第三話:親友の指摘
「――で、結局、誰のことだったのよ」
翌日、占い小屋に遊びに来た幼馴染のミアが、カウンターに頬杖をつきながら、興味津々といった様子でリリーに詰め寄っていた。ミアは町の花屋の娘で、リリーの数少ない、事情を知る親友だった。
「な、何のこと?」
「昨日、ヴァンス団長が来たんでしょ。町中の噂よ。『団長が占い小屋に入っていくのを見た』って」
「た、ただの依頼よ。商売の相談か何か」
白々しく誤魔化そうとするリリーを、ミアはじっとりとした目で見つめた。
「リリー、あんた昔から嘘つくの下手よね。目、思いっきり泳いでるわよ」
「うっ」
図星を突かれ、リリーは思わず言葉に詰まった。ミアは、勝ち誇ったように笑うと、身を乗り出した。
「白状しなさいよ。何を占ったの」
「……恋愛相談」
「誰の?」
「……ヴァンスさんの」
「相手は?」
観念したように、リリーは小さな声で答えた。
「……多分、私」
一瞬の沈黙の後、ミアは盛大に噴き出した。
「――は!? 待って、それマジ!?」
「静かにして! お客さんに聞こえたらどうするの!」
「今誰もいないでしょ!」
ミアは、笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら、興奮気味に続けた。
「それで、なんて答えたのよ」
「……当たらない占いで有名です、って」
「はあ?」
「その相手はあまり関心がないみたいです、とも」
「あんた馬鹿なの!?」
ミアの容赦ない一喝に、リリーは思わず両手で顔を覆った。
「し、仕方ないでしょ! 当たった通りに言えるわけないじゃない!」
「なんでよ! 望み通りの展開じゃない、両想いなんでしょ?」
「り、両想いとは限らないから! ただ、視えた光景に、私が映っていただけで……!」
「それが両想いってことじゃないの? あんたの占い、百発百中なんでしょ」
正論をぶつけられ、リリーは言葉を失った。確かに、これまでの経験則からすれば、水晶玉に視えた光景は、ほぼ確実に現実になる。だとすれば、ヴァンスの想い人が自分だという事実も、覆しようがないということになる。
「……嘘でしょ」
改めてその事実を突きつけられ、リリーは頭を抱えた。
「な、なんで今更、そんな顔するのよ」
「だって、まさか、本当に……」
「あんた、まさかヴァンス団長のこと、憎からず思ってたりする?」
核心を突く問いに、リリーの顔が、かあっと赤くなった。
「べ、別に、そんなんじゃ」
「顔真っ赤よ」
「暑いのよ、今日は!」
「昨日も同じ言い訳してたって、噂で聞いたけど」
「な、なんでそれ知ってるのよ!」
「団長本人が、部下に話してたんだって。『変わってて面白い占い師だ』って、まんざらでもない顔で」
その情報に、リリーの心臓が跳ねた。
「……そ、そうなんだ」
「あんた、絶対顔に出てるわよ、今」
ミアは呆れたように笑いながら、頬杖をつき直した。
「ねえ、いっそのこと、素直に伝えたら? 誤魔化そうとするから、余計にボロが出るんじゃない」
「そんな簡単に言わないでよ。占いで本音がバレるのと、自分から気持ちを伝えるのとじゃ、全然違うんだから」
「同じようなものだと思うけど」
「違うの! 前者は事故、後者は覚悟がいるの!」
力説するリリーに、ミアはくすくすと笑いながら、肩をすくめた。
「まあ、応援はしてるから。せいぜい、次に団長が来た時は、上手く誤魔化しなさいよね」
「その言い方、応援になってないから……」
その日の夕方、リリーは占い小屋の看板をしまいながら、ふと空を見上げた。
(次、団長さんが来たら、どうすればいいのよ……)
考えれば考えるほど、答えは出ないまま、リリーの胸の内では、落ち着かない鼓動だけが続いていた。




