第十四話:流れの占い師
ある日、町に、旅の占い師を名乗る、派手な衣装の男が現れた。
「皆様! この私、大占術師ガロンが、どんな未来もズバリ言い当てて御覧に入れましょう!」
広場に陣取り、大声で客を呼び込む様子は、いかにも見世物じみていた。だが、口上の巧みさに釣られてか、それなりの人だかりができている。
「――で、なんでこの話が、うちに?」
翌日、店を訪れたミアから、リリーはその噂を聞かされていた。
「実はさ、そのガロンって人、あんたのこと知ってるみたいなのよ」
「私のこと?」
「なんか、『この町には、当たりすぎる占い師がいると聞いた。真の占術師として、勝負を挑みたい』とか言ってるらしいわよ」
「……なんで、そんな展開に」
嫌な予感を抱きつつも、リリーはひとまず、様子を見に行くことにした。
広場に着くと、噂通り、ガロンと名乗る男が、朗々と口上を述べていた。
「――さあさあ、そこな娘さん。噂の当たりすぎる占い師とは、あなたのことかな?」
いきなり指名され、リリーは思わずたじろいだ。
「え、あ、はい、そうですが」
「これは良いところに! ぜひ、この私と、占いの真剣勝負をしようではないか!」
周囲の人だかりが、俄かにざわめき始める。断りにくい空気に押され、リリーは渋々、勝負を受けることになった。
「では、そこの若い衆。前に出てくれ」
ガロンに指名されたのは、たまたま通りかかった、見覚えのない青年だった。ガロンは、水晶玉ではなく、大仰な身振りで、青年の手相を占い始めた。
「ふむ……あなたは近々、大きな商談を成功させるでしょう! そして、遠方から届く手紙が、吉報をもたらす!」
もっともらしい口上に、周囲から拍手が起こる。だが、リリーには分かった。あれは、誰にでも当てはまりそうな、いわゆる"当たり障りのない占い"だ。
「さあ、では次は、当たりすぎる占い師殿の番だ」
リリーは、緊張しながらも、同じ青年の手を取った。触れた瞬間、鮮明な光景が流れ込んでくる。
「……あなたは、来週、恋人に別れを切り出されます。理由は、あなたが、彼女の誕生日を、二年連続で忘れたことです」
会場が、しんと静まり返った。
「な――なぜ、それを!」
青年の顔が、みるみる青ざめる。図星だったらしい。
「今からでも、謝りに行った方がいいと思います。花か、何か、彼女の好きなものを持って」
呆然とする青年をよそに、周囲からは、どよめきと共に、感嘆の声が上がった。
「す、すげえ、本当に当たってるじゃねえか」
「あの旅の占い師より、よっぽど的確だぞ」
思わぬ形で、リリーの占いの正確さが、白日の下に晒されることになった。ガロンは、明らかに顔色を悪くしながら、それでも虚勢を張るように声を上げた。
「そ、それはただの偶然! 占いというのは、もっと大局を語るものだ!」
「偶然にしては、随分と具体的でしたけどね」
冷静に切り返すリリーに、ガロンはぐうの音も出ない様子だった。結局、その場に居合わせた自警団の一人――偶然通りかかったヴァンスが、事態の収拾に入った。
「客寄せの余興は結構だが、無許可での大道芸は、届け出が必要だ。手続きを踏んでいただけますかな」
「う、うう……失礼した」
ガロンは、そそくさと荷物をまとめ、逃げるように町を後にしていった。
「……なんか、とんでもない騒動になっちゃいましたね」
肩をすくめるリリーに、ヴァンスは苦笑した。
「お前の占いの評判、また上がりそうだな」
「あんまり、目立ちたくはないんですけど」
「無理だろう、それは。もう十分、町の名物になってる」
その日の夜、ミアが興奮気味に、リリーの店に駆け込んできた。
「聞いたわよ! 旅の占い師をやり込めたんだって!?」
「や、やり込めたっていうか、成り行きで……」
「あんた、本当にすごいわよ。もっと自信持ちなさいよ」
からかい半分、本気半分のミアの言葉に、リリーは苦笑しながらも、少しだけ誇らしい気持ちになっていた。
当たりすぎる占いは、時に厄介事を呼び込みもするが、こうして、思いがけない形で、自分の力を認めてもらえる瞬間もあるのだと、リリーは静かに実感していた。




