第十八話:雨の結婚式
結婚式当日の朝、リリーが目を覚ますと、窓の外には、しとしとと雨が降り注いでいた。
「……よりによって、今日」
思わず苦笑が漏れる。だが、不思議と、気持ちは沈んでいなかった。あの日、丘の上で交わした言葉を、リリーは静かに思い出していた。
(雨なら雨で、それはそれで、思い出になる、って言ったのは、私自身だものね)
支度を整え、控室で待っていると、慌ただしくミアが飛び込んできた。
「大変よ、雨! どうする、式、延期する!?」
「ううん、このまま続けるわ」
「でも、広場が濡れちゃうし、お客さんも大変じゃない」
心配するミアに、リリーは穏やかに微笑んだ。
「大丈夫。きっと、これはこれで、素敵な式になると思うから」
半信半疑のミアを他所に、控室の外からは、既に人々の賑やかな声が聞こえてきていた。町の人々が、雨具を手に、それでも広場に集まってきているらしい。
「なんだか、皆さん、雨でも来てくれているみたいですね」
「そりゃそうよ。町中が、あんたたちの結婚を、心待ちにしてたんだから」
支度を終え、控室を出ると、雨除けの天幕の下、真新しい礼装に身を包んだヴァンスが、リリーを待っていた。
「……綺麗だ」
その一言に、リリーは頬を染めながら、小さく笑った。
「雨、降っちゃいましたね」
「そうだな」
「気にしませんか」
「全く。むしろ」
ヴァンスは、雨に濡れる広場を見渡しながら、静かに続けた。
「これだけの人数が、雨の中でも集まってくれた。それだけで、十分すぎるくらいだ」
天幕の下、簡素ながらも、心のこもった式が執り行われた。町長――先日の一件以来、すっかり神妙な様子になった彼が、司式を務めてくれた。集まった町の人々は、雨具の下から、皆一様に、温かい笑顔を向けている。
誓いの言葉を交わす段になり、リリーは、ふと目を閉じた。
(視なくて、良かった)
もし事前に、この雨の日を視てしまっていたら、きっと今ほど、この瞬間を、純粋に味わうことはできなかっただろう。
「誓います」
ヴァンスの声に続き、リリーも、はっきりと答えた。
「誓います」
雨の音に紛れて、集まった人々から、盛大な拍手と歓声が上がった。
式の後、雨も次第に小降りになり、やがて、雲間から柔らかな光が差し込み始めた。
「――あ、虹!」
誰かの声に、皆が空を見上げる。雨上がりの空に、大きな虹が、くっきりと架かっていた。
「これは、私が占わなくても、はっきり視えますね」
「なんだ、それは」
「幸せな未来、ってやつです」
笑い合う二人の頭上に、虹は、いつまでも変わらず、静かに輝き続けていた。
当たりすぎる占い師の恋は、こうして、視えない未来の先に、確かな幸せを見つけたのだった。
(結婚編・完)




