第十話:収穫祭の夜
収穫祭当日、町の広場は、朝から賑やかな熱気に包まれていた。
「うわあ、こんなに人が多いの、久しぶりに見ました」
出店の並ぶ広場を歩きながら、リリーは目を輝かせていた。普段は占い小屋に籠りきりの生活のため、こういった賑わいに触れる機会は、そう多くない。
「はぐれるなよ」
隣を歩くヴァンスが、さりげなく手を差し出してきた。リリーは一瞬躊躇いながらも、その手を取った。
「……あったかいですね」
「そうか?」
「はい」
繋いだ手から伝わる体温に、リリーは密かに幸せを噛み締めていた。
祭りの広場には、様々な出店が並んでいた。焼き菓子、串焼き、輪投げ、そして――
「あら、占いの屋台まで出てるんですね」
一角に、簡易的な占い台を出している旅の占い師の姿があった。行列ができるほどの盛況ぶりだ。
「行ってみるか?」
「私、占い師なので、他の方の占いって、なんだか新鮮です」
二人で列に並び、順番を待つ。順番が来ると、旅の占い師は、水晶玉ではなく、カードを使った占いを見せてくれた。
「お二人の関係、拝見しますね……ふむ、これは」
占い師は、カードを繰りながら、意味深に微笑んだ。
「深い信頼で結ばれた、良いご関係ですね。これから先も、末永く続くでしょう」
当たり障りのない、いかにも祭りの余興らしい占い文句に、リリーは思わず苦笑した。
(当たっているかどうかは、正直分からないけど……悪い気はしないわね)
占いを終え、屋台を離れながら、ヴァンスがぽつりと言った。
「お前の占いとは、随分違うんだな」
「そうですね。あちらは、雰囲気を楽しむための占いです。私のは、その、なんというか……事故みたいなものなので」
「事故、か」
「はい。視たくなくても、視えちゃうので」
「それも含めて、お前らしいと思うが」
さらりと告げられた言葉に、リリーはまた頬を熱くした。
日が暮れる頃、広場の中央で、盛大な花火が打ち上げられ始めた。夜空を彩る光の粒に、集まった人々から、歓声が上がる。
「綺麗ですね」
「ああ」
花火を見上げながら、リリーはふと、ヴァンスに問いかけた。
「これから先のこと、私、占いで視ようとは思いません」
「急にどうした」
「視えてしまう未来より、視えないまま、二人で作っていく未来の方が、きっと楽しいと思ったので」
その言葉に、ヴァンスは静かに微笑んだ。
「悪くない心がけだ」
「でしょう?」
「ああ。……それに」
ヴァンスは、繋いだ手に、少しだけ力を込めた。
「視えない未来だからこそ、しっかり掴んでおかないとな」
花火の光に照らされた二人の影が、寄り添うように長く伸びていた。
当たりすぎる占い師の恋は、こうして、賑やかな祭りの夜に、新しい一歩を踏み出したのだった。
――そしてこの調子だと、この先も、当たりすぎる占いのせいで、色々な騒動が巻き起こることになりそうだが、それはまた、別のお話。




