第十三話:ミアの番
「ねえ、リリー。今日は、私の番よ」
ある日の閉店間際、いつものように店に居座っていたミアが、珍しく神妙な顔で切り出した。
「え、ミアの番って?」
「占ってほしいの。私の、恋の行方を」
意外な申し出に、リリーは思わず目を丸くした。これまで、さんざんリリーの恋路をからかってきたミアが、まさか自分から相談を持ち掛けてくるとは。
「ミアに、気になる人がいたの? 初耳なんだけど」
「まあ、色々あるのよ、こっちにも」
歯切れの悪い様子から察するに、よほど言い出しにくい相手なのだろう。リリーは、努めて優しい声で促した。
「相手、教えてくれる?」
「……肉屋のダレンさんよ」
「ダレンさん!? あの、いつも無愛想な感じの?」
「無愛想なだけで、悪い人じゃないのよ! むしろ、不器用なだけで」
思いがけない名前に驚きつつも、リリーは真剣な表情に切り替えた。
「分かった。視てみるね」
いつもの茶化した空気とは違う、真剣な依頼に、リリーも姿勢を正す。水晶玉に触れると、鮮明な光景が流れ込んできた。
肉屋の店先、不器用な手つきで、花束を差し出すダレンの姿。その隣で、驚きながらも、嬉しそうに笑うミアの姿。
「――視えた」
「ど、どうだった?」
リリーは、水晶玉から視線を上げると、ミアを真っ直ぐに見つめた。
「ダレンさんから、近いうちに、想いを伝えられると思う。それも、不器用な感じで、花束を持って」
「――え、ほんとに!?」
ミアの声が、思わず裏返った。
「うん、はっきり視えた。だから、心の準備をしておいた方がいいかも」
「う、うそ、心臓に悪いんだけど」
これまで、さんざんリリーをからかってきた張本人が、今度は自分が慌てふためく番になり、リリーは思わず笑ってしまった。
「あんたが動揺するの、初めて見たかも」
「し、仕方ないでしょ! まさか本当に、当たるなんて!」
「私の占い、百発百中だって、何度も言ったじゃない」
「言葉で聞くのと、実際に自分のことで体験するのとじゃ、全然違うのよ!」
ミアの言い分に、リリーは深く頷いた。まさに、自分がヴァンスの一件で味わった気持ちそのものだった。
「これで、ちょっとはあの時の私の気持ち、分かったでしょ」
「……うん。ごめん、散々からかって」
「いいのよ。それより、心の準備、しっかりしておきなよ」
数日後、町中の噂で、肉屋のダレンが、ぎこちない様子で花束を持ち、ミアに想いを伝えたという話が広まった。
「――で、結果は?」
興味津々のリリーに、ミアは頬を赤らめながら、小さく頷いた。
「……お付き合いすることになりました」
「おめでとう!」
「あんたのおかげよ、心の準備ができてたから、変な反応しないで済んだし」
「そう言ってもらえると、占い師 冥利に尽きるわ」
二人で顔を見合わせて笑い合う。これまで散々からかわれてきた分を、少しだけ取り返せたような、そんな気分だった。
「これからは、あんたと私、お互いに恋バナし放題ね」
「そ、それは、ちょっと恥ずかしいけど……まあ、いいか」
夕暮れの占い小屋に、二人の笑い声が、いつまでも響いていた。
当たりすぎる占いは、今度は、大切な友人の背中を、そっと押す力になったらしい。それもまた、リリーにとって、悪くない"当たり"の使い道だった。




