第十一話:町長の隠しごと
収穫祭から数日後、占い小屋に、思いがけない客が訪れた。
「これはこれは、町長様がじきじきに」
恰幅の良い中年男性――この町の町長が、やや落ち着かない様子で、店の奥をきょろきょろと見回していた。
「ちょ、ちょっと、内密に頼みたい相談があってな」
「かしこまりました。どのようなご相談でしょう」
「実は、来年の町の予算配分について、迷っていることがあってな。占いで、うまくいく方を教えてほしいんだ」
もっともらしい相談内容に、リリーは表向き、真面目な顔で頷いた。
「では、視てみますね」
水晶玉に触れた瞬間、リリーの脳裏に流れ込んできたのは――予算配分の未来などではなく、町長が、こっそり町の公金を使って、愛人に贈り物を買っている光景だった。
(え、これ、予算相談じゃなくて、完全に不正の証拠じゃない……!?)
内心で盛大に動揺しながらも、リリーは表情を崩さないよう、必死に取り繕った。
「あ、あの、町長様。予算配分について、視えたことをそのままお伝えしてもよろしいでしょうか」
「お、おう、頼む」
「その……予算の使い道、今一度、しっかりと見直された方がよろしいかと思います。特に、私的な支出と、公的な支出の区別を、明確にされることをお勧めします」
遠回しに釘を刺すリリーに、町長の顔が、みるみる青ざめていった。
「な、なぜ、そのようなことを」
「占いに、そのように視えましたので」
「……もしや、視えたのは、それだけか」
「他には、特に何も」
白々しい嘘をつきながら、リリーは内心で冷や汗をかいていた。町長の反応から察するに、図星だったのは明らかだ。
町長は、しばらく黙り込んだ後、深いため息をついた。
「……分かった。占い師殿の忠告、肝に銘じておこう」
そう言って、逃げるように店を出ていった町長の背中を、リリーは複雑な気持ちで見送った。
その日の夕方、店を訪れたヴァンスに、リリーはこの出来事を、やんわりとぼかしながら伝えた。
「――というわけで、町長さんに、それとなく釘を刺しておいたんです」
「なるほどな。町長の使い込みの噂は、実は前々からあった」
「え、知ってたんですか」
「噂程度にはな。だが、確たる証拠がなく、動きようがなかった」
ヴァンスは、考え込むように顎に手を当てた。
「今回のことで、少しは大人しくなってくれるといいんだが」
「大事にならなければいいんですけど」
「お前が直接告発するわけじゃない。忠告した、というだけなら、問題はないだろう」
「そうだといいんですが……」
数日後、町長は自ら、これまでの不明瞭な支出について、町議会に報告を行ったという噂が流れてきた。多少の混乱はあったものの、大きな騒動にならずに済んだようだった。
「よかった、大事にならなくて」
胸を撫で下ろすリリーに、ヴァンスは労うように微笑んだ。
「お前の占い、時々、こういう形で町の役に立っているんだな」
「そんな大層なものじゃ……ただ、視えたものを、伝えているだけです」
「それが、案外大事なことなんだと思うぞ」
その言葉に、リリーは少しだけ、誇らしい気持ちになった。
当たりすぎる占いは、時に厄介ごとを運んでくる。だが、使い方次第では、誰かの背中を押したり、時には町全体を、ほんの少し良い方向へ導いたりもできるのかもしれない。
そんなことを考えながら、リリーは今日も、占い小屋の看板を、丁寧に磨いていた。




