誠実な気がしてくる。
「……実は、私なんです」
意を決して打ち明けると、女性客は、大きく目を見開いた。
「え……占い師様が?」
「はい。少し前に、団長さんから、その、告白のようなものを受けまして」
「そう、だったんですね……」
女性客は、しばらく黙り込んでいたが、やがて、思いのほかさっぱりとした顔で頷いた。
「占い師様になら、納得です。団長、いつも占い小屋の話をする時、楽しそうにしていましたから」
「そ、そうなんですか」
「はい。今思えば、あれは……そういうことだったんですね」
彼女は、深く息を吐き出すと、席を立った。
「正直に教えていただき、ありがとうございました。占い師様のことも、応援しています」
「あ、あの、すみません、その」
気まずさを感じながらも、リリーは慌てて言葉を続けた。
「もし、よろしければ……その、これに懲りず、また何かあれば、いつでもいらしてください」
「はい。今度は、もっと気楽な相談で伺いますね」
女性客は、そう言って、晴れやかな笑みを浮かべながら、店を後にした。
一人残されたリリーは、しばらく呆然と椅子に座り込んでいた。
「……これは、これで、良かったのかしら」
複雑な気持ちを抱えたまま、その日の夕方、リリーはヴァンスにこの出来事を伝えた。
「そうか。……お前が正直に話したのなら、それでいい」
「気まずくなかったですか、私が名乗り出て」
「いや。むしろ、隠さずに済んで、こっちも肩の荷が下りた」
ヴァンスは、少し申し訳なさそうに続けた。
「彼女には、悪いことをしたと思っている。それでも、誤魔化さずに向き合ってもらえたなら、彼女にとっても、悪い結果ではなかったはずだ」
その言葉に、リリーは小さく頷いた。
「占いって、時々残酷だなって思います。当たった事実を、そのまま突きつけることしかできないから」
「だが、その正直さが、誰かの背中を押すこともある。今日みたいにな」
慰めるようなヴァンスの言葉に、リリーは少しだけ、救われた気がした。
当たりすぎる占いは、時に人を傷つけもする。だが、その分だけ、誤魔化さずに向き合う勇気を、誰かに分けることもできるのかもしれない。
リリーは、そんなことを考えながら、静かに店じまいの支度を始めた。




