第十二話:団長の母、現る
ある日の午後、占い小屋に、見覚えのない年配の女性が訪れた。上品な身なりだが、どこか鋭い眼光が、リリーを緊張させる。
「あなたが、リリーさん、ね」
「は、はい、そうですが……失礼ですが、どちら様で」
「ヴァンスの母です」
その一言に、リリーは思わず背筋を伸ばした。
「だ、団長さんの、お母様!」
「あの子から、話は聞いています。占い師と付き合っているとかで」
女性――ヴァンスの母は、店内をゆっくりと見回しながら、値踏みするような視線をリリーに向けた。
「占ってもらいましょうか。息子との相性を」
まさかの申し出に、リリーは内心で悲鳴を上げた。
(こ、これは、絶対に手加減できない依頼だわ……!)
「あ、あの、その、占いというのは、あくまで参考程度のもので」
「構いません。当たっても、外れても」
有無を言わせぬ迫力に押され、リリーは渋々、水晶玉に手を伸ばした。
視えたのは――何年も先の未来、小さな子供を挟んで、笑い合うリリーとヴァンス、そしてその孫を、目を細めて見つめる、目の前の女性の姿だった。
「――え」
思わず声を漏らすリリーに、ヴァンスの母は、怪訝そうに眉を寄せた。
「何か、視えたのですか」
「そ、その」
正直に言っていいものか迷いながらも、リリーはおずおずと口を開いた。
「随分と先の未来まで、視えてしまいまして」
「先の未来、とは」
「その……お孫さんを、囲んでいる光景、というか」
途端に、ヴァンスの母の表情が、大きく崩れた。
「まあ! それは本当ですか!」
「は、はい、視えた限りでは」
「ヴァンスったら、そんな話、一言も」
先ほどまでの鋭い雰囲気が嘘のように、ヴァンスの母は、両手を合わせて喜びを露わにした。
「これは、しっかりご挨拶させていただかないと」
急に態度が軟化した様子に、リリーは戸惑いながらも、ほっと胸を撫で下ろした。
そこへ、店の外から、ヴァンスが慌てた様子で駆け込んできた。
「母上、まさかここに来ているとは思わず……!」
「あら、ヴァンス。ちょうど良いところに。将来のお嫁さんと、良いお話ができましたよ」
「よ、嫁って、気が早すぎます!」
慌てふためくヴァンスを見て、リリーは思わず小さく笑ってしまった。
「あら、リリーさんも、まんざらでもなさそうですよ」
「か、母上!」
「冗談です。今日のところは、これで失礼しますね。改めて、お茶にでも誘わせてください、リリーさん」
そう言い残し、ヴァンスの母は、上機嫌な様子で店を後にした。
嵐のような来訪者が去った後、店内には、気まずい沈黙が漂っていた。
「……すまない、うちの母が」
「い、いえ。優しい方みたいで、安心しました」
「言葉通りに受け取ると、危険な人でもある。気に入られると、色々と話を進めたがる性分でな」
「な、なるほど……」
「今回みたいに、占いで先の未来まで視えると、余計にな」
その指摘に、リリーは、はたと気づいた。
「あ、あの、さっきの占い、本当に視えたものなので、その、私が煽ったわけじゃ」
「分かってる。だが」
ヴァンスは、少し照れくさそうに、頬を掻いた。
「その光景が、本当に視えたのなら――俺としては、悪くない未来だと思うが」
不意打ちの言葉に、リリーの顔が、またしても真っ赤に染まった。
「そ、そういうこと、いきなり言わないでください……!」
「悪いか」
「心臓に悪いです、本当に」
窓の外、夕暮れの光が差し込む中、リリーは慌てふためきながらも、密かに幸せを噛み締めていた。
当たりすぎる占いは、時に、こんな風に、思いがけない未来まで、先取りして見せてくれるらしい。
それが、少し照れくさくて、けれど確かに、嬉しい"当たり"だった。




