第一話:当たりすぎる占い師
「はい次、300クルスね」
町外れの小さな占い小屋。カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中で、リリーは水晶玉越しに、目の前の中年男性を見つめていた。
「今日のお客さんは、『商売がうまくいくか』でしたよね」
「ああ、頼むよ。最近、新しい店を出そうか迷っててな」
水晶玉に触れた瞬間、リリーの脳裏に、はっきりとした光景が流れ込んでくる。半年後、新しい店の前で、この男が満面の笑みを浮かべている姿。だが、その隣には――借金取りらしき強面の男が二人。
(うわ、見事に当たりそうだけど、これ言っていいやつ?)
リリーは、努めて明るい声で言った。
「新しい店、始めるといいと思います! ただし、資金繰りだけは、慎重に。特に、知り合いからの借入は要注意です」
「お、おう。分かった、気をつけるよ」
男は、心なしか顔を強張らせながら帰っていった。
(当たりすぎるのも、考えものよね……)
リリーの占いは、百発百中だった。原因は分からないが、生まれつき、水晶玉に触れると、相手の未来の断片が"視えて"しまう。それも、ぼんやりとした予感ではなく、驚くほど鮮明な映像として。
商売や旅立ちの相談なら、多少きわどい内容でも、オブラートに包んで伝えれば済む。だが――
「恋愛相談だけは、絶対にお断りなんだから」
リリーは、看板の隅に小さく書き足した注意書きを、指でなぞりながら呟いた。
『恋愛占いは、当店の得意分野ではございません』
理由は単純だった。恋愛の未来というのは、視えた瞬間、当事者の"今の気持ち"まで、赤裸々に流れ込んでくることが多いからだ。誰と誰が、内心どう思っているか。時には、目の前の依頼人本人すら気づいていない本音まで。
そんなものを正直に伝えれば、気まずいことこの上ない。だからリリーは、恋愛相談が来るたびに、当たり障りのない、外れた答えを返すようにしていた。
「ごめんください」
扉を開けて入ってきたのは、町の自警団を率いる青年、ヴァンスだった。鍛えられた体つきに、精悍な顔立ち。町の女性たちの間で、ひそかに人気があることを、リリーも噂で聞いていた。
「あら、団長さん。今日はどういったご相談で」
「実は……」
ヴァンスは、珍しく歯切れの悪い様子で、頬を掻いた。
「最近、ちょっと気になっている相手がいてな。その、脈があるかどうか、占ってもらえないかと思って」
リリーの背筋に、嫌な予感が走った。
「あの、恋愛のご相談は、当店ではあまり当たらない――」
「いいんだ、当たらなくても。話を聞いてほしいだけだから」
ヴァンスは、真剣な顔で続けた。
「相手は、いつも忙しそうにしていて、なかなか本音が見えない人でな。占いなんて、正直半信半疑なんだが……藁にもすがる思いだ」
断りきれない空気に押され、リリーは渋々、水晶玉に手を伸ばした。
「では、少しだけ、視てみますね」
触れた瞬間、リリーの脳裏に、鮮明な光景が流れ込んできた。
薄暗い占い小屋。カーテンの隙間から差し込む光。水晶玉を挟んで向かい合う、ヴァンスと――誰あろう、水晶玉の向こうから、困った顔でこちらを見つめる、リリー自身の姿。
「――え」
リリーは、思わず水晶玉から手を離した。
「どうした? 何か視えたのか」
「い、いえ! 何も! 全く! これっぽっちも!」
あからさまに動揺するリリーを、ヴァンスは怪訝そうに見つめた。
「顔、真っ赤だぞ」
「気のせいです! 暑いだけです!」
窓の外は、初夏とはいえ、まだ肌寒い陽気だというのに。




