第五話:占いより先に
沈黙が、思いのほか長く続いた。
リリーは、何度も口を開きかけては、言葉を飲み込むことを繰り返した。頭の中では、ミアの言葉が何度も蘇る。
(前者は事故、後者は覚悟がいるの、って言ったの、私だったわね……)
「……その」
ようやく絞り出した声は、情けないくらいに震えていた。
「占いの結果を、正直に言うと」
「ああ」
「私自身が、視えました。団長さんの、想い人として」
ヴァンスの表情に、驚きと、隠しきれない喜びが同時に浮かんだ。
「本当か」
「はい。それで、慌てて誤魔化そうとしたんです。当たった内容をそのまま言うのも、気まずいと思って」
「なぜ、気まずいんだ」
その問いに、リリーは思わず言葉に詰まった。
「そ、それは……もし外れていたら、恥ずかしいじゃないですか。占いを盾に、自分の気持ちを勝手に伝えたみたいで」
「占いが当たると、都合が悪いのか」
「悪いですよ! だって、占いに頼らず、ちゃんと自分の気持ちで答えたかったので……」
言いながら、リリーは自分の発言に、はたと気づいた。今の台詞は、つまり――
「――って、あれ? 今の、答えになってます?」
ヴァンスは、こらえきれないというように、小さく噴き出した。
「ああ、十分すぎるくらいにな」
「うわああ、待って、今のは、その、勢いで!」
慌てて訂正しようとするリリーを、ヴァンスは優しく遮った。
「勢いでも、本音は本音だろう」
「そ、それは……」
観念したように、リリーは大きく息を吐いた。
「……はい。占いの結果通りです。多分、私も、団長さんのこと、憎からず思っています」
正直に口にしてしまうと、不思議なくらい、肩の力が抜けた。これまで散々、誤魔化そうと必死になっていたのが、馬鹿らしく思えるほどに。
「団長さんじゃなくて」
ヴァンスが、静かに続けた。
「ヴァンス、でいい」
「じゃあ……ヴァンスさん」
その呼び方に、ヴァンスは満足げに頷いた。
「これからは、占いなんかに頼らず、ちゃんと本人同士で確かめ合おう。それでいいか」
「……はい」
リリーは、頬の熱を持て余しながら、小さく頷いた。
その時、店の裏口から、ひょっこりとミアが顔を出した。
「――で、結局どうなったのよ」
「みみみ、ミア!? いつからそこに!」
「最初からよ。面白い展開だったから、つい」
悪びれもせず笑うミアに、リリーは顔を真っ赤にして詰め寄った。
「盗み聞きしないでよ!」
「いやあ、これは盗み聞きする側の権利でしょ。幼馴染の一大事なんだから」
ヴァンスも、苦笑しながら口を挟んだ。
「彼女は?」
「私の幼馴染で、この件の共犯者兼、目撃者です」
「なるほどな」
ヴァンスは、愉快そうに笑いながら、リリーとミアを交互に見た。
「賑やかな占い小屋だな」
「今日だけです、たぶん」
「そうか? これから、こういう賑やかさが続く気がするが」
その言葉に、リリーはなんとなく、悪くない予感がした。
窓の外、夕暮れの光が、占い小屋の中を、いつもより少しだけ、暖色に染めていた。
当たりすぎる占いは、これからも、きっと色々な騒動を巻き起こすのだろう。だが、少なくとも今日という日の"当たり"だけは、リリー自身にとって、悪くない結末だったらしい。




