第六話:新米恋人の距離感
「――で、結局、あれから何日経ったのよ」
数日後、店番を手伝いに来たミアが、興味津々の顔でカウンターに肘をついていた。
「五日、かな」
「進展は?」
「し、進展も何も。まだ、そんなに」
しどろもどろに答えるリリーを、ミアは呆れ顔で見つめた。
「あんたたち、両想いだって分かったんでしょ。なのに、まだ手も繋いでないの?」
「て、手を繋ぐとか、そんな急に……」
「急も何も、恋人同士なんだから、普通のことでしょ」
正論を突きつけられ、リリーは言葉に詰まった。実のところ、あの告白めいたやり取り以来、ヴァンスとは何度か顔を合わせているものの、二人きりで過ごす時間は、意外なほど少なかった。自警団の仕事が忙しいのもあるが、それ以上に――
「なんというか、お互い、変に意識しちゃって」
「初々しいこと」
からかうミアを軽く睨みつつ、リリーは占い小屋の看板を磨きながら、ぽつりと呟いた。
「占いだと、色々スラスラ視えるくせに、いざ自分のこととなると、途端に不器用になるのよね」
「それ、才能の無駄遣いって言うのよ」
そんな話をしていた矢先、店の扉が控えめにノックされた。
「ごめん、いいか」
顔を出したのは、ヴァンスだった。私服姿で、心なしか、いつもより緊張した面持ちをしている。
「ヴァンスさん! きょ、今日はどうしたんですか」
「いや、その」
ヴァンスは、珍しく歯切れの悪い様子で、懐から何かを取り出した。小さな包みだった。
「これ、渡そうと思って」
「な、なんですか、これ」
「町の外れの菓子屋で、評判の焼き菓子だ。……その、恋人に贈るには、こういうものがいいと聞いたんだが」
不慣れな様子で差し出された包みを受け取りながら、リリーは頬が熱くなるのを感じた。
「あ、ありがとうございます……」
その様子を、ミアがにやにやしながら眺めている。
「初々しいって言ったの、撤回するわ。これは末期症状ね」
「ミア!」
慌てるリリーをよそに、ヴァンスは律儀にミアにも会釈した。
「君は、リリーの友人だったな」
「はい、ミアです。花屋の娘やってます。よろしくお願いしますね、団長さん」
「ヴァンスでいい」
「じゃあヴァンスさん、これからリリーのこと、よろしくお願いします」
「ミア、勝手に話を進めないで!」
賑やかなやり取りに、ヴァンスは苦笑しながら、リリーに視線を戻した。
「今度、非番の日にでも、出かけないか。町の外れに、新しくできた食堂があるらしい」
「あ……はい、喜んで」
「よし。詳しい日程は、また改めて」
用件を伝え終えると、ヴァンスは名残惜しそうにしながらも、仕事に戻っていった。扉が閉まると同時に、リリーはカウンターに突っ伏した。
「な、なんか、思ったより緊張する……」
「初デートね、これは」
「デ、デート!? そういう括りになるの!?」
「他に何て呼ぶのよ」
ミアの指摘に、リリーは包みを胸に抱えたまま、しばらく赤面していた。
その日の夜、リリーは水晶玉を前に、いたずら心を起こしてみた。
(試しに、次のデートがどうなるか、視てみようかな……)
だが、水晶玉に手を伸ばしかけたところで、リリーは思い直したように、その手を止めた。
「……ううん。占いに頼らないって、決めたんだから」
未来を視ずに、自分の足で進んでいく。それもまた、当たりすぎる占い師にとっては、案外新鮮な挑戦なのかもしれなかった。




