第十七話:結婚式場選びの災難
婚約の噂は、例によって、あっという間に町中に広まった。
「おめでとう、リリー! いつ式を挙げるの!?」
「衣装はどうするの、見立ててあげようか!」
町中の人々が、まるで自分のことのように喜び、次々と祝いの言葉と共に、様々な提案を持ち込んでくる。ありがたい反面、その勢いに、リリーはやや押され気味だった。
「――で、結局、式場はどこにするか、決まったの?」
いつものように店に居座るミアが、興味津々に尋ねてきた。
「それが、まだ全然。ヴァンスさんと相談してるところ」
「相談って、具体的には?」
「町の教会にするか、それとも、広場で盛大にやるか、とか」
「あんたの占いで、視ちゃえばいいじゃない。どっちがうまくいくか」
ミアの何気ない提案に、リリーは思わず苦笑した。
「それは、ちょっと違うと思う」
「なんで? 便利じゃない」
「便利かもしれないけど……結婚式って、うまくいくかどうかより、二人がどうしたいか、が大事な気がするから」
その答えに、ミアは、意外そうな顔をした後、感心したように頷いた。
「あんた、本当に変わったわね」
「そうかな」
「前だったら、絶対『視た方が早いじゃない』とか言いそうだったのに」
その指摘に、リリーは、思わず自分でも驚いた。確かに、以前の自分だったら、迷わず水晶玉に手を伸ばしていたかもしれない。
その日の夕方、店を訪れたヴァンスと、改めて式場について話し合うことになった。
「教会か、広場か、まだ決めかねているんですが」
「そうだな。……いっそ、両方の場所を、実際に見てから決めないか」
「見に行くんですか」
「ああ。想像だけで決めるより、実際に足を運んだ方が、しっくりくるものが見つかる気がしてな」
翌日、二人は連れ立って、まずは町の教会を訪れた。厳かな雰囲気の礼拝堂は、確かに結婚式らしい格式を感じさせる。だが――
「なんというか、ちょっと、堅苦しい気もしますね」
「そうだな。俺も、少し肩が凝る気がする」
続いて、町の広場を訪れると、賑やかで開放的な雰囲気に、二人は思わず顔を見合わせた。
「こっちの方が、私たちらしい気がします」
「ああ、俺も同感だ」
「でも、天候が心配ですね。当日、雨だったらどうしましょう」
そう漏らした瞬間、リリーは、はっと口をつぐんだ。ほとんど反射的に、水晶玉で天気を視ようとしてしまったことに、自分で気づいたからだ。
「……今、視ようとしただろう」
見透かしたように言うヴァンスに、リリーは苦笑いを浮かべた。
「つい、癖で」
「無理に我慢しなくてもいい。天気くらいなら、視ても」
「いえ」
リリーは、きっぱりと首を振った。
「当日の天気がどうであれ、その日を、精一杯楽しめばいいだけの話です。雨なら雨で、それはそれで、思い出になりますし」
その答えに、ヴァンスは、満足げに微笑んだ。
「良い心がけだ」
「でしょう?」
結局、二人は、町の広場で式を挙げることに決めた。準備には、まだまだ時間がかかりそうだったが、少しずつ、二人だけの特別な一日を作り上げていく過程そのものが、リリーにとって、これまでにない、新鮮な喜びになっていた。
視えない未来を、一つずつ、自分たちの手で形にしていく。それもまた、当たりすぎる占い師にとっては、案外似合いの生き方なのかもしれなかった。




