第二話:外し方が分からない
(落ち着け、落ち着くのよ、リリー)
内心で自分に言い聞かせながら、リリーは何とか平静を取り繕おうとしていた。だが、心臓は依然としてうるさいくらいに早鐘を打っている。
「その、視えたことは視えたんですけど」
「おお、何が視えたんだ」
ヴァンスが身を乗り出す。整った顔が思いのほか近づき、リリーは思わずのけぞった。
「ち、近いです!」
「あ、悪い」
素直に距離を取るヴァンスを見て、リリーは深呼吸を一つした。ここは、いつも通りの"外し占い"でしのぐしかない。
「視えたのは……そうですね、その相手の方は、団長さんに対して、あまり関心がないようです」
我ながら、白々しい嘘だと思った。だが、これまで散々練習してきた外し占いの成果か、声だけは驚くほど堂々としていた。
「……そうか」
ヴァンスの表情に、明らかな落胆が浮かんだ。その顔を見た瞬間、リリーの胸が、ちくりと痛んだ。
(ち、違うから! 本当は視えてないんじゃなくて、視えたものを言えないだけだから!)
「あの、でも」
思わず、リリーは言葉を続けてしまった。
「占いなんて、絶対じゃありませんから。当店の占いは、特に当たらないことで有名ですし!」
「当たらないことで有名、なのか?」
「はい! むしろ、当店の占いが当たったことは、これまで一度もございません!」
自分で自分の首を絞めるような台詞を吐きながら、リリーは内心で頭を抱えていた。さっき、商売の依頼で見事に的中させた予言のことを、すっかり棚に上げている。
ヴァンスは、しばらく考え込むように黙っていたが、やがて、ふっと表情を緩めた。
「なら、逆にもう一度視てもらってもいいか? 当たらない占いなら、気軽に頼めそうだ」
「え」
「もう少し詳しく、視てもらいたい。相手が、俺のことをどう思っているか。細かく」
まさかの追加依頼に、リリーは内心で悲鳴を上げた。
(それ以上視たら、絶対にボロが出る……!)
「い、いえ、それはちょっと」
「なぜだ。当たらないんだろう?」
正論すぎる切り返しに、リリーは言葉を詰まらせた。
「そ、それは、その……占いというのは、繰り返し行うと、運命に負荷がかかるとでも言いますか」
「初めて聞く理屈だな」
「わ、私の占いの流派では、そう伝わっているんです!」
苦し紛れの嘘に、ヴァンスは怪訝そうな顔をしながらも、それ以上は追及しなかった。
「そういうものか。分かった、無理は言わない」
ほっと胸を撫で下ろすリリーだったが、ヴァンスは立ち上がりながら、思いがけないことを口にした。
「じゃあ、占い以外で聞いてもいいか」
「な、なんでしょう」
「リリーは、その相手について、どう思う?」
「――は?」
心臓が、跳ね上がった。
「相手のこと、多分お前も知ってると思ってな。この町は狭いから」
「し、知りません! 全然! 誰のことかも分かりません!」
「まだ、誰かも言ってないんだが」
ヴァンスの指摘に、リリーは口をぱくぱくとさせた。
(ば、墓穴掘ったぁぁぁ!)
「そ、それは、その、一般論として! お、女性心理として!」
しどろもどろになるリリーを見て、ヴァンスは何かに気づいたように、僅かに目を細めた。
「……なるほど、な」
「な、なるほど、とは」
「いや、何でもない」
意味ありげな笑みを浮かべたまま、ヴァンスは代金をカウンターに置いた。
「今日はありがとう、リリー。また来る」
「あ、はい、お待ちしております……」
扉が閉まり、リリーは崩れ落ちるように、椅子に座り込んだ。
「終わった……何にも誤魔化せてない……」
水晶玉に、ぐったりとした自分の顔が映り込んでいた。占いは当たりすぎるくせに、肝心の演技力は、絶望的なほど当てにならないらしい。
窓の外、去っていくヴァンスの後ろ姿を、リリーはカーテンの隙間から、こっそりと見送った。
その口元が、思いのほか楽しげに緩んでいたことに、リリー自身は、まだ気づいていなかった。




