第四話:友人の恋、という体で
翌々日、占い小屋の扉が開いた瞬間、リリーの肩がびくりと跳ねた。
「ごめんください」
現れたのは、やはりヴァンスだった。今日は自警団の制服ではなく、私服姿だ。心なしか、いつもより気合の入った身なりに見える。
「だ、団長さん! 今日はどのようなご用件で」
「実は、友人に頼まれてな」
「友人、ですか」
「ああ。俺の同僚なんだが、気になっている相手がいるらしくてな。占ってやってほしいと頼まれた」
あからさまに怪しい前置きに、リリーの中で警戒心が最大限に膨れ上がった。
(絶対、それ本人でしょ……!)
「そ、その、ご友人というのは、どのような方なんですか」
「そうだな。自警団の団長を務めていて、鍛えた体つきで、精悍な顔立きだと専らの評判だ」
「団長さんの説明ですよね、それ!?」
「いや、あくまで友人の話だ」
しれっと言い張るヴァンスに、リリーは頭を抱えたくなった。この人は絶対に、確信犯でやっている。
「そ、それで、その友人さんの、恋のお相手というのは」
「占い小屋を営む、変わった娘らしい」
「……」
もはや誤魔化す余地もない設定に、リリーは乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「では、視て差し上げます……友人さんの分として」
半ば投げやりな気持ちで、リリーは水晶玉に触れた。だが、当然ながら、視える光景は先日と何も変わらない。困った顔でこちらを見つめる、水晶玉越しの自分自身。
(同じ光景しか視えないんだけど、これ、どう外し占いすればいいのよ……!)
「ど、どうだ。友人の恋は、実るのか」
「そ、それが……」
苦し紛れに、リリーは新たな作戦に打って出た。
「実は、占いを重ねすぎると、精度が落ちてしまう体質でして。この件については、もう視ることができません」
「この間も、似たようなことを言っていた気がするな」
「そ、それだけ繊細な力なんです!」
食い下がるリリーに、ヴァンスは少し考え込むような素振りを見せた後、不意に、真っ直ぐな目でこちらを見つめた。
「なあ、リリー」
「な、なんでしょう」
「その友人の話は、半分は本当で、半分は嘘だ」
心臓が、大きく跳ねた。
「ど、どういう」
「友人に頼まれた、というのは嘘だ。俺自身のことだ」
あっさりと明かされた真実に、リリーは言葉を失った。
「な、なんで、そんな回りくどいことを」
「お前が、あからさまに誤魔化そうとするからだ。真正面から聞いたら、余計に構えられそうだったのでな」
その分析は、悔しいくらいに的確だった。
「じゃ、じゃあ、なんで今、明かしたんですか」
「これ以上、遠回しにしても、お互い時間の無駄だと思ってな」
ヴァンスは、いつになく真剣な表情で、リリーを見据えた。
「単刀直入に聞く。お前の占い、本当は当たっているんじゃないか」
図星を突かれ、リリーは思わず視線を逸らした。
「そ、それは……」
「答えなくてもいい。ただ、俺は、お前がどう答えようと、もう一度ちゃんと聞かせてほしいことがある」
ヴァンスは、一度深呼吸をしてから、静かに続けた。
「占いじゃなく、リリー自身の言葉で。俺のことを、どう思ってる?」
占い小屋の中に、しんとした沈黙が落ちた。
リリーは、水晶玉に映る自分の顔と、目の前のヴァンスの顔を、交互に見比べた。誤魔化しの言葉は、もう、どこにも見当たらなかった。




