第七話:初デートと予期せぬ依頼人
約束の日、リリーは朝からずっと、そわそわと落ち着かなかった。
「な、何を着ていけばいいのよ……」
普段は占い師らしい、ゆったりとしたローブ姿でいることが多いリリーだが、さすがに私服でのデートとなると、勝手が違う。結局、ミアに無理やり見繕ってもらった、控えめながらも上品なワンピース姿で、待ち合わせ場所へと向かった。
「――待たせたか?」
先に来ていたヴァンスが、リリーの姿を見た瞬間、僅かに目を見開いた。
「な、なにか変ですか」
「いや。……似合ってる」
不器用な褒め言葉に、リリーは思わず俯いた。
「あ、ありがとうございます……」
町の外れにできたという食堂は、こぢんまりとしているが、居心地の良さそうな雰囲気だった。案内された席に着き、他愛のない会話を交わしながら、リリーは徐々に緊張がほぐれていくのを感じていた。
「そういえば、占い以外の話をするの、初めてかもしれませんね」
「そうだな。占い抜きのお前が、どんな人間か、まだよく知らない」
「あ、案外普通ですよ。占い師っていうと、神秘的なイメージを持たれがちですけど」
「今日のその格好は、十分神秘的だと思うが」
さらっと放たれた言葉に、リリーは持っていたフォークを取り落としそうになった。
「そ、そういうこと、さらっと言わないでください……!」
「悪いか」
「悪くはないですけど、心臓に悪いです」
食事も終盤に差し掛かった頃、店の主人が、恐縮した様子で二人のテーブルに近づいてきた。
「あの、失礼します。もしかして、町外れの占い小屋の……リリー様、でいらっしゃいますか」
「え、はい、そうですけど」
「実は折り入って、ご相談がありまして。妻との今後のことで悩んでおりまして……お食事中のところ、大変恐縮なんですが」
まさかのデート先での依頼に、リリーとヴァンスは思わず顔を見合わせた。
「あ、あの、今日はプライベートなので、占いは……」
断ろうとするリリーだったが、店主の切実な表情に、つい言葉を濁してしまう。
「実は最近、妻がずっと元気がなくて。もしや、他に好きな人でもできたんじゃないかと、気が気じゃないんです」
その言葉に、リリーの中の"視てあげたい"という職業病めいた性分が、疼き始めた。
「……少しだけなら」
「リリー」
ヴァンスが、苦笑気味に口を挟んだ。
「今日くらいは、休みでいいんじゃないか」
「で、でも」
「困ってる人を放っておけない性分は、悪くないと思うが。それなら」
ヴァンスは、店主に向き直った。
「後日、正式に占い小屋の方に相談に伺うといい。今日のところは、俺たちも予約席という扱いにさせてもらえないか」
「あ……! 大変失礼いたしました! もちろんです!」
店主は何度も頭を下げながら、そそくさと下がっていった。
リリーは、少し呆気に取られながら、ヴァンスを見つめた。
「よかったんですか、あんな風に断って」
「お前の仕事に、口を出すつもりはない。ただ、今日くらいは、占い師のリリーじゃなく、俺の恋人のリリーと、ゆっくり過ごしたかっただけだ」
真っ直ぐな物言いに、リリーの顔が、また熱くなった。
「そ、そういうの、不意打ちでずるいです」
「不器用なだけだ、これでも」
食後、店を出た二人は、夕暮れの町を、並んでゆっくりと歩いた。
「今日、楽しかったです」
「ああ、俺もだ」
「また、誘ってくれますか」
「言われなくても、そのつもりだ」
夕焼けに染まる通りを歩きながら、リリーはふと、水晶玉に頼らずとも、この先の未来が、案外悪くないものになりそうな予感がしていた。
視えなくても、感じられる"当たり"もあるのだと、リリーは初めて知った気がした。




